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身に沁みている敗北感と、それでも生きることを選ぶ強さ/NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』

録りためていたNHKの夜ドラ『あなたのブツが、ここに』を、第12話まで一気に視聴した。毎週月曜日~木曜日の週4回、午後10時45分~放送されている。

(以下、ドラマの内容を含みます)

主人公はバツイチ、シングルマザーのキャバクラ嬢・山崎亜子。演じているのは、仁村紗和さんだ。朝ドラ『おちょやん』で、主人公が働いていた「岡安」の先輩お茶子と言えば、思い出す人が多いかもしれない。

物語は、2020年10月から始まる。コロナ禍によって亜子は収入が減少し、わずかにあった貯金も底をついてしまう。夜の仕事を続けながら、キャバクラの常連客・マルカ運輸の社長から「時給4,000円になる」と誘われた宅配の仕事をしようと決める。

第1話ですでに、2020年をまざまざと思い起こさせるリアルさ。この先、さらに現実の世界線へとつながっていく。

亜子にとって、あくまでも本業はキャバ嬢で、宅配の仕事は収入減の穴埋めだった。高時給(これには注釈が必要な展開なのだが)で好都合。そんな彼女に嫌悪感を示すのが、先輩ドライバーの武田(津田健次郎さん)。プロ意識の強い彼にとって、二足のわらじで宅配ドライバーをするのも気に入らないし、そもそも荷物を運べばそれでいいと思っている様子なのが気に入らない。おそらく、これまで何人もが雇われ、すぐに辞めていく姿を見飽きるほど見てきたのだろう。この様子は、自分が時折やっている派遣のバイトでも体験するアウェイ感と似ている。

亜子は現在29歳。なんとなく生きてきたけれど、キャバクラで頑張ってきたことを捨てきれない。職業は違っても、「これまで培ってきたものを捨てるか否か」を選択しなければならない状況は、2020年以降、多くの人が経験済みだ。

巣ごもり需要によって注目を浴びる宅配業界。マスク不足の中での激務や、言いがかりに近いクレームなど、たびたび話題にあがってきた。亜子も、理不尽な目に遭うことがしばしば。納得がいかないながらも、時間内に数をこなさなければならない。そんな彼女に、「お前は何も分かっちゃいない」と、厳しい眼差しを向ける武田。彼の言った意味が分かるのは、それからしばらく後のことだ。一つの側面しか見えていなかった亜子が、配達先の家それぞれに事情があることを、次々に知ることとなる。

宅配業の実態と同時に、荷物を待っている側のことも、15分の中でリアル且つ丁寧に描いている。配達先の人物たちは三者三様なのだが、パンツ一枚で玄関を開けるナゾの男性(徳井優さん!)にすらリアルさを感じるのは、ドア一枚挟んだ向こう側にどんな人が住んでいるのか分からない、ということが頭の隅にあるからだと思う。

劇中では、当然ながら全員マスク姿。マスク警察が登場したり、母親がキャバクラで働いていることをからかわれたり、亜子の娘にもコロナ禍を背景にしたさまざまな出来事が起きる。娘の咲妃役は毎田暖乃ちゃんだ。亜子の母親はキムラ緑子さん、マルカ運輸の社長・葛西は岡部たかしさんが演じている。普段は頼りない葛西。ところが、社員を守るためにひと芝居打ったり躊躇なく土下座したり、いざというときに力を発揮する陽キャラで、眼光鋭い武田と対照的に描かれているのが面白い。

先週までの3週間で、亜子が宅配の仕事に本気で向き合いはじめ、咲妃との絆を深めるところまでが描かれた。今週から後半に突入する。これまでの人生を肯定できずにいる亜子。母親との間に微妙な距離があるのも、それが原因のようだ。後半は、その辺りが深く描かれるかもしれない。

12話分を視聴して、実際この2年半体験してきた敗北感や絶望感を思い出し、終始涙が止まらなかった。ドラマは、現実の世界で起きていることそのもの。コロナ禍で生きる厳しさを受け入れ、腹をくくった主人公が、今後どうなるのか。彼女たちが笑って生きていくことを、見届けられるだろうか。


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