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「夏のピルグリム」は「推しあり夢なし少女の冒険」だった

7月18日に刊行する小説「夏のピルグリム」のタイトルをつけるのに、かなり悩みました。
僕はタイトルをつけるのがあまり得意ではなく、悩み出すと結構時間がかかります。
執筆中につけていた仮題は「推しあり夢なし少女の冒険」でした。夢を持たない女の子が、推しのために冒険する物語なので、内容をそのまま表しているだけで、タイトルというより、執筆の指針になるようにつけました。
このままではストレートすぎるので、書き終えたときに考えたのは、「推しをめぐる冒険」でした。いうまでもなく村上春樹さんの「羊をめぐる冒険」のオマージュです。
「冒険」という言葉をいつかタイトルにつけたいとずっと考えていて、「ここで使おう!」と思ったのですが、周りの評判はあまり芳しくありませんでした。「羊をめぐる冒険」のイメージがあまりに強烈で、物語の印象を左右してしまうと言われました。

ひと夏の物語なので、「夏」をつけたいなと思ったのですが、「夏の冒険」ではあまりにも抽象的なので、ここで冒険とは違う言葉を探しました。
その中で、見つかった言葉が「巡礼」でした。「巡礼」は元々宗教的な行為に使われる言葉ですが、「聖地巡礼」みたいにあちこちを巡る行為にも最近では使われます。
完成稿では、「巡礼」について登場人物が言及していますが、タイトルがつくまでは作中に「巡礼」という言葉は出てきませんでした。

「夏の巡礼」。なかなかピッタリときましたが、どこか堅苦しい感じもしました。「巡礼」は字の通り、「巡礼」する行為を指します。巡礼するのは、もちろん人です。本作品では、人に焦点を当てたいので、「夏の巡礼者」が思いつきました。

これでも良い気もしたのですが、中学生が主人公の物語にしては、まだ硬いかな、と。
昔から、「漢字+カタカナ」のタイトルに惹かれることが多かったです。ジブリ映画によくあるタイトルですよね。「風の谷のナウシカ」とか、ひらがな表記だけど「となりのトトロ」とか。
あれこれ辞書を引いたり、ネットを見ていたら、「ピルグリム」という言葉に辿り着きました。
「ピルグリム・ファーザーズ」という言葉は知っていました。「ピルグリム・ファーザーズ」はイングラウンドからメイフラワー号に乗り、アメリカ大陸へ渡ったピューリタンを指す言葉です。「巡礼始祖」と訳されることもあります。
「ピルグリム・ファーザーズ」は、現代アメリカに住む白人には、いわば「神話」みたいに語られています(侵略された方にしてはたまったものではないですが)。

「ピルグリム」。辞書を引くと、「巡礼者」という意味でも使われているようです。ググっても、他に使われている事例は少なく、曲のタイトル以外には「ピルグリム」を使った作品はヒットしませんでした。

「夏のピルグリム」。これは、ひとつもヒットしない。新しい言葉です(多分)。
これはいけると。中学生らしい若々しい語感があるし、小説の内容と意味も合致しています。

問題は、「ピルグリム」に馴染みがないことです。多くの読者は、「ピルグリム」と聞いても意味がわからないでしょう。中には「ピルグリム・ファーザーズ」を知っていて、宗教がテーマの小説と思ってしまう人もいるかもしれません(「夏のピルグリム」に宗教的な要素はありません)。
もうひとつ問題は、「ピルグリム」に馴染みがないから間違えて読まれてしまう恐れがあることです。「ピリグルム」「ピルグラム」とか、最初のうちは、自分でもどれが正解かわからなくなることがありました。

夏のピルグリム」は新人賞に応募するつもりだったので、意味がわからない人がいても鮮烈なタイトルの方が目立つと思い、またもしも受賞して本になるときは新人の作品は改題することも多いので、このままでいくことにしました。

嬉しいことに「夏のピルグリム」は奨励賞をいただくことができました。
選考中は「夏ピル」の愛称で編集者の方からは呼ばれていたそうで、このタイトルで良かったと思いました。
「ピルグリム」ではわからないので、出版するときは改題になるかなと思っていましたが、「このままでいきましょう」と太鼓判を押されて、「夏のピルグリム」のまま、刊行されることになりました。

どうでしょう? 「夏のピルグリム」は。長い間ずっと見てきたので、僕は慣れましたが。
間違えないコツは、「ピル」+「グリム」と発音することです。そうやって覚えると、「ピル」と口に出せば、自然と「グリム」と続くはずです(多分)。
もし、覚えられないなら「夏ピル」と覚えてやってください。

このタイトルであっているかかどうかは、僕ではなく、読んだ人が決めることだと思います。
ぜひ夏子とひと夏の巡礼の旅を体験して、このタイトルで良かったか判定していただけると幸いでございます。

著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より7月18日に刊行されます。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら予約してください。善い物語です!

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