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【小説】魔急精神病院〜ココロ〜

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「もし、精神医療が遊園地のアトラクションになったら?」を描いた小説、「魔急精神病院」シリーズの第二弾です💀精神医療関係者や精神医療を信用されている方、減断薬中で離脱症状が辛い方々…
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記事一覧

魔急精神病院〜ココロ〜 第1話

魔急精神病院〜ココロ〜 第1話

「うぅ、グス、グス…」
 2025年6月、24歳の会社員、波野日和(なみのひより)はノートパソコンを見ながら、外の雨に負けないくらいに涙を流していた。
「(風呂から)上がったよ…って、どうしたの!?」
 日和の同い年の夫、唯史(ただし)は日和の泣き腫らした顔を見て驚いた。
「えっと…この動画に感動してね。思わず泣いちゃったの」
 日和は涙を拭きながら、ノートパソコンの画面を唯史に見せた。そこには、

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魔急精神病院〜ココロ〜 第20話【完】

魔急精神病院〜ココロ〜 第20話【完】

 紗良と鈴木が小洒落たイタリアンレストランで夕食を食べている時、魔急精神病院では、院長室に院長と松葉杖をついている精神科医の五味、絆創膏や包帯だらけの横島に病院の重役が10人ほど集まっていた。
「…全く!折角、君を沖縄から呼び戻したのに、患者1人と東方、清掃員のじいさんを逃がした上、不動たちの遺品を取られてしまったではないか!」
 院長はひどくイライラしていた。彼はデスクチェアにどっかり座り、デス

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魔急精神病院〜ココロ〜 第19話

魔急精神病院〜ココロ〜 第19話

「白石の分も開けてもよろしいでしょうか?」
 紗良が、白石の段ボール箱の上に両手を置きながら言った。11人が一斉に首を縦に振ったのを見て、紗良は丁寧に段ボール箱を開けた。
「これは…!」
 段ボールの中には、白石の取材メモ帳とボールペンの他に、小さなベージュ色のリングボックスが出てきた。紗良は震える手でそれを持ち上げると、恐る恐る箱を開けた。
「中身はカラか…ん?」
 紗良が箱を開けた時に小さな紙

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魔急精神病院〜ココロ〜 第18話

魔急精神病院〜ココロ〜 第18話

 翌日、ゲスト6人は身支度をし、東方家で用意された新しい服に着替え、朝食を済ませた後、昨日東方が診察に使っていた応接間に集合した。応接間のテーブルの上には遺品の入った段ボール箱が置かれていた。その後、午前11時に続々と遺族が東方邸にやってきた。この日、来訪してきたのは、不動の息子の実斗、駆とその母親の眞子、首藤の妻の万智だった。
「皆様、お暑い中ありがとうございます」
 東方たち7人は、4人に丁寧

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魔急精神病院〜ココロ〜 第17話

魔急精神病院〜ココロ〜 第17話

 その後、豪勢な夕食を堪能した7人は各々、ソファでくつろいだり、寝る支度をしたりしていた。そんな中、東方はさりげなく紗良を誘導し、2人は広間をでていった。
「鈴木さん、荒井さんと東方先生が出て行っちゃいましたよ」
 心は、鈴木に心配そうに声をかけた。
「あぁ…でも、後を付けるのは野暮だよな」
 鈴木は、嫉妬で気が狂いそうだった。
「でも、いいんですか?もしかしたら荒井さん、東方先生に取られちゃうか

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魔急精神病院〜ココロ〜 第16話

魔急精神病院〜ココロ〜 第16話

 その後、一行を乗せた車は高速道路を降り、しばらく走行すると、閑静かつ洗練された住宅街に入っていった。どの住宅も高級で、住人のこだわりの詰まったお洒落な造りだった。そんな高級住宅街の中でも一際目立つ豪邸が、東方の実家だった。
 3階建てのその豪邸の敷地は200坪ほどあり、建物は、ソーラーパネルの付いた黒い屋根に金色の装飾が施された白い壁でできていた。また、庭も緑豊かで大層美しく、大きな池の中央には

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魔急精神病院〜ココロ〜 第15話

魔急精神病院〜ココロ〜 第15話

 数分後、猟師の宿舎に到着した3人は、既に先に到着していた4人と再会した。7人は、全員が生きて魔急精神病院を出られたことに大いに喜んでいた。
「猟師の皆様、本当にありがとうございました」
 紗良は猟師たちに深々と頭を下げた。
「こちらこそ、皆様とお会いできて良かったです」
 猟師の1人が丁寧にお礼を返した。そして、記者たちが私服に着替えると、トラックには仙石が乗り、紗良たちが乗ってきた車には、紗良

