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魔急精神病院〜ココロ〜 第10話

 一方その頃、東方たち3人はナースステーションにいた。
「すみません。東方ですが、奥の資料室に入ってもよろしいでしょうか?」
 東方は、カウンターに後ろに座っていた2人の女性看護師に尋ねた。
「あら、東方先生!珍し〜い」
 東方たちから見て左側のギャルメイクの若い看護師が、色目使いをしながら言った。
「そちらのお二人は?」
 右側に座っていた関取のような体型のオカメ顔の看護師も、獲物を狙う肉食獣のように、東方と若い看護師に扮した2人に熱い視線を送っていた。ケバケバしいアホ丸出しの看護師と、3人よりも10歳以上は年上であろうその看護師の色仕掛けに、3人とも吐きそうだった。
「臨時職員の渡辺さんと山本さんです。あの、入ってよろしいでしょうか?」
 東方は内心苛々していた。
「勿論です。どうぞ」
 オカメ顔の方がそう答えた。3人は変な汗をかきながら、資料室に入った。
「ねぇ、あの中だったら誰が好み?」
 オカメ顔はクスクス笑いながら、ギャルメイクに言った。
「めーたんは断然、あずまっち!お医者様だし、お金持ちだもん。玉の…何だっけ?」
 めーたんは馬鹿丸出しで尋ねた。
「玉の輿でしょ?アンタ、よく看護師試験に受かったね。アタシは色黒の子かな。体育会系の男、好きなんだよね~」
 オカメ顔が下心丸出しに言った。そんな2人の下卑た話し声と笑い声は、資料室の中まで聞こえていた。
「下品な職員で申し訳ない」
 東方は青ざめながら、2人に小声で謝った。
「魔急精神病院には、あんなレベルの低い看護師しかいないんですか?」
 鈴木は怒り心頭だった。そんな鈴木を田中が困り顔で宥めながら、こう言った。
「まぁまぁ。とにかく、資料を探しましょう。あと、さっき高橋さんから連絡が来て、遺品は見つかったそうですが、不動先生の手記だけがないそうです」
「なぜ、不動先生のだけ?分かりました。3人で手分けして、手掛かりとなる資料を探しましょう」
 東方がそう言うと、3人は一斉に資料室で捜索を始めた。資料室には、患者のカルテや医学書などが沢山保管されていた。その中で遺品に関する資料を見つけるのは至難の技だった。
「見つかりそうにないな、これ…うん?」
 田中が独り言をボヤきながら書庫を探していると、「【院内秘】持出厳禁」と書かれた黒いカバーのファイルが目に止まった。田中はそのファイルを別の書庫を捜索中の東方に手渡した。彼らは慎重にファイルを開くと、そこには「ブラックリストー要注意人物」と書かれた資料が綴じられていた。
「魔急精神病院にとって、都合の悪い人物や企業の一覧ですね。ユースティティア株式会社さんは見事に入っています。横浜湘南新聞は削除されてますね」
 東方はそう言いながら、パラパラとページを捲ると、「不動託司(死亡)」と書かれたページがあった。2人は急いでそのページに目を通すと、このようなメモ書きを見つけた。
「不動の手記→院長室金庫に保管」
「え〜!!」
 田中が思わず大声を上げた。東方はすかさず、田中の口を塞いだ。幸い、外には聞こえておらず、鈴木だけがビックリしていた。
「たな…じゃなくて、山本さん、声大きいですよ」
 そう言いながら、鈴木は入口から見て最奥の書庫から小走りでやってきた。しかし、鈴木もその資料を見て、血の気が引くのを感じていた。
「これは厄介ですね。院長室はこの階の第一診察室の左側にありますが、院長室と金庫の鍵が必要です。山本さん、仙石さんたちに連絡してくれますか?」 
 東方にそう言われ、田中はグループRINEで連絡し、東方は資料室の入口付近にあるコピー機で持出厳禁フォルダの不動のページを2部コピーした。
「予備として、もう1部コピーしました。倉庫に行きましょう」
 東方はコピーを四つ折りにし、白衣のポケットに入れると、足早に資料室を出た。鈴木と田中も慌てて、東方の後を追った。

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