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WHOの事務局長が宣言したら「パンデミック」!? 定義がないことの危険性

2023年12月12日、「超党派WCH議員連盟(仮称)第2回総会」が開催されました。国会議員が党派を超えて、WHOのパンデミック条約やIHR改正の危険性について声をあげようという連盟です。今回も議員だけでなく、有識者、外務省と厚労省から担当部署の職員が参加しました。

IHR第59条の改正 日本は拒否したのか?

11月15日に開催された設立総会については、下記の記事で取り上げました。

その中でも質問がありましたが、「2022年5月に採択された改正(※)への拒否」(拒否期限は12月1日)については、厚労省から下記の回答がありました。
※「IHR改正の拒否または留保の期間」が18ヶ月から10ヶ月に短縮され、改正の施行が24ヶ月後から12ヶ月後に短縮。

有識者として参加していた及川幸久氏が質問し、厚労省が回答しました。

結論から申し上げますと、改正したものに対して拒否または留保はしていません。理由は、できるだけ早く世界がパンデミックに対応できるようにというような趣旨です。

厚労省回答

今回も、藤江成光氏が質問ごとに短く編集してくださっています。

予想通りですが、日本は拒否も留保もしなかったということです。

総会の冒頭で原口一博議員から説明がありましたが、前回の動画から厚労省や外務省の職員への個人攻撃があったそうなので、今回、職員の方たちの撮影はNGとなっています。

<全編>


パンデミックの定義

今回、もっとも注目すべきことは、「パンデミック」の定義です。下記は、約16分の動画です。全部で1時間ちょっとの勉強会でしたが、この部分だけでもぜひ見てください。皆さん、呆れて笑ってしまっています。

下記は、阿部知子議員の質問に対する厚労省の回答です。

今回のコロナでは、確かにWHOの事務局長が「パンデミック」ということを言ったかと思うんですけれども、正式にWHOの中でパンデミックを宣言するような手続きというものはございません。同時に、パンデミックの定義というものも、今のところWHOの中で決定はしていません。なのでそれも踏まえて、パンデミックというものをどういった定義にするかということが今議論されているという認識です。

厚労省回答

動画でも、現場の「ざわざわ、ざわざわ」感がすごいです。

続く外務省の回答にあった「5ページの(e)」は、この部だと思います。

(e) “pandemic” means the global spread of a pathogen or variant that infects human populations with limited or no immunity through sustained and high transmissibility from person to person,
overwhelming health systems with severe morbidity and high mortality and causing social and economic disruptions, all of which require effective national and global collaboration and coordination for its control;

https://healthpolicy-watch.news/wp-content/uploads/2023/10/advance-DRAFT_Negotiating-Text_INB-Bureau_16-Oct-2023.pdf

これについては、阿部議員よりも前に、有識者として参加している吉野敏明氏から質問が出ていました。

以下、質問の一部です。

この原文を見てみると、「economic disruptions」と書いてあるんです。「経済的に立ち行かなくなった時をパンデミックという」という言葉が付け足されているわけですよ。こんなのは科学者から言ったら意味がないことです。

吉野敏明氏

きちんと定義されてもいない「パンデミック」に関する決まりを、国民が選んでもいない人たちが決めようとしてるのです。

すでに、ずいぶん話し合いが進んでいます。そして、もうあまり時間がありません。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100559301.pdf

1本目の動画で語られていたことでもう1点重要なことは、IHR改正とパンデミック条約が表裏一体であることです。

有識者として参加していた深田萌絵氏は、IHR改正案の第3条で、「個人の尊厳、人権、基本的自由を十分尊重して」という文言が削除されるような案が出ていることを指摘しました。

法律で理念が決まると、実質の運用はガイドラインで決まって運用されていくわけなので、こうやってパンデミック条約では基本的人権を尊重しているよと言いつつ、その運用規則の方で人権を尊重するという文言が削除されてるっていうのは、ちょっと矛盾してるという風に思いました。

深田萌絵氏

阿部知子議員も、下記のように指摘しました。

IHR国際保険規則の改正については、武見厚労大臣が「こっちの方は問題ないでしょう。パンデミック条約については主権がありますからね」って委員会で答えられたんですけれども、実はもう表裏一体で進んでいて分けられないと思うんです。

