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カニさんとじゃんけんをしたよ。

少し前、ちょっと珍しい体験をしたので、ご報告します。ちょっと前、海に行ったんです。なんというか、僕、何かに悩んだ時、海岸沿いを歩く癖があるんです。かっこつけてませんよ?世界に開く海を見ていると、自分の悩みのちっぽけさに気づくんですねぇ。


そんな時、浜辺をお散歩中の一匹のカニさんに出会ったんです。
僕は、最初カニさんと海と陸の違いをあれこれ話していたのですが、カニさんをどうしても食べたくなり、よだれが溢れてきました。
そこで、僕は唐突に「悪いけど、食べてもいいかい?」と尋ねました。
すると、カニさんは「僕にじゃんけんで勝ったらいいカニよ」と、意外と乗り気な様子でした。カニと話したのは初めてでしたが、語尾がカニだったことに少し感動しました。


僕は、しめたものだと思いました。皆さん知っての通り、カニの手の形状はハサミとも形容されるように、じゃんけんでいうとチョキの手です。その手に対して、僕がグーを出せばその時点で勝利。小学生でもわかる簡単なお話です。「下等生物め、そんなことも分からんのか。」そんな言葉が脳裏に浮かび、私はもう、カニさんを食材としか見ていないことに気づきました。


間もなく、じゃんけんが執り行われました。
さいしょはグー、じゃんけんポン!!
夕焼けで赤く染まった海辺の空に、互いの声がこだましました。

カニさんは、僕の狙い通りチョキを出しました。僕は勝ったのです。そして、手を合わせ、いただきますと呟き、カニさんに手を伸ばしました。
しかし、カニさんは「僕は負けていないカニよ?」と言うのです。負け犬の遠吠えか。と思いつつも、仕方ないから言い分を聞くことにしました。

カニさんは、「君はグーを出した。僕はパーを出したカニ」と言うのです。そんなはずがありません、確かにチョキでした。
僕が困惑していると、カニさんは悠々と語りだしました。「僕は、目一杯手を広げてるカニ。だからチョキに見えてもパーだカニ。君の負けカニ。」一時は感動を覚えた、語尾のカニもイライラしてきました。

カニさんとの思い出の一枚。これパーらしいです。

しかし、僕もそこまで馬鹿じゃないので、この勝負に勝てないことに気づきました。カニにパーがあったなんて…。チョキを出したって、「これはパーじゃない、チョキだカニ」と屁理屈めいたことを言われるのが目に見えています。八方塞がりです。



これまで、じゃんけんが世界一弱いと思っていたカニが、ここまで強いことに愕然とし、自分の常識がまた一つぶち壊された感覚でした。
やれやれ、食えねえ奴だぜ…


あれから、カニさんとは家族ぐるみの仲になりました。昨日の敵は明日の友。今では、すっかり親友です。でもたまに、食べたくなる僕なのでした。

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