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山あり谷ありロンドンライフ

ご馳走はスニッカーズ

衝撃の初ディナー。

翌朝、心労と寝不足で動ける状態ではなかったが、無理やり体を叩き起こす。今日は語学学校の初日だ。

ダイニングキッチンに降りていくと、メモが置いてあった。
なぐり書きのメモは難解な象形文字にしか見えなかったが、気合いでなんとか理解する。

自分でパンを焼いて食べろ的な内容だった。

「ですよね。。。」

電子レンジのイモよりは幾分マシだ。

イギリス式のトースターと格闘しながら、薄い食パンを焼いてみた。
バターもジャムも塗っていないただの薄いパンを頬張った。

ホームステイ先のおばさんもおっさんも顔を見せなかった。

最寄りの駅までの道に、キオスクがあった。
なけなしの小遣いで、特大のスニッカーズを買った。
人生で最もうまいスニッカーズだった。


ハゲとチビとナイスガイ

ロンドン郊外の住宅街の中心となるメインストリート。
小さなショップやカフェが並ぶ数百メートルの道。
雑居ビルの中に、語学学校は入っていた。

緊張感と期待感で足がすくみ、雑居ビルの前を3往復ほどしてから、階段を上がった。

受付で待っていたのは、ジムキャリーみたいな作り笑顔の校長。
外国人相手の語学学校の校長をやっているくせに早口を治す気が一ミリも無い血統書付きのイギリス人だ。
何を言ってるか分からなかったが、いくべき教室だけは理解した。


まだ、始業まで15分。大人しく教室に座っていると、となりに坊主頭のチビが座ってきた。どうやら先輩らしい。

「ハーイ。」

精一杯の笑顔で挨拶をした。

「ペラペラペラペラ。」
無愛想に何かを喋って、席についた。
何を言っているかは全くわからない。

後で気づいたのだが、小僧が入れられた教室は、英語の初心者が入るクラス。初級ではなく初心者。何も分からない赤ちゃんをまとめてぶち込む教室だった。

件のチビは、中国人の留学生。
英語初心者の中国人と「ハロー」しか言えない小僧。
会話は生まれなかった。

だが、チビは後から入ってくる女の子たちにはちょっかいを出しまくって、嫌な顔をされていた。
どうやら、単純に男には興味がなかっただけらしい。

こいつ嫌い。

そうこうしているウチに、ハゲの先生が入ってきた。
チビを叱りつけ座らせる。

この人好き。

開始とともに、新人の紹介を始めた。
初心者クラスに入ってきたのは、2人。

日本から来た小僧。
チリからきた笑顔のナイスガイ。

それぞれ片言の英語で自己紹介を。

小僧は、「フットボール」の話をした。
ナイスガイも。「フットボール」の話をした。

ハゲは聞いてきた。
「American Football? or Succor Football?

二人とも即答する。
「サッカー」

ハゲは嬉しそうに続ける。
どうやらハゲもサッカーが好きみたいだ。
サッカーは世界共通語だ。

「Zamorano?」
「Salas?」
「Very Good.」

と、チリの英雄の名前をあげ、褒め始めた。
何を言っているか分からなかったが、色々褒めていたのだろう。
そりゃそうだ、小僧でも知ってる世界的スーパースターだ。

「Nakata?」

ついに来た。日本といえば中田英寿。ハゲも知ってるんだとワクワクした。

「Rubbish」

ラビッシュ?
ラブってことか?
「イエス、イエス。ラビッシュ」

話の流れ的に日本の英雄を褒めてくれたと思い込み、同調してしまった。日本人の悪いくせ。
だいぶ後になって、理解した。
このハゲは、日本の英雄を「ゴミ」呼ばわりしたのだ。
そして小僧も、ノリに流されて恩人である中田英寿を「ゴミ」呼ばわりしてしまった。

中田さん、大変申し訳ありませんでした。


初めてのアミーゴ

午前の授業が終わった。
ランチをどうするか考える。
コンビニという便利なシステムを当然と考えていた当時の小僧。
コンビニなどという概念すら存在しなかった当時のイギリスでランチを調達するのはいささかハードルが高かった。

レストランに入るにも、貧乏学生にはキツい。毎日は行けない。
初日くらいは良いか、とレストランを探しに外に出かかった時、チリからきたナイスガイが話しかけてきた。

「コゾウ、ランチ?」

嬉しかった。
異国の地で初めて優しくされた。
食い気味に頷き、二人で外に出る。

「スーパーマーケット?」

新しい発想だったが、なるほど、と思った。スーパーにも惣菜が売っているかもしれない。

ナイスガイに連れられて二人で近所のスーパーへ。

スーパーで手に入れたのは、フランスパンとチーズとハム。
近所の公園で、ナイスガイが即席で作ったサンドイッチを頬張る。
最高に美味かった。

ロンドン最高。

ナイスガイは、小僧の英単語の羅列を辛抱強く聞いて、彼も英単語を羅列してくる。笑顔を絶やさず、全てを肯定しながら。
なんて心地いいんだ、アミーゴ。

二人は好きなサッカー選手の話から、今までの人生の事、これからの夢。色々と語り合った。

アミーゴ。
人生で初めてアミーゴができた。

彼はサッカー選手を本気で目指していたが怪我で断念し、スポーツ関係の仕事に就くため現在勉強中とのこと。
夢を追ってロンドンにたどり着いた小僧と似た境遇だ。

いつか一緒にサッカーをする約束をし、学校へ戻った。


「人生そんなに甘くない。」

夢の切符を手にしてたどり着いたロンドンが、小僧に最初に教えてくれたのは、誰もが大人になる前に学ぶはずの教訓だった。

「捨てる神あれば拾う神あり。」

それでも小僧は強運の持ち主だ。
アミーゴは、闇堕ち寸前の小僧を引き戻してくれた。

いつかまたどこかで会いたいな。アミーゴ。


ロンドンの学校生活はまだまだ続く。


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今までの小僧のストーリーは下記。


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