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「誰でもできる」からこそ

新日本プロレスの東京ドーム2連戦。私的ベストバウトは↑でした。とにかくわかりやすくて面白かった。シンプルに没頭できましたね。

プロレス界には「インスタ映え」ならぬ「ドーム映え」という概念があります。ドームはリングに対して箱が広過ぎるため、大抵のお客さんはオーロラ・ビジョンで観戦します(リング上も肉眼でチラ見しつつ)。つまり選手にはいつにも増して会場の隅々まで伝わる試合、最後列まで熱の届く「わかりやすい闘い」が求められるわけです。ゆえに細かい理屈を抜きにした力と力のド直球勝負が組まれやすい。これが最高に映えるのです。

パッと思いつくのは1990年新日本の「ビッグバン・ベイダー vs スタン・ハンセン」や同年の日米レスリングサミットにおける「スタン・ハンセン vs ハルク・ホーガン」、そして2002年秋の「中西学 vs ボブ・サップ」など。2005年ノアの「小橋建太 vs 佐々木健介」も忘れられません。破壊力十分の逆水平チョップを互いに5分以上(計218発?)打ち合い、ファンを大熱狂の渦に巻き込んだ伝説の一戦。

昨今の新日本はエルボー合戦がトレンドです。タイトルマッチ級の試合ではほぼ毎回見られます。膝を突いた状態で打ち合えば客を沸かせつつスタミナも回復させられて一石二鳥。でも私はチョップの方が好みです。音の迫力だけでもすごいのに、胸板が腫れたり切れて血が出たりすることで痛みが濃密に伝わってくるから。

ノアには丸藤正道や潮崎豪など、新日本にはいないチョップの名手がいます。もし潮崎が新日本に上がってチョップを放ったら、一発でドーム全体にどよめきを生むでしょう。2007年、小橋がガンからの復帰戦でマシンガンチョップを繰り出した際、食らった秋山準は「これだよこれ」という笑みを浮かべ、解説席に座っていた本田多聞は涙を浮かべました。あのプロレス史に残る名場面で使われた技はシンプルなチョップ、ただそれだけでした。

「こんなの俺たちには絶対できない」という危険な技や高難度で華やかなハイフライは間違いなく銭の取れる仕事です。と同時に、誰でもできることで誰の目にも明らかな違いを見せることもまたプロの芸当。大技をガンガン出し合う試合もいいですけど、蹴り一発、チョップ一発で伝わる闘いも大事にして欲しいと思った次第です。





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