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✨銀河鉄道の幻想✨

気がつくとそこは汽車の中らしく
カタコトと小刻みに音を立てながら
車窓から見える景色を眺めていた
でも厳密に言うと景色なんて
よく見えなかった…
何故ならもう時刻は深夜に近い時間だったから
群青色の景色がどこまでも続く旅路の途中でポツリポツリと街の灯がぼんやり
浮かび上がる様を見るたび
懐かしいような
侘しいような
なんとも言えない感傷的な気持ちになる
いわゆるセンチメンタルってやつかもしれない…
そんなことを考えながら僕は
時々聞こえるしゃないのアナウンスに耳を傾ける
次は…夢川綺羅ちゃん
5歳3ヶ月女児
車掌の声が響き渡ると汽車はゆっくりと
でも少しだけ耳を塞げたくなるような汽笛を鳴らしながら火花が散るような感覚を体で感じる振動と不快感と共に停車した
ドアが開くと幼い女の子が不安そうに一歩また一歩おぼつかない足取りで車内に現れた
キョロキョロしながら座席の通路を歩く女の子の腕にはしっかりと抱きしめられたウサギのぬいぐるみが見えた
でもそのウサギのぬいぐるみは何故か?赤く染まっていた
お兄ちゃんの隣に座ってもいい?
女の子は僕の隣の席に座ると
お兄ちゃんはどこから来たの?
少しだけ安心したような様子で聞いてきた
僕…僕は…えっと…確か3時間位前に…
とそこまで答えると頭の回路が完全に思考を停止してしまった
そうだ…僕は何で?汽車に乗ってるんだろう…

我に帰りつつなんだか判断が乏しい僕はその理由にはたどり着けず
困惑したまま女の子の言葉に返す
答えを見つけられずにいた
すると斜め前の席の老夫婦らしき2人がこっちの方に向かって
かわいそうに…まだ若いのに…お気の毒に…
と哀れむような目でそう言った
僕は何を言っているのか?わけがわからないままなんだかウトウトしてきて
そのまま眠ってしまった
汽車のカタコトカタコトと揺れる振動が夢心地のような気分になっていたからだ
とその時…
女の子は僕の安眠を妨げるように
お兄ちゃん!お兄ちゃん!
そう言って
僕の腕を擦る
女の子の小さな手は驚くほど冷たい
あたしママのところに帰りたいよ!
でもママがどこにいるのかわからないの!
僕は心配そうに涙を浮かべながら哀願する女の子の冷たい手をぎゅっと握りしめた
次は…雨宮冬馬さん
37歳8ヶ月男性
車掌のアナウンスが響き渡るとサラリーマンらしい男性がうなさねながらこちらに向かって歩いて来る
また汽車に乗らなくちゃ行けないのかよ!もうたくさんだ!俺はそんな毎日から逃れたくて飛び込んだのに
何でまた汽車に乗ってるんだよ!
男性の慟哭が車内にいる人々の不安を煽り一応に皆悲壮感を漂わせながら無口になるしかなかった
僕はこの状況下の中でひとつひとつパズルを合わせるように答えを見つけようと必死だった
この雨宮と言うサラリーマンらしい
男性は確かさっききしに飛び込んだ?って言ってたけど…それも何度も何度もって…それってどうゆう事なんだろう…
僕はそれまで無関心だった車内の人々の様子を見渡した
そしてその様子に息が止まりそうになった
病衣を着て鼻からチューブを差し込まれたままの中年男性
大怪我をして脇腹を押さえる少年
恨みつらみを呟き凝視したまま硬直している老女
真っ青な顔で立ちすくむ若い女性のその手にはナイフが握りしめられていた
そしてあの老夫婦の体は2人とも下から半分が透けていた
一体これは…どうゆう事なんだ!
僕は何でこんなところにいるんだ?
僕は何で知らない人々と一緒に汽車になんか乗ってるんだ!
取り乱した僕の肩にそっと手を置いた車掌が僕を正すかのように優しく語りかける
君は何も覚えていないのかな?
えっ…
僕の脳裏に突然ある光景かフラッシュバックする
車の急ブレーキの音
そして宙に舞う自分の体
でもそこからの
記憶はまるで見始めた映画をプツリと切られたかのように
ストップしてしまった
これって…これって…
もしかして…
僕は冷静になれるほど大人じゃない
そうだその日僕は学校に行く時間なのに寝坊して焦りながら猛スピードで自転車を走らせていた
信号が青に代わるのを待ちきれず無視して交差点を走ろうとした時…
そこからの記憶はまったくなかった
ポタポタ…髪の毛の間から生暖かい感触を感じなんとも言えない違和感を感じた僕はその部位にそっと手を当てて見た
ポタポタ…と取り留めもなく足元まで
鮮血が流れる自分の姿に僕は言葉を失った
お兄ちゃん…
心配そうに僕の方を見つめる
女の子の身体は右側半分が透けていてウサギのぬいぐるみにはベットリとおびただしい量の血に染まっていた
女の子はあたしママと妹と公園でブランコに乗ってたの
そしたら妹がお菓子が食べたいって言うからママが妹を連れてベンチのところに行ったの
あたしはそのまま1人でブランコに乗って遊んでたんだけど
大きくこいだせいでブランコから落ちちゃって…気がついたら病院にいて
ママとパパと妹があたしの名前を呼びながら泣いてるから
あたしは何度もママ!パパ!って 呼んでるのに
あたしの声に気づいてくれなかったの…
次は…草薙可憐さん
24歳11か月女性
車掌のアナウンスが響き
顔面蒼白な女性が現れた
僕はもうこの世に存在しないんだ…
お兄ちゃん…
女の子の冷たい手は温度を感じられないくらいに無機質だった
僕たちを乗せた夜行列車は
ゆっくりと走り出す
次の終着駅は何処なのだろうか…









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