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「楽しい反戦小説」のススメ

連日ニュースを見るたびにいろいろ考えます。

皆さんは「反戦小説」と聞いたら何を連想しますか?

最初に頭に浮かぶのは、やはり野坂昭如「火垂るの墓」でしょうか。未読です。どういう内容かは知っているので、つらい気持ちが読みたい心情を上回ってしまうのです。

でもいずれ挑みます。

ただ「反戦」を訴えるアプローチの仕方はひとつじゃないですよね。映画ならチャップリンの名作「独裁者」のやり方とか。最後のスピーチが圧倒的ですが、そこへ至るまでにはコメディ及びパロディ要素がふんだんに盛り込まれています。存分に楽しめました。

「反戦」が込められた作品を「楽しむ」行為は不謹慎ではありません。そういうことを言ってくる人はいます。でも堅苦しい正義のあり方や視野の狭い道徳観念を押し付けてくる輩は相互理解への意志を著しく欠いており、むしろそちらこそ「反戦」から懸け離れていると感じませんか?

ただ作品を楽しみ、結果的にメッセージを受け取る。それでいいと考えています。

たとえばニンジンの苦手な子がいたとします。いくら身体に良くても、無理に食べさせたらますます嫌になる。でもジュースにしたら美味しく飲めるかもしれない。私の姉はホウレンソウが嫌いでした。でもある日、母がソテーにしたら全部食べてしまいました。ニンジンやホウレンソウを「反戦」に、ジュースやソテーを「娯楽作品」に置き換えたらしっくり来ませんか?

前置きが長くなりました。そんな私がオススