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フットボールは世界共通語

常に笑顔のアミーゴ。

いろんな話をしたけれど、いつもフットボールの話で盛り上がる。

教室でアミーゴと仲良くフットボールの話をしていると、いつもハゲの先生が割り込んでくる。

中田をゴミと呼んだハゲ。

いつも日本人を馬鹿にしてくる。

どうやらアイルランド人らしく、ロイ・キーンを崇拝していた。
確かに荒っぽさと偉そうな態度が、マンチェスター・ユナイテッドのキャプテンにどことなく似ている。
欧米人にとって日本人が全員中田に見えるのと同じことか。
それでも小僧に威圧感を与えるのには十分だった。

「日本人はサッカーができない。」
「ゴミだ。ゴミだ。」
「中田はゴミだ。」
「稲本もゴミだ。」
「小野はマシだが、しょせんオランダにいるようじゃゴミだ。」

ムカつく。でも英語力が無いので言い返せない。いつか覚えてろ。


ハゲを見返す機会は意外とすぐに訪れた。
語学学校主催のアクティビティで、フットボールをする事になった。
午後の授業が終わった後に、近所の公園(ただの草っ原)でフットボールをするぞ、と。
ハゲのアイデアだった。

このアクティビティには、全クラスから希望者が募られ、参加する。
普段教室で会わないが校内で見かけるみんながこぞって参加する。
世界中から英語を学びに来ている仲間たちとボールを蹴る。
そこには英語のレベルも人種の壁も存在しない。
とても素晴らしい体験が待っているに違いない。
楽しみで楽しみで夜も眠れなかった。

さて、当日。
授業が終わって、ハゲの先導で公園へ。
いざ、出陣。

原っぱにカラーコーンを立ててゴールを作る。
ボールは一つ。なんとなく誰かがボールを蹴り始めた。

チビの中国人がはしゃいでボールを追いかける。
スイスから来た陽気な人気者が笑顔で軽くボールを蹴る。
同じくスイスから来たお転婆娘がものすごい勢いのシュートを放つ。
スペインの軍人は、軽いトリックを見せつける。
ハゲも輪に混じって、ボールを蹴る。

まさに、フットボールで会話をしている。

しばらくして、全体を二手に分けてゲームをすることになった。
ハゲは笛を持ってレフェリーをするらしい。

小僧はワクワクしながら、一方のチームに参加した。
相手のチームにはアミーゴがいる。

開始から間もなく、ボールはアミーゴの足元へ。
いつもの笑顔を浮かべたままボールを軽く前に蹴り出した。直後、、、
唐突にドリブルを始めると瞬く間に数人を抜き去り、ゴールへ向かう。

小僧はまだエンジョイムードだ。
だが、フットボールで遅れをとるわけには行かない。
体を入れてアミーゴからボールを奪い取る。

アミーゴの目が鋭く光る。
本人の気性なのか、南米流のフットボールの原則なのか。
アミーゴは執拗にボールを奪い返しにくる。
ピューマのごとく小僧の足を狩る。狩る。狩る。

それでも小僧はチームメイトとの連携でアミーゴを振り切りゴールを決める。
そこからは、チーム同士の競り合いのようで、小僧とアミーゴの意地のぶつかり合いだ。
アミーゴは南米仕込みの狡猾なフットボールを展開する。シャツを掴んで、足を削って、ボールを奪いにくる。
小僧は、足技とパスワークでボールを保持する。

心が湧き立つようなフットボール。
真剣にボールを蹴る快感。
しばらく味わっていなかった生きている実感。
全てを忘れて夢中でボールを追いかける。

ふと、アミーゴと目が合った。
アミーゴはいつも以上に笑顔だった。
激しくぶつかり合い、反則スレスレのやり合いをしながら、アミーゴは笑っていた。

多分、小僧も笑っていたのだろう。

審判のハゲは次第に応援団になっていた。
アミーゴと小僧。どちらに対しても怒鳴り散らしていた。ロイ・キーンのように。

ゲームの勝敗は覚えていない。
終了後に、アミーゴと笑顔で固く握手をした。
全員がアミーゴと小僧の真剣勝負に酔いしれた。

ゲームの後は、二人ともヒーローだった。

ゲームの前までは、日本人を馬鹿にしていたハゲは、最大限のリスペクトを持って接するようになった。
上級クラスにいるヨーロッパ人たちも、二人を仲間として認めてくれた。
そこからは、何かやるにも小僧とアミーゴは参加者としてカウントされるようになった。

フットボールは毎週のクラブ活動になり、ロンドンライフは充実し始めた。

英語は話せなかったが、フットボールは操れた。
それだけで、こんなにも世界が開けるなんて。
日本から飛び出して、初めて気づけた世界。

仲間を作るのに必要なのは、言葉じゃない。コミュニケーションなのだ。
小僧はたまたまフットボールで。
それぞれの方法で、それでも一歩踏み出しコミュニケーションをとってみる。
そうやって開いた世界の景色は、今までとは違う色彩を放っていた。

小僧のロンドンライフはまだまだ続く。


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