行った気になるまち①春はまさに桃源郷
決して「行った気になる世界遺産」(鈴木亮平 著)を真似たわけではありません!
今は行けないけれど、もともと自分は旅好きで、あちこち遊びに行ったり仕事柄うろうろする日が多かったりの人間です。この一年、仕事は9割減りました。ここまでくると、もうやりたいことだけやりたい、やりたくないことはやらない、私である必要のないものはもういいや、あと欲しいものは欲しいと言いたい、という気持ちになりました。羅列したら強欲おばさんみたいになりましたが、大丈夫かしら。いや、これはうちの猫と一緒だから大丈夫。
今まで訪れて、心に残っているまちの話を誰かに伝えたくなりました。再訪するのにガソリン代と気力を使うので不定期ですが、ちょっとずつ綴ろうと思います。最後に、覚え書きのようなまちの地図を描きました。地図って楽しいですよねー。このnoteで妄想の旅に出かけてもらえたらうれしいです。そして本当に行く機会があったら、地図を思い出してくださいね。
しばらく投げ銭方式でやってみたいと思います。記事は最後まで無料で読めます。投げ銭してもいいという方はお願いします!
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昔話に出てきそうな小さな集落
先日、県独自の緊急事態宣言がようやく解除され、仕事で山へ山へと出かけた。自家用車で自分ひとりだし、この山奥で密になることはなかろう。せっかくここまで来たから、どうしてもあのまちへ寄りたい。そう考えた私は、もう少し先の集落まで足をのばすことにした。
そこは山あいの静かな地。沿道のミツマタが開花しはじめていた。まだ蕾が多く、写真を撮ると白っぽい。それでも春の陽気に誘われて、地元の人が路肩に車を停めて見惚れている。これが満開になると、枝の先に黄色い小さな花の集合体がふわふわと咲き誇り、もっともっと美しい。
あんなに寒かったのに急に暖かくなり、うちの隣家のモクレンも一気に開花した。訪れた集落への道すがらにはレンゲ畑がちらほら、土筆がにょろにょろ。なんだかワクワクする。春の色が重なり合って、まさに桃源郷だ。
立ち寄り処でひと休み
橋を渡り、とある施設に到着。
その一角にはお雛さまが飾られていた。
私がもっとも感動したのは、このお雛さま。
お雛さまの体の部分、何でできていると思う?
なんとユリの繊維でできているのだ。ユリの種が入った部分を漂白し、和紙と豆電球を使ってつくる。カボチャのような形のものは綿。これらはすべて地元の人の手仕事だ。里山の自然とつくった人の温もりが感じられ、素晴らしい。
ここは周辺で唯一の温泉施設。この一年は集客が難儀だったと想像できる。
そしてもう1ヵ所、この集落を訪れたら必ず立ち寄る食事処兼直売所へ。ここでナゾの金太郎飴をゲット。手づくり感満載なのがいい。5つ入り100円だった。
まさかの現場に出合う
ガソリン量が危うかったので、中心街(一応)のスタンドへ行ったら2店舗とも日曜日で休みだった。あら……。どうしようかと悩みながら運転していると、道沿いの開けた倉庫で思わぬ光景に遭遇した。
動物らしき丸焼きがチラリと見えた。何だろうか。豚? いやいやなんか違う。少々面食らい、もう一度商店街をぐるりとまわって戻ってきた。
そしてもう一度チラ見。……うわーおーー、あれは……イノシシじゃないか。毛を焼いて(たぶん)処理して丸焼き! それを男衆数人で食している。『世界ウルルン滞在記』のような(それは言い過ぎか)、なかなかダイナミックな絵面だぜ。
貴重な場面に遭遇し、ガソリンが入れられないショックなんか吹っ飛んでしまった。来てよかった(なんとなく……笑)。
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九州の山深きまち
この地の名は宮崎県西米良村(にしめらそん)。
九州自動車道人吉ICからフルーティーロード経由で約1時間。面積の9割以上が山林に覆われた小さな村。そして肥後の菊池一族ゆかりの地である。米良姓を名乗って村を統治した菊池氏は、今でも名君として村の人たちに語り継がれている。
山々を縫うように流れるのは清流・一ツ瀬川だ。透明度の高いラムネ色の川。例年なら、河畔の集落を中心に春はひなまつや山菜まつり、夏は鮎釣りや川床、花火大会、秋から冬は神楽や特産のほおずきで飾るクリスマスツリーの展示と、一年を通してさまざまなイベントが開催される。
ちなみに下の写真は、数年前に温泉施設「西米良温泉ゆた~と」へ山菜バイキングを食べに行ったときの写真。春の山の恵みをいただきに、村内外から多くの人が訪れる。店内には揚げたて山菜の天ぷらや和え物などが並ぶ。日によってかもしれないが、デザート用に外でヨモギの餅つきも。
毎年4月頃の週末に開催され、私は楽しみにしていた。村人が自分たちにしかできないアイデアを持ち寄ってもてなす。それは素朴ながら、おだやかな休日を過ごすのに十分すぎるもてなしだった。
先日ナゾの金太郎飴を購入したのは、川の駅「百菜屋」という食事処兼直売所。かりこうず大橋のたもとにある。ここでの定番は椎茸南蛮定食。チキン南蛮と半々なのだが、全部椎茸南蛮でいい!と個人的には思っている(選べたら最高)。椎茸南蛮が美味しすぎて、ついには家でもつくるようになった。椎茸はタルタルソースとの相性抜群。皆さんもどんこ椎茸が手に入ったときは、ぜひつくってみてほしい。
金太郎飴は、村の公式キャラクター・精霊カリコボーズ「ホイホイくん」を模ったもの。カリコボーズとは古くから村に伝わる精霊で、春から夏は水の神、秋から冬は山の神になるといわれている。
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仕事であちこち出かけ、そのたびに過疎の話や集客に悩む地域の話を聞いてきた。その中で、人口わずか1,000人ちょっとのこの村は特異だと思う。「地域にあるもので人を呼ぶ」のは当たり前として、ほとんどの市町村がそこからアイデアを出して生かし、宣伝する、あるいは人口を増やす方法に頭を悩ませるわけで。
夏の川床だって、いつの年だったか日本でその日一番暑かった地として全国ニュースに出てしまい(それは私も見た)、「これを逆手に取って何かやろう」と考えたアイデアが即、形になったもの。フットワークが軽い。
近ごろはジビエ加工にも力を入れ、冬から早春には参加飲食店でジビエ料理がいただけるフェアを実施している。好みの分かれるジビエを売り出すのはとても難しい。そこをめげずに形にしているのだから、苦労はたくさんあるだろう。
でも不思議。彼らに大変そうな雰囲気がない(笑)。あれは県民気質なのか、それとも村独特の雰囲気なのか? 西米良村は宮崎県と言えども、実は車で15分も行けば熊本県に入る。村の人は熊本へ買い物に出るし、焼酎も芋20度より米25度(←球磨焼酎)の方が幅を利かせている。どちらの気質も、いい塩梅に受け継いでいるのかも。
また自由な旅ができるようになったら、里山の息吹や村人のもてなしを楽しみに出かけたい。それまで、みんな元気でいてほしい。
(文・写真・地図 ©️ぶんぶんどー)
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