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人々の息づかいと美味しいものが心を満たす/小説『BAR追分』の世界

読書に関するnoteはあまり書いていないのだが、「人生を変えた一冊」として『赤毛のアン』にふれたことがある。これが人生を変えた一冊なら、今回ふれる本は「人生に寄りそう一冊」だ。

伊吹有喜さんの小説『BAR追分』

(以下、一部内容を含みます)

物語の舞台は、新宿のねこみち横丁にある「BAR追分」。夜はバーだが、昼間はバールとして、若い佐々木桃子が切り盛りしている。

主人公は、ひょんなことから横丁振興会の専従職員になった、脚本家志望の宇藤輝良。大学卒業後も脚本家を目指してきたが、なかなか芽が出ない。昔通っていたシナリオ教室の講師からは、「君は“人”が書けていない」と言われる始末。恋愛にのめりこんだり、何かを熱烈に語ったりするタイプでもない。一歩引いて世の中を見ているような、飲み会では一枚見えない壁を作って座っているような男なのである。

書くのをやめるか、続けるか。分岐点で揺れる彼が、ねこみち横丁で起きる出来事を通して人々と交流し、また彼らやBAR追分にやってくる客の人生にふれて、新たな一歩を踏み出していく。

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知人が、旅先の書店で何となく目が合って購入したというこの本。「読んでいると心が落ち着く」と、旅から帰ってきて薦めてくれた。それ以来、年に最低1回は読んでいる。眠れない夜、思考が路頭に迷ったとき、ボーッとおやつを食べるとき。美容院のお供にも。少しずつ、ダラダラと。すっかりヨレヨレになってしまった。

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バールの店主・桃子(モモちゃん)は、美味しいものへのこだわりが強く、手間を惜しまない。目の前に置かれる温かな料理と、ふんわりした佇まいの中に芯の強さも見える彼女自身が、客の胃ばかりでなく心も掴んで離さない。夜は夜で、バーテンダー・タナベの立ち振る舞いが、スマートでかっこいい。登場シーンは多くないのに、その存在だけで安心感がある。

新規の客も、たちまちBAR追分の虜になる。それは私も同じ。読んでいると、炊きたてのふっくらごはんに焼き鮭、玉子焼きが付いたモーニングや、牛すじカレーの温玉のせなど、モモちゃんのこだわりメニューが湯気を立てて目の前に。夜だって、気分にあわせたカクテルやハンバーグサンドなど、美味しいものがたくさん出てくるのである。

小説では、章ごとに横丁の人々や客らのエピソードが語られる。主人公はあくまでも宇藤だけれど、物語の目線は彼と客を行ったり来たり。みんなの人生が交差し合う様子が違和感なく描かれており、「ドラマになったらおもしろいだろうな」と何度も考える。

この本はシリーズ化されており、『BAR追分』『オムライス日和』『情熱のナポリタン』と、現在までに3冊刊行されている。鍼灸院の久保田先生やバーテンダー見習い・伊藤のことなど、次へ続く雰囲気が漂っていたため、4冊めはいつ出るのかとソワソワしながら待っていたら、5年経ってしまった。

もっとも印象深い話は、シリーズ1冊めの「ボンボンショコラの唄」。常連客でアフロヘアのフィギア作家・梵さんと、ゴージャスこと遠山綺里花の物語。さまざまなことをのみ込んできたであろう2人に、ただ横丁のやさしい世界が流れている。このまちで暮らすってだけで、幸せなんだと思えるエピソードだ。

生き方に悩んでいるとき、ふらりと入った店がこんなBARだったら。時に背中をさすりながら、時に適度な距離を保ちながら、見守ってくれるだろう。ねこみち横丁の温かさが胸に沁みる。そして、人生には美味しいものも大事。

人の温もりと、ごはんの美味しさが伝わる物語。今日もまた、横丁の地域猫・デビイがBAR追分へ客をいざなう。

BAR追分
昼間はバールで、夜はバー。

「BAR追分」(伊吹有喜 著)


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ここからは妄想キャスティング。興味のある方はどうぞ。

・主人公・宇藤/泉澤祐希さんか、杉野遥亮さん
・モモちゃん/芳根京子さんか、ちょっと若いけど藤野涼子ちゃん
・横丁振興会の会長・遠藤/宇梶剛士さんか、田中要次さん
・副会長の煎餅屋・千石/徳井優さんか、柳沢慎吾さん
・森の鍼灸院の久保田先生/松本若菜さん
・追分のバーテンダー・タナベ/榎本孝明さんか、小市慢太郎さん。
・追分のバーテンダー見習い・伊藤/萩原利久さん
・追分のオーナー/森口瑶子さんか、霧島れいかさん
・遠山綺里花/この役は難関。誰がいいのか……いまだ妄想中

次から次に、脳内俳優名鑑パラパラ。

最後に、ドラマ化されたら絶対一目置かれる存在の梵さんは、北村有起哉さんで!(強調) ドラマ『先生のおとりよせ』では中田みるく先生を見事に演じてくださった北村さん。きっと個性的でやさしい梵さんを、魅力いっぱいに演じてくれるはず……(と想像)。

どこかの局で、いつかドラマ化してほしい。

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