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魔急精神病院〜ココロ〜 第14話

魔急精神病院〜ココロ〜 第14話

「ありがとうございます、鈴木さん!」
 田中は山道を駆け抜けながら、鈴木に声をかけた。
「こちらこそ!田中さんがいなければ、俺は横島に殺されていました。顔は大丈夫ですか?」
 鈴木は田中を気遣いながら、こう返答した。
「正直痛いですが、歯は折れてないし、大したケガはなさそうです。この日のために2人で格闘技を習って正解でしたね。俺はあまり役に立てなかったけど」
 田中は赤く腫れ上がった頬を押さえなが

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魔急精神病院〜ココロ〜 第13話

魔急精神病院〜ココロ〜 第13話

 仙石のトラックが職員用の出入口に着くと、仙石はトラックの窓を開け、鍵束を警備員に返却した。「これで何事もなく、魔急精神病院から出られる」と仙石が心の中で安堵したのも束の間、トラックの前に突然、1人の人間が立ち塞がった。
「そこのトラック、ちょっと待ってください!」
 仙石は口から心臓を吐かんばかりに驚いた。仙石が恐る恐るフロントガラスに目を向けると、そこには何と社員旅行で不在な筈の横島が腕を組み

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魔急精神病院〜ココロ〜 第12話

魔急精神病院〜ココロ〜 第12話

 数分後、彼らは診察待ちの暗い顔をした患者に混じって、「院長室」と書かれた黒檀に金の細工が施された豪華な観音開きの扉の前に立った。そして、東方がポケットから白い手袋を取り出して嵌め、スペアキーで院長室の扉を開けると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
 30畳ほどの広々とした部屋は、ホテルのように豪華で、床にはペルシャ絨毯が敷かれ、様々な高級な調度品が高級家具の上に飾られていた。また、院長はここ

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魔急精神病院〜ココロ〜 第11話

魔急精神病院〜ココロ〜 第11話

 3人が資料室を出ると、先ほどの2人の看護師に「またいつでもいらして下さいね」と猫撫で声で話しかけられたが、3人の耳には入っていなかった。彼らはナースステーションから小走りでエレベーターに乗り、地下倉庫へと向かった。そして、東方は第一倉庫をスペアキーで開けた。
「仙石さん!」
 3人は仙石たちに興奮気味に声をかけた。
「静かに!目立つ言動はしないように」
 仙石は、紗良たちとリアカーに遺品の入った

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魔急精神病院〜ココロ〜 第10話

魔急精神病院〜ココロ〜 第10話

 一方その頃、東方たち3人はナースステーションにいた。
「すみません。東方ですが、奥の資料室に入ってもよろしいでしょうか?」
 東方は、カウンターに後ろに座っていた2人の女性看護師に尋ねた。
「あら、東方先生!珍し〜い」
 東方たちから見て左側のギャルメイクの若い看護師が、色目使いをしながら言った。
「そちらのお二人は?」
 右側に座っていた関取のような体型のオカメ顔の看護師も、獲物を狙う肉食獣の

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魔急精神病院〜ココロ〜 第9話

魔急精神病院〜ココロ〜 第9話

「動画はどう?私、今日は眠いからもう寝るね」
 お風呂から上がり、パジャマ姿の日和が唯史に声をかけた。
「うん、面白いよ。明日は休みだし、時間もまだ22時過ぎだから、このまま見ちゃうね。お休みなさい」
 唯史は日和にこう言うと、再び画面に視線を移した。
 紗良たち6人は他の職員に混じって、正面玄関から病棟内に入った。受付ロビーには患者はいなかったが、沢山の病院職員で賑わっていた。
「これでも、かな

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魔急精神病院〜ココロ〜 第8話

魔急精神病院〜ココロ〜 第8話

 翌日の早朝、蝉の大合唱に包まれながら、4人は猟師の宿舎を目指し、車で移動していた。鈴木以外の3人は魔急精神病院に顔が知られているため、皆マスクを付け、紗良と千夏は伊達メガネを、田中は茶髪のウィッグを付けていた。
「荒井さん、メガネ似合いますね」
 鈴木はやはり顔を赤らめながら言った。
「ありがとう」
 そう言いながら、紗良はソワソワしていた。
 午前7時、一行は猟師宿舎に到着した。2階建てのアパ

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