魔急精神病院〜ココロ〜　第1話

　八急アイランドのお化け屋敷、「魔急精神病院〜カケル〜」のオープンから1ヶ月後の6月上旬に、1本のプロモーション動画が八急アイランドのHP上で限定公開された。それは、医療保護入院で入院させられた17歳の高校生、結城駆の命を救った不動と木野、秋原と、魔急精神病院に不条理に命を奪われた白石と首藤の遺品を取り戻さんとする人々の愛と勇気のドラマだった。これは、薬物療法中心の精神医療に一石を投じるかも知れない物語である。

「うぅ、グス、グス…」
　2025年6月、24歳の会社員、波野日和(なみのひより)はノートパソコンを見ながら、外の雨に負けないくらいに涙を流していた。
「(風呂から)上がったよ…って、どうしたの！？」
　日和の同い年の夫、唯史(ただし)は日和の泣き腫らした顔を見て驚いた。
「えっと…この動画に感動してね。思わず泣いちゃったの」
　日和は涙を拭きながら、ノートパソコンの画面を唯史に見せた。そこには、「魔急精神病院〜ココロ〜」と書かれたサムネイルと簡単なストーリーが表示されていた。
「魔急精神病院のHP上で、アトラクションを体験した人限定で掲載されている動画なんだ。怖いのかと思ったが、感動作なんだね」
　唯史はまじまじと画面を見ていた。
「じゃあ、私はお風呂に入るね。私はもう見終えたから、唯史さんも最初から再生していいよ」
　日和はそう言うと、ソファから立ち上がり浴室に向かった。
「日和は本当に魔急精神病院が好きなんだな。でも、確かにこれ面白そうだな」
　唯史はそのように独り言を言うと、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ソファに座ると、それを「プシュッ」と開けた。
「ひょっとしたら、これもホラー要素が強いかも。でも、アルコールを入れれば何とかなるか」
　唯史は独り言を言いながら、ビールを一口飲み、マウスでその動画の再生ボタンをクリックした。

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