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キタノとビートのいい塩梅な融合『首』【映画レビュー】

★★★★☆(4.5/5)
鑑賞日:12月3日
劇場: MOVIX三好
監督:北野武
出演:ビートたけし
   西島秀俊
   加瀬亮

「狂ってやがる。」
お蔵入りの危機を乗り越え無事公開された本作。

リドスコ監督『ナポレオン』で首が飛ぶシーンを観て、怖いなーと思っていたが こちらはタイトル通り、比べ物にならないくらいに首が飛ぶ。 
日本も西洋もその首を掲げたりする。怖いなー

リドスコ監督もそうであったが、やはり北野監督も歴史上の人物を英雄譚としては描かない。
北野監督はどんな戦国を魅せてくれるか 期待しながら鑑賞した。

オープニングのタイトルバック ヒッチコックの『サイコ(1960)』を想起させカッコいい
冒頭 謀反を企て追われるエンケン“村重”から始まる物語。すぐに北野ワールドにハマった。


加瀬“信長”の暴君っぷりたるや最高だ 尾張弁(三河弁)で「往生こくわ」「決まっとるがや 皆殺しだぎゃー」とまくしたてる。
もうカッコいいだけの信長はいらない。男色も絡めて なかなかにサイコパスだ。

この笑顔で 饅頭ぐりぐりはヤバい 加瀬“信長”気に入った

登場人物 皆クセが強い。
禿に猿に狸、芸人 忍び 茶人 生臭坊主 怪しい狐とホーキング“光源坊”一見まともにみえる光秀も 命の扱いは軽い。

「禿」西島”光秀”

印象に残った手紙のシーン
「即刻切り捨てよ」、「従わぬなら切り捨てよ」意味するところは大きく違った。
「魔王」に憧れ 跡目を渇望しながら耐えていた武士たちは、信長も「人の子」だったのかと 落胆と怒りと絶望を抱き
片や秀吉は 懐柔できると嘗められた 武士と認められていなかったことに悔しさを滲ませるが
武士の矜持なぞ持ち合わせていない秀吉(と仲間たち)はそこを利用する。北野武が 根からの武士ではない秀吉を選んだ所以のように感じた。

良々 腹を切る

良々の切腹シーンでは様式美を虚仮にし 影武者だらけの家康を馬鹿にする。本能寺の変もドラマチックに描かない。
史実においての記録ではなく 記憶の部分ではこの映画がリアルだったのかもと思わせてくれる。男同士の愛憎劇もしかり。

出世を餌に無理難題をぶつけ パワハラ、モラハラしまくりで
裏切り 騙し合い 邪魔者は排除 いつの時代もやってることは同じだが
この時代の方がより欲望に忠実で 性に寛容、奔放で 人間臭い 狂人ばかりの世界。
北野映画の乾いた死 命の軽さ 戦国の世にぴたりとはまる。

クロサワ映画をはじめ様々な映画へのオマージュも感じた。
もちろん「戦国版アウトレイジ」とも言えるが、さらに進化したようにみえる

コント「首」 トリオ(秀吉・秀長・官兵衛)で笑かす

随所に挟まるコント トリオ(秀吉・秀長・官兵衛)の掛け合いがいい 出オチ 天丼 大ボケ 小ボケ 「ダンカン、バカヤロー」的なのもあったりして
北野武とビートたけしがいい塩梅で融合していた。

インチキ獅童とアマレス兄弟

戦況を俯瞰で見ていたのが 芸人(曽呂利)なのは象徴的だ。キム兄の出番多かったな(アマレス兄弟も)
説明がつかない謎シーンも多々あったが それも含めて楽しめた。
 

ラストのセリフは 混沌とした現代社会へのメタファーか。
本作の肝がここにある。
                      (text by 電気羊は夢を見た)

元 信長の椅子

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