特にガバナンスというか、誰がパンデミックと決めてどのような規制をかけていくかということは、みんなIHRにかかっているので、そちらだけ先に議論してしまって、抜け殻になったパンデミック条約では非常に主権も抽象的な言葉です。主権、主権と言っても誰も「主権を侵害してる」なんて言いっこないんですよ。「主権は守られています」と言いながら、それを脅かすことが心配されるのです。

阿部知子議員

武見厚労大臣の発言についてよくわからなかったので、該当すると思われる委員会の動画を調べてみました。

12月6日 衆議院厚生委員会
下記の動画は長いですが、これに関する大西健介議員の質疑から開始されるように設定してあります。

武見厚労大臣の答弁

ご指摘のInternational Health Regulations(IHR)については、かねてから緻密にかなりのルール化が現実にあって、例えばもっと小規模で感染症が発生した場合に、その報告義務を各国に課するといったようなきめの細かいルール化が現実にできております。問題は、実際に参加をしている国々がどこまでそのルールに忠実に対応して、こうした感染症などについてもより早い時期に報告をして、各国が協力して対処できるようにするかというところが課題でありました。

今回もInternational Health Regulations(IHR)を通じてこうした法執行能力の強化が実際に今進められようとしています。他方で、そういうやり方では生ぬるい、もっときちんとしたタバコ枠組条約と同じような形でこうしたパンデミック条約を策定して、メンバー国がより義務を法的に負った形で、これからのリスクの高い感染症の時代に対応していこうというのがパンデミック条約の考え方であります。

この点に関しては、実際に委員ご指摘の通り、どこまで主権国家としての立場と関わりを持つことになるのかという点について、極めて厳しい議論が行われておりまして、International Health Regulationsの強化の方についてはおそらく最終的な合意はできるだろうと私は思っております。けれども、パンデミック条約の方については、最終的にメンバー国がこの合意に達するということはそう簡単ではないと私は見ております。

武見厚労大臣

阿部議員が言っていたのは、武見大臣は「IHR改正は合意できると思うが、パンデミック条約は主権について厳しく議論していて合意できない可能性があると言っていた」ということではないかと思います。

合意できない可能性については、ステークホルダーたちの反応からもわかります(下記参照)。

もしこちらが合意できないとなると、「パンデミック条約の方でちゃんと認められているから大丈夫」とはいえないということです。IHR単独でも、しっかりと認められている必要があるということになります。


WHOが考える「誤情報」とは?

もう1点、この総会で注目すべきは「誤情報」の定義です。

須藤元気議員が「パンデミック条約」第18条のパンデミックに関するデマや誤情報の防止について、「何をベースにデマや誤情報を位置づけているのか」という質問をしました。

DRAFT Advanced unedited version - 16 October 2023

https://healthpolicy-watch.news/wp-content/uploads/2023/10/advance-DRAFT_Negotiating-Text_INB-Bureau_16-Oct-2023.pdf

外務省の回答にでてきた1つ前の案。

1つ前の草案テキスト(Draft Bureau’s Text of the WHO CA+)

外務省職員が「abcd」と言っているのは、これのことだと思います。

DRAFT Bureau’s text of the WHO CA+ 22 May 2023


DRAFT Bureau’s text of the WHO CA+ 22 May 2023

外務省の回答はまわりくどくてよくわからなかったのですが、これらを読む限り、誤情報の定義は書かれていません。

前回の記事(下記参照)で取り上げましたが、WHOがオブザーバーとなっているICMRAでは、コロナワクチンに関する虚偽情報として下記の見解を出しています。


2023年6月26日出されたステートメント

COVID-19ワクチンの安全性に関する虚偽情報

COVID-19ワクチンに関する虚偽の情報により、必要なワクチンの接種を避けてしまった場合、死亡や重篤な疾患につながる可能性がある。ソーシャルメディア上では、COVID-19に関する虚偽の情報 (意図しないもの(誤情報)及び意図したもの(偽情報)ともに)が拡散されているため、情報は信頼できる情報源(医療従事者、科学的な根拠のある情報源、国の薬事規制当局)から取得することが重要である。

