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しんみりするのに笑ってしまう/NHK土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』

食料や燃料費をはじめとする多くの生活必需品が値上がりし、保険の負担は増え、隣国からは脅かされ、暮らしは冷え冷えしている。先行き不安な人であふれるニッポン。ナゾなお金持ちの人々は「お金を稼げない人間は淘汰されて当然だ」と笑う。いつの頃からか、民主主義=自己責任である。

現代社会の問題をコミカルに反映させたドラマ

行き場を失い、老後は野垂れ死にしかないのか。
いっそのこと、ムショに入ったらどうか。一日三食付きで仕事ももらえる。

「そんな仰天計画を考える人がいるなんて、信じられない」
「そんな考えが浮かぶ気持ちは当然かもしれない。わかるよ」

さて、あなたはどっちだろう。
分かれ道はどこにあるのか。

10月8日(土)から始まったNHK土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』

(以下、ドラマの内容を含みます)

主人公は、年金とパートの収入で暮らす一橋桐子。昔から取り柄がなく(と本人は思っている)、人づきあいがあまり得意ではない彼女が、たまたま句会で言葉を交わした宮崎知子と意気投合。あるとき知子の提案で一緒に暮らし始める。慎ましくも、心に潤いのある生活を送る二人。ところが知子が急な病に倒れ、帰らぬ人となる。年老いてやっと見つけた小さな幸せ。それすらもままならない様子に、切なさが伝わってくる。これは他人事ではない。

孤独死を避けたいという願いは切実

桐子ひとりでは一軒家の家賃は払えない。そもそも、ひとり暮らしの高齢者に貸してくれる住宅は少ない。その結果、今にも崩れ落ちそうなおんぼろアパートに引っ越してくる。薄暗い部屋で、友を思い涙する桐子。「あなたはちゃんと生きてね」と病床の知子に言われたのに、生きる気力をすっかり失っていた。

第1話の前半だけで、すでに身につまされる話に震える有り様だ。今まであまり考えないようにしていたけれど、まさにこれ、十数年後の自分じゃなかろうか。絶望の淵に立たされた桐子と後々の自分が重なる。コメディータッチで描かれているにもかかわらず、なかなか重いテーマである。

桐子を演じるのは、松坂慶子さん。「愛の水中花」の頃はスラリとしてあの美貌だったから、ほぼ無名のミュージシャンと結婚したときにはびっくりした。今ではすっかり肝っ玉母さん的ポジションに立つ彼女が、じれったいほど鈍くさく、放っておけない可愛らしい老婆を熱演している。先に旅立ってしまった友人・知子役は由紀さおりさん。朗らかで何でもこなせる、桐子にとっては憧れの存在。だから余計に、彼女の死には寂しさと悲しみを覚えるのだった。

ひとりぼっち、このまま孤独死したらどうしよう。悩み続ける桐子は、ある老人が「楽になるために刑務所に入りたくて」事件を起こしたニュースを偶然目にし、刑務所を終の住処にしようと考える。どうしたらムショに入れるのか? パート先の新しい上司がムショあがりだという噂を聞き、本人に直接話を聞こうとする。

この人、誰ですか?

あれ、桐子の上司・久遠を演じているの、誰? ちょうど前日、実朝くん出演のあさイチ・プレミアムトークを見ていたら、ドラマの番宣が流れた。「この人実朝くんじゃないの?」。柿澤さんに似ていたので、本人かと思ったらノーリアクション。別人か。

で、誰なの?

え、え?
ちょっとこれ、岩ちゃんだ!
岩田剛典くんだった!!

途中まで気づかなかった……。
衝撃というか新鮮。あの馴染まないうわついた髪型がそうさせるのか? これは第2話以降も楽しみだな。

本当は孤独なんかじゃないのかも

偶然顔見知りになったスーパーの店員・雪菜(長澤樹さん)や、句会のメンバーで一目置かれている元プロテニスプレイヤー・三笠(草刈正雄さん)、句会の世話人の明子(片桐はいりさん)など、桐子を気にかける人たちもまた、久遠と同じように少しずつ彼女の暮らしに影響を及ぼしそうだ。

桐子にとって、その存在はまだ大きくない。「自分のような人間が人に頼るなんて、そんな甘い考えは捨てた方がいい」。彼女はある出来事から、そんな気持ちを一層強めたように見える。

生きることは、誰かに迷惑をかけること。それでいいと言われても、簡単にはできないものだ。ましてや、自分に自信がなく、これまで孤独に生きてきた人間には容易ではない。

積極的なムショ活で、主人公はどこへ向かうのか?

知子がいなければ、生きていても何の楽しみもない。そんなネガティブな考えをぐるぐる回転させていたら、何周かまわって終活ならぬ「ムショ活」をはじめるという、ある意味前向きな気持ちになった桐子。誰にも迷惑をかけない方法で刑務所行きを探りはじめる。

彼女は無事に(?)刑務所に入れるのか。それとも違う生き方を見出すのか。孤独な高齢者は、小さな幸せを取り戻せるのだろうか。全5話しかないのがちょっぴり残念だけど、結末を見届けたい。


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