特論69.ここのヴォイトレは、何が違うのか
◯全てのヴォイトレを集約
よく聞かれる質問、「この研究所のヴォイストレーニングが、どういうふうに違うのか」ということをお答えします。
とはいえ、ずっと組織として行ってきたので、私と研究所のトレーナーのヴォイストレーニング、そこにもいろんな変遷があるのですが、現時点のことで伝えます。
厳密には、私とここのトレーナー一人ひとりのヴォイトレは、どれもそれぞれに違います。トレーナーも相手によって、かなり対応が違います。
そこは、ここのレッスンからの声や体験談など、多くの実例を開示していますから、参照ください。
他のスクールが行っているようなことは、ほぼ全て取り入れて、できるようにしています。そういう要望があれば、応じています。カラオケや課題曲のマスター、オーディション対策や本番のための実習なども含まれます。
(研究所ですから、国内外のヴォイトレの教材などを常に広範に集め、情報交換をしています。レッスン受講生も世界各地にいて、現地のヴォイトレと併用している人もいます。そうした対応もしています。)
◯スクールなどで引き受けられない人
この研究所では、他のスクールでは、引き受けられないような要望にも応じてきました。
一つめは、邦楽やエスニックな音楽関係者です。詩吟、浪曲、民謡から、長唄、浄瑠璃など、ほぼ、あらゆるジャンルの人と接してきました。フラメンコやハワイアン、ゴスペル、シャンソンやカンツォーネ、ラテンなどの人も多いです。
それ以外には、役者、声優、アナウンサーから、一般の人の話し方まで、声に関心をもつ人なら、どんな人にも対応しています。
二つめは、喉を壊した人、お医者さんや言語聴覚士、リハビリテーションの紹介者です。
私は長らく、国立障害者リハビリテーションセンター学院の言語聴覚士のクラスを担当していました。以前から、健康や医療での生理的研究は、声紋分析などの科学的研究と並んで欠かすことのできないものでした。言語聴覚士と一緒に喉のリハビリをすることもあります。
喉を壊すということは、発声に問題があることが多いので、基礎からのヴォイトレを行います。喉の弱い人、声の出にくい人も含みます。
三つめは、ヴォイストレーナーや言語関係の専門家、研究者がたくさん来ていることです。ここならではの特色で、情報交換も兼ねて、いろんな研究をしています。外国語の講師や外国人の受講もあります。
人に教える立場の人が、特に増えてきました。ここのレッスンで得たことを指導に活かしていらっしゃることでしょう。
これ以上は、ホームページやブログを見ていただければ、詳しく紹介してあります。
内容として何が違うかということを述べていきたいと思います。
詳細はレッスン受講生についてを参照ください。
◯声づくりの基礎トレーニング
まず、中心となるのは、声づくりです。
声は出さないと出るようになりません。声を出していると、誰でもそれなりに出るようになっていきます。そこからの方向づけです。
どのようなスポーツでも本格的に上達しようとすると、必要とされるのが、基礎トレーニングです。本格的とは、ある程度、多くの人たちがそれなりに実践し、そこに優劣がついてきて、プロと言われる人が出てきたあたりから、つまり、そうしたプロになるには、それをただ毎日楽しんでいるだけでは到達しえないレベルが想定されるようになってからということです。
アスリートの基礎トレーニングには、柔軟体操と体力トレーニング、筋トレーニングがあります。つまり、身体のバランス調整と強化鍛錬のトレーニングです。
自分の体の状態をよくするのが、柔軟体操で、これは調整です。心の状態においては、メンタルトレーニングも入れてもよいでしょう。
体力や筋力をつけて、自分の身体能力を開発していくのが、強化のためのトレーニングです。
最近では、筋トレというと、筋肉をつけていくだけのように思われ、コアトレーニングなどインナーマッスルなどに触れられないように誤解されます。しかし、ここでは、全て含めて、身体の強化することとその感度をよくすることを基礎トレーニングとして考えています。
研究所のヴォイトレにおいては、それは、声づくりということになります。
スポーツを楽しみたいという場合は、基礎トレーニングはさほど必要ありません。ルールを覚えて、すぐに実行すればよいからです。
走ることでも球技でも水泳でも、自分なりに頑張れば、それなりのところまではできるようになります。
たとえば、走ることなどは、日常の生活で身についたことで、かなりの個人差があります。
小学生の遠足で全く疲れない子とすぐに疲れる子との差のようなものです。足の速い子と遅い子も、この時点では、素質よりも育ってきた環境で、どのくらい経験してきたかが差となります。
話すことや歌うこともそれと同様です。声を出すこともそこに含まれます。