ワクチンの安全性データベースで報告された死亡事例の数や疑われる副反応の症例数について誤った解釈をしている人もいる。ワクチン接種を受けた人に有害事象や死亡が発生したということがすなわち、そのワクチンが原因であるという意味ではない。規制当局は、因果関係を示すシグナルがあるかどうかを判断するために、これらの医薬品の使用後に発生した有害事象の報告を評価し、もしシグナルが検出された場合は適切な措置を講じる。

ソーシャルメディア上には、COVID-19ワクチンが超過死亡の原因であるとする誤った主張も載っている。パンデミックが始まって以来、死亡者数が例年の予想される死亡者数と比較して増加した国が多いが、超過死亡率のピークがパンデミックのピークと一致する新規ウィンドウで開くことから、超過死亡数とCOVID-19との因果関係は明らかである。特に、超過死亡率が最高のピークに到達したのは、2020年の、まだワクチンが入手できなかった当時、初期の頃のCOVID-19のピーク時であった。死亡率の増加はCOVID-19と関連しているが、COVID-19ワクチンが超過死亡率を引き起こしているというエビデンスはない。実際は、COVID-19ワクチンは何百万人もの命を救ってきた。

ソーシャルメディア上には、COVID-19ワクチンが免疫障害を引き起こし、これが小児を含め、他の多くの種類の感染症を急増させているという誤った情報が流布されている。COVID-19ワクチンの接種が免疫障害を引き起こすことを示すエビデンスはない。実際は、SARS-CoV-2の感染が免疫障害を引き起こすことが知られている。特に、重度のCOVID-19感染者では、リンパ球の減少に苦しむ患者が非常に多く、またCOVID後遺症を有する患者においても同様である。さらに、SARS-CoV-2の感染が糖尿病などを含む多くの自己免疫疾患を引き起こす可能性があると報告している研究が多数ある。

また、血栓や脳卒中のような深刻な健康上の問題が、mRNAワクチンの接種に起因しているとする虚偽情報もあるが、これらはSARS-CoV-2の感染の既知の合併症であり、ワクチンはこのような重度のCOVID-19合併症を予防する。

ワクチンに関する情報源が、信頼できるものであり、最新の研究結果を踏まえていることを確実にすることが重要である。信頼できる情報源として、医療従事者、科学的な根拠のある情報源、薬事規制当局および公衆衛生当局が挙げられる。

COVID‐19ワクチンの安全性に関する虚偽情報は危険であり、近年ますます問題となっているワクチン接種忌避の一因となり得る。また、通常行われているその他の、命を救う小児期の予防接種に対する信頼にも影響を及ぼしかねない。

ICMRAは、COVID-19ワクチンの安全性と、COVID-19がもたらす重度の疾病からあらゆる年齢層の人々を守る上での利点を強く支持している。

https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/icmra/0029.html

これらは、あまりにも現実とかけ離れています。現場で治療をしている医師ならば、これらが虚偽ではないことは、もうわかっているはずです。

過去には、以前取り上げたデング熱ワクチンの事例もあります。2016年にフィリピンで、新しいワクチンの接種キャンペーンが行われたときの事例です。

50年以上デング熱を研究してきたアメリカのウイルス学者Scott Halstead氏は、新しいワクチン「Dengvaxia」の臨床試験における安全性に関するデータを見て、問題があることに気づいて指摘しました。けれどもフィリピン政府に近い専門家たちは、「Dengvaxiaに関する誤報に加担した医師たちは、ワクチンで防げたはずのデング熱によるあらゆる死亡の責任を負うことになるだろう」と言って忠告に耳を傾けなかったのです。結局、Scott Halstead氏の指摘が正しかったことがわかりましたが、その時にはすでに多数の子どもたちが犠牲になっていました。

「誤情報」として扱われた情報は、「正しい情報」だったのです。


「定義」されていないことの恐ろしさ

今回の総会では、「パンデミック」の定義さえもなかったことがわかりました。新型コロナウイルス感染症の場合、WHOの事務局長がパンデミックだと言ったから、パンデミックだということになったのです。

総会の中で2020年3月11日にパンデミック宣言があったと言っていたのですが、私の認識では2020年1月30日でした。情報を遡ってみたら、私がパンデミック宣言だと思っていたのは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言だったのです。

WHOのテドロス事務局長は、2023年5月5日の会見で、2020年1月30日に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言しました。

これは会議で話し合われた結果であり、2020年1月30日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」だと宣言したときも、会議で話し合った上で決められました。

その後、2020年3月11日に開かれたWHOジュネーブ本部での定例記者会見でテドロス事務局長は、「新型コロナウイルスはパンデミックと言える」と述べました。世界的な大流行になっているとの認識を示したうえで、各国に対して対策の強化を訴えたのです。

この「パンデミック宣言」については、当時のNHKニュースに詳しく書かれていました。


以下、NHKニュース「新型コロナと感染症・医療情報」から一部引用です。

WHOが表明 新型コロナウイルスは「パンデミック」2020年3月12日

WHOとしては、世界各地で急速に感染が拡大するなか「パンデミック」という表現を使うことで各国に対して強い危機感を持って対策を強化するよう促すねらいがあるものと見られます。

一方でテドロス事務局長は「こうしたことがWHOによるウイルスの脅威に対する評価を変えるものではないし、WHOが行っている対策や、各国がとるべき対応を変えるものではない」と述べ、冷静に対策を進める必要性を訴えました。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/pandemic/


今回の新型コロナウイルスを含むコロナウイルスについてはパンデミックを宣言する手続きは定められておらず、過去にWHOがパンデミックと表現したことはありませんでした。

一方で、WHOはことし1月31日に新型コロナウイルスについて医療体制のぜい弱な国への感染拡大を懸念しているとして「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、各国に向けて警戒と対策強化を呼びかけています。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/pandemic/


これまでの経緯
WHOはこれまでの会見で「パンデミック」について、「明確な定義はないが、病気が国から国に広がるのをもはや制御できない段階に達したことを指す」とか「地球上のすべての人がウイルスにさらされている状態」などと表現してきました。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/pandemic/


WHOは、新型インフルエンザが流行した2009年に世界的な大流行を意味する「パンデミック」を宣言しています。

しかし、実際には新型インフルエンザは感染しても軽症で済む人も多く医療機関に大勢の人たちが押し寄せるなど社会的な混乱ももたらしました。

こうしたことを教訓に、WHOは当時使っていた6段階の警戒レベルの基準を廃止し、2013年に新型インフルエンザを4段階で警戒する新たな基準を発表しましたが、あくまでインフルエンザを警戒する基準のため、今回の新型コロナウイルスではこの基準は使っていません。

WHOが「パンデミック」という表現を使って特定のウイルスを警戒するのは2009年以来になりますが、コロナウイルスについて「パンデミック」と表現するのは今回が初めてです。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/pandemic/


今回の「パンデミック」について危機対応を統括するライアン氏は「『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態』のように正式な手順をへて表現したものではない。テドロス事務局長がWHO内外の専門家の話を聞いたうえで現状を描写したものであり、より精力的に対策を講じるという以外、何かの引き金になるものではない」と述べ、WHOが「パンデミック」と表現したことで、各国が封じ込めを諦めるのではなく、対応をより強化することに力を尽くすべきだという考えを示しています。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/pandemic/

この情報は、NHKのサイトで公開されていましたが、周知はされなかったと思います。

テドロス事務局長は、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」だけでなく、なぜわざわざ「パンデミック」という言葉を使ったのでしょうか。

宣言した結果多くの人が、きちんと定義されていなかったにも関わらず、「パンデミック」という言葉を聞いてとても恐ろしい状況なのだという印象を受けてしまったのではないでしょうか。


緊急事態条項についても同様の懸念

きちんと定義されていないことの危険性は、日本の憲法改正への動きにもつながると思いました。

緊急事態条項の「緊急事態」とは、どのような状況なのでしょうか。もしWHOがパンデミック宣言をしたら、それは緊急事態とされるのでしょうか。けれども、そのパンデミックは、今の段階できちんと定義さえされていないのです。

緊急事態条項を憲法に加えるためには、国民投票が必要になります。もうあまり時間がないかもしれませんが、そのときまでに国民一人ひとりがしっかりと考えなければなりません。軽々しく決めてよい問題ではないのです。

下記は、サンテレビが2022年に放送した番組の動画(約9分)です。緊急事態条項の問題点について、わかりやすく解説されています。日本人にとって、非常に重要な問題です。