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林霙
2023年8月12日 08:29
ぼんやりとした雲が、青空を覆っていた。 華は、翠と長い坂道を登っていた。 潤の住んでいるマンションは、丘の上にあるらしかった。九月の風が、どこか秋の近づくのを感じさせる。「え、潤と翠さんが、親戚?」 翠が潤のいとこであることを、彼女から伝えられた時、華は驚いた。さらに、驚いたのは、潤が自分の家族のことで、かなり悩んでいる、と聞かされたことだ。「潤君のお母さん、病気なんだって。一人で介
2023年8月11日 11:25
校舎の裏庭は静かだ。たまに園芸部の生徒たちが来て、小さな畑を耕したり、苗を植えたりしているのを見るくらいだ。 華は、潤が来るのを待っていた。「人の口に戸は立てられぬぞ」 そんなセリフをどこかで聞いた気がする。 潤と翠が二人きりで歩いていたという話は、一日であっという間にクラスメイトたちに広がってしまった。 この際、二人のことなどどうでもいい。(なんで、わたしまで巻き込まれなければなら
2023年8月9日 10:47
制服の男女は、あきらかに潤と翠だった。(どうしてふたりで歩いているんだろう) 華は、その出来事を、まるで別の世界を眺めているような気持ちでいた。けれども、心の中では、もう一人の華が、どこか途方に暮れた姿で立ち尽くしていた。(いやだな) 華は、自分のなかに、明らかな嫌悪感が生まれつつあるのを感じた。嫌悪感は、制服の男女に対してなのか、華自身の心の惑いに対してなのかわからなかった。 はっき
2023年8月8日 19:25
いろいろあった夏休みだった。一階の教室で水泳部の男子生徒たちがミーティングをしていると聞いたので、華はいつものように潤を待つことはせずに下校したのだった。それからまっすぐに家に帰ればよかったのだが、ふと足を止めて、マックに入ったのがまずかった。 思いのほか店内はすいていて、華は一番好きな2階の窓側のカウンターへ腰かけた。窓から見える街は、すでに夕暮れだったので、華はどこか落ち着いたうっとりした