球技や楽器などは、それと比べると、特殊です。初めて接した日がスタートだからです。日常で接する環境もあるとは思いますが、歩くことやしゃべることほど、全ての人に共通な体験ではありません。
でも、子供の頃からそういうことを行っていても、中学校で3年間、その部活を始めた人には追い越されてしまうでしょう。
なぜなら、クラブではその競技のために、必要な体力や筋力を鍛えて、毎日のように練習をし、効率的に習得していくトレーニングがあるからです。必要な条件を得て、状況に応じた使い方ができるように調整するからです。
そこが、基礎的なトレーニングと応用トレーニングにあたります。
◯声のあいまいさ
個人的な資質によっては、トレーニングが、どれほど必要かは個人差があります。
1日入門体験セミナーみたいなことでも、一通りは、マスターできるでしょう。しかし、それを何年も続けている人には、かなわないし、周りの人が見たときに、それほど習得できているようには見えないでしょう。
スポーツの場合は、勝敗やタイムなどで結果が常に明示されるので、上達基準がわかりやすいです。それに対して芸術畑のものは、オリジナリティーが問われたりもするので、単純に他の人と比べるわけにも、先輩を真似していけばよいわけでもありません。その基準が曖昧のようにみえるので、トレーニングとそのプロセスが、とてもわかりにくいのです。
歌唱であれば、そこは音楽ですから、楽器の上達のようなプロセスをとることはできます。音程、リズム、発音などのよしあしは、判断しやすいからです。ただし、それは歌い方であって、声そのものとは違います。そこはカラオケ採点機能での点数と思ってください。
楽器の音色は、製造業者が完成させていますから、買った時点でおかしければ不良品です。しかし、声には完成品も不良品もありません。
しかし、私は、魅力的な声や通る声など、あるいは、練られている声とか使いやすい声など、「プロの声」というのを想定しています。
歌では、一人ひとりの声が違うということと言葉があるということで、違いとなります。これまた音楽におけるプレイヤーの上達基準ほどには、明確にならないのです。
声優や役者となると、せりふなので、もっとわかりにくくなります。
現に、歌手や役者というのは、専門的なトレーニングや基礎トレーニングを全く行っていない人でも、オーディションに通ったり、いきなりデビューしたり、売れたりするようなことがあります。これは少なくとも楽器のプレイヤーではありえないことです。
ですから、そのようなところに目的を持つと、上達のプロセスがあるのか、そもそもヴォイストレーニングが必要なのかというような疑問さえ、出てくるでしょう。
私のところにも、ポップスのプロの歌手がいらっしゃいます。本人が「基礎がなくて恥ずかしい」とか「ヴォイトレをやったことがない」という人もたくさんいます。
そういう人たちの多くは、ヴォイトレという形で習得しなかっただけで、ヴォイトレと同じ以上のことを経て、歌うだけの基本が身についているのです。
耳で聞いて歌ったりせりふを言ったりしているなかで、能力が開発されてきたわけです。ポピュラーの歌手の場合は、そういう人の方が多いのです。ですから、私も安易にヴォイトレの中に埋もれることは、よいことだと思っていません。
◯鍛錬した声
一方で、オペラ歌手では、誰にも習わず発声のトレーニングもせずに、一流になったという人はほとんどいないでしょう。それは、すでにある世界の伝統を継承しなければいけないということもあるし、単に声が出ればよいことではないからです。
しかし、大切なポイントは、トレーニングをしなければ、その声が出なかったということです。つまり、そこでは、声をつくってきたプロセス、声づくりがなされてきたことが示せるのです。
ここのトレーナーは、声楽を長年、勉強しています。誰でも同じように、あるところまで基礎というのが身につくという方向をとるのなら、自分だけでなく、まわりの人が声力がついていく経験を共有していないと、本当の基礎をふまえて長期的に指導していくことは難しいです。
役者やポップスの歌手は、オペラ歌手の声が出せるわけではありません。ジャンルも違うし目的も違うからです。しかし、1フレーズくらいは、同じようにも出せなくては、本当のプロ、声のプロではないとも思います。
何もクラシックの声が人間離れしているのでなく、練りに練られ鍛えられたものにすぎないからです。そこで、声優や役者にも勧めています。
(とはいえ、日本の声楽家でもきちんと基礎を習得しているのは、少数と思います。)
◯カラオケ基準の歌手とトレーナー
日常の普通の声でそのまま歌うほうがよいというようなカラオケ基準で見ると、そもそも本格的なヴォイストレーニングは必要ないのです。カラオケは小さな声でバランスよく高めに歌うほうがうまく聞こえる装置だからです。
そして、今の日本の歌手やトレーナーは、そこにマッチさせた人ばかりともいえるようなガラパゴス状況に偏ってきたからです。それなら、YouTubeのトレーナーでも充分でしょう。
声をつくる、声を育てるというところが必要がなく、持っている声をどのように使うかというようなアドバイスになっているからです。
初期の段階で、私は、ヴォイストレーニングとヴォーカルアドバイスをわけました。これは、ヴォーカルアドバイスにあたります。
役者についても同じです。昔は「役者声」とでもいえるものがあり、舞台から、客席2000人くらいに聞こえる声が必要とされました。悪役声というのもありました。
役者も歌手も、マイクを含めた音響技術が整ってきたために、声が大きいとか響くとかいうようなことは、それでフォローされ、別の才能を求められるようになってきたともいえます。カラオケでいうと、一番わかりやすいのは、高い声が出るかどうかでしょう。
アナウンサーでも、声が大きく響くような人が求められていた頃からみると、これは、時代の変化です。
歌謡曲からJポップスへの流れ、マイケルジャクソンのPVあたりから、音より映像での効果、ダンサブルな歌手やグループの流れが強まり、小室哲哉さんの時代にと大きく変わっていったのです。
伝統芸能者に、ここが重宝されているのは、ここがマイクなど音響機器に頼らずに勝負できる声を鍛え上げているからです。
◯応用における2つの独自のレッスン
本論に入ります。基礎と応用というところから述べます。
応用のところは、演出やバランスを整えるというふうに考えてください。
今のヴォイストレーニングは、ほとんどそこに焦点を当てています。ですから、高い声を出す、裏声をうまく使う、ミックスヴォイスや地声から裏声の切り替えをうまくする、などが、メインの課題となります。
ただし、私の考える応用というのは、そういうことではありません。どのテンポやキーで歌うのか、歌の構成や展開をどのようにしていくのか、メリハリをつけたフレーズで、どのような表現をしていくのかというようなことです。
それについては、トレーナーに教えられることよりも、一流のヴォーカリストの歌唱を研究していくことです。そのなかで、自ら感性を磨き、自分なりに表現して試行錯誤していくしかないと思っています。たくさんの優れた曲を聞き、音楽や歌唱のの感覚を入れていくということです。
そのための指導は、ほかでは受けられない独自のものです。材料や基準を与え、自分で組み立てていきます。ノウハウやテクニックで逃げないようにします。
私は、その人の声や歌の可能性、表現やオリジナリティを見出そうと聞いています。そこでのチェックも同じく、独自のものです。そのために課題曲を選定して、表現のための歌唱力レッスンをしています。
(福島英のレッスン曲史(福島英のヴォイストレーニングとレッスン曲の歩み)やスタンダード曲 同曲異唱での学び方[同曲異見](byトレーナー)の解説などを参照ください。)
◯基礎における3つの独自のレッスン
基本、基礎というのはシンプルなものです。私は新刊「ヴォイストレーニング大全」のなかに、初心者でもできるところのレベルでレコーディングさせました。しかし、上級者でも充分に同じメニューが使えるのです。
たくさんのメニュー(CD1:83 CD2:63)がありますが、肝心のメニューは、3つです。
1つめは、1つの声を長く伸ばします。いわゆるロングトーンです。これを10秒から20秒、20秒から30秒と完全にコントロールできるようにしていきます。
2つめは、スケール練習です。ドレミレドのスケールを各音2秒から4秒、合計で5分ですから、10秒から20秒で、これまた完全なレガートのフレーズとして出せるようにしていきます。
3つめは、母音を揃えることです。5つの母音を、全く境目がわからないくらいに同じように、ロングトーンの中に入れていきます。「あーえーいーおーうー」です。
最もうまく声が出ていると音の高さで行ってみてください。
そこでおよそ3年分の課題があるのですが、それだけでは飽きてしまうというより、できていないことに自分自身で気づきにくいので、その高低に半オクターブずつぐらい、合計で1オクターブを基本の練習音域とします。
実際は、もっと応用して、2オクターブくらいで練習することもあります。
スクールなどでは、このテキストのCD2枚を2か月か、長くとも半年で終え、もっと複雑な課題に進んでいるでしょう。
たとえば、このテキストには、音大生の必修の発声教本「コンコーネ50」の第1番だけ、3パターンで入れています。2年で全50曲マスターするのもよいのですが、私は、その後にでも、この第1番を完成させていくことを課すわけです。
ただ歌うだけなら、音大受験生どころか中学生でも歌えるのです。皆さんもすぐ歌えるでしょう。音域もドから高いミまでです。しかし、その声、歌唱でどこまで聞かせられるか、伝えられるか、そのベースとなる声づくりを目指すのです。プロ、専門家とわかる声でこの1曲応用してこなしてチェックするということです。
◯基準の違い
大切なのは、音を正しくあててとるようなことではありません。発声として理想の条件をもつ身体(喉)と状態(発声法)を身につけていくことです。
この辺りが、巷のヴォイストレーニングとは、違うというか、全く逆なのです。
基礎ではシンプルに心身と一体化した声にまとめ上げていきます。
それは、応用での発音や音程などをクリアに出しわけていくことと真逆でしょう。
・5母音を明瞭に言いわけるのでなく、同じように発声できるようにする、
・音域が違っても同じ音色で高低を感じさせない発声で同質にする、
・歌い上げるのでなく、言葉をしゃべるように歌にする、
それは小さな声で口先でバランスを取るのでなく、体からの深い息からの深い声で動かしていかないとできません。
イメージがとりにくいなら、歴代の一流の歌手の歌唱を聞いてください。オペラでもよいです。そういう歌い方を望むかどうかではありません。そこは自由に選んでいけばよいのです。
自分に与えられた心身を充分に鍛えて、あらゆる声の可能性を追求する、声の器を大きくして、自由度、応用できる幅を広げることです。そこにヴォイトレをおくということなのです。
◯応用できる基礎
何か新しいスポーツに挑むとき、なんであれ、他のスポーツや武道の経験者は、有利です。そのことで鍛えられた心身には基本があり、応用が利くからです。体の基礎トレーニングは共通するのです。
私は、その次元でヴォイトレを捉えているつもりです。ですから、話す声と歌う声も区別しません。
いろんなプロが、自分で、あるいは海外や劇団などで、ヴォイトレをしてから、ここにきて、呼吸ひとつ、発声ひとつ、歌の1フレーズで、全く基準や判断のレベルが違っている、自分が全くできていないという体験をしています。
3か月くらいのつもりでいらして、気づいたら5年、10年と続けている人も多数です。
中心のメニューは、私の場合、何年、続けている人でも、半分は、この基礎メニューを繰り返し、深めているのです。
◯よくあるヴォイトレ
研究所では、巷のトレーナーに合わせたヴォイストレーニングを行う場合もありますので、この違いは明らかに示せます。
それを行うのは、それを望む人がいるからです。
声に関して、対応できるなら、何でも引き受けます。それも、ここのサービスであり、研究にも欠かせないものと思っています。
◯まずはやりたいようにスタート
こちらのやり方を一方的に押しつけることはありません。まずは、本人がやりたいことを望むように進めてみます。それでできた、それでよいなら、それで終わりです。
もっと基礎的なことを学びたくなれば始めればよいし、本人に必要なければ要らないわけです。その人の必要度に応じるのです。
ただし、高音域を無理に出したいために、後々、発声の癖が再現性や喉の健康を損なうリスクがあるときは、慎重に進めます。
多くのヴォイトレがマイクのリヴァーブ効果に頼って、テクニカルな発声、ある意味で個性と癖を混同して、無理をして出させます。声量や音色など、もっとも大切な要素を無視して、後で伸びる可能性まで奪ってしまっているからです。
スポーツや武道など、身体で身につけていくプロセスを体験している人も少なからずいるのに、なぜ声に関しては、そのように察することができないのか不思議に思います。身体の大きな筋肉ほど、疲労の限界や疲れ、痛みで教えてくれるわけではありませんから、真面目でヴォイトレで歌唱上達しようという人ほど、気づきにくくなってしまうのかと思います。
◯必要度をあげる
以前に私がグループレッスンで行っていたときは、レッスンそのものより、その必要度を本人が上げていくようにすること、その方が重要な課題でした。
必要性がなければ、ヴォイストレーニングもいらないわけですから、当然のことです。
その必要度が高まらなければ、ヴォイストレーニングの基礎の徹底もありえないのです。
その必要度が、どのようなことなのかを吟味して、進めていくのです。
「誰かのように歌いたい」とか「歌がうまくなりたい」とか、最初の目的は何であれ構わないのですが、そのことが、トレーニングでのプロセスに関連してくるように、具体的にしていかなければ、あるところからの上達は望めません。
◯限界までか限界からか
多くの人は、あるところまで上達すると、自分の才能や資質の限界を感じていきます。そこからは、続けてはいても、実質、伸びていない人がほとんどです。それを大体3年の壁というように私は見ています。自主レッスンだけでは行き詰まるという段階です。
3年までは、誰でも続けて、がんばったなりに、歌やせりふもそれなりに上達していきます。
でも、私たちは常にその先からのレッスンを考えているのです。
◯なぜ本当に上達しないのか(声)
その後の3年、5年、10年というところでどのぐらい上達するかが、本当の勝負です。
スクールでは、ほとんどの人が、ヴォイストレーニングの基礎を3年以上、続けていないので、比べようもないのですが、この3年間に早く楽に上達してしまったがために、そこで自ら限界を設け、固めてしまったといえるのです。
いろんなスクールに行くと、1年目と2年目の違いはあっても、3年目と10年目の違いはありません。それでは単に慣れでの違いです。声を聞いて、わかるような違いはなんら出ていないのです。おかしくはありませんか。
もし楽器の奏者であれば、そんなことがあるわけはないのです。10年続けていて3年しか続けていない人によりもうまくないことは、同じ条件であれば、あり得ません。武道でもスポーツでも、そういうものです。
◯違いのわかる声
声ということが、基準がわかりにくいということとともに、個人差が大きいこと、さらにヴォイストレーニングにおいては、目的とそのプロセスの取り方が根本的に違っていることがいえます。(間違っているのでなく、違っているのです)
最初の1、2年で、私のいう応用、歌唱やセリフの上達をめざすだけで、5年後10年後の上達を考えたような基礎トレーニングが行われていないからです。
そもそも、声そのものの音色や声量、共鳴などに、トレーニングの焦点をあてていません。
ここのトレーナーの声は、一声で違いのわかる磨かれた声です。ぜひ、体験してみてください。
◯基礎ヴォイスづくりを妨げないこと
音域拡大、そこから特にファルセットのテクニック、喚声区の切り替えなどを中心に、声を当てバランスをとることを唯一、トレーニングのように続けている人が多くなりました。それは応用トレーニングにすぎません。
それだけでは、いつまでも一本調子です。フレーズを動かして歌にメリハリをつけるようなことは叶いません。
基礎の必要性を感じないままに続けているのですから当然です。基礎トレーニングとリンクしていない高度な応用練習が、基礎の声力を育てることを妨げているのです。
生声でも、音響技術で、ヴォーカロイドのように聞けるようになりました。その点については、本人が好きに応用すればよいことだと思います。
そのように歌いたい人は、そのようなことをレッスンするようにトレーナーに求めればよいのです。
その要望には、ここでも応じています。その優先度が高い人やそのアプローチが必要、もしくは望ましいケースもあるからです。
根本的な問題は、そうした癖をつけたまま、それでコントロールした「自然な発声」では、本人のステージ活動に発声からの限界、歳をとって声が出にくくなることなどが生じやすいことです。
ですから、そういう歌唱を、好んでいる人にも、基本的な発声、いわゆる発声の原理にかなった理想的で合理的な発声をマスターしておくことの必要性をアドバイスしています。これはアニメ声を仕事としている声優にも通じます。
◯声力の衰退
先ほどのシンプルな3メニューだけでも、普通の人なら、それなりに声やフレーズに違いを出せるのに3年はかかります。プロの歌手であっても、なかなか1年ではマスターできません。
というのは、ポップスの歌手でも、歌の中に、このぐらいの厳しさを求めなくなってきているからです。音響技術や演出効果でフォローできるからです。
プロの作曲家が作っていたような昭和歌謡の時代ですと、こうした条件をマスターしておかないと、1曲どころか、最初のフレーズさえ歌い出せないような歌がたくさんあったのです。そして、そういう歌い手をコピーするところから、次代の歌手の声もつくられていったのです。
たった一声で、一音でわからせる、これは楽器の奏者でもいえることです。一流のプレイヤーが、どれほど自分の音を求めて苦労してきたかということです。
一音でわからないような素人には、1フレーズでわからせる、出だしの1フレーズでわからせることができるのが、プロです。
◯声の可能性の追求を
その2つで勝負ができないときには、構成や展開を駆使して、演出力で、バランスのよい聞き心地のよい歌ということで、アレンジや音響技術をうまく使って勝負することも、歌には残されているのです。
声そのものだけが勝負ということではありません。そういう時代もありましたが、変わりつつあります。
ただし、ここは、ヴォイストレーニングで発声の基礎を習得するところですから、声と声のフレーズの2つに、とてもこだわっています。
それで、アドバンテージが得られない人もいます。しかし、できる限り、まずは声の可能性を追求して、限界まで鍛えておくこと、それぞれの限界を知って、応用していけばよいのです。
肉体芸術として声を使って勝負する世界においては、声の鍛錬と維持管理は、必須のことだからです。
以上、せりふの声よりわかりやすい歌唱での声で説明してきましたが、声優、俳優や一般の人でも同じことです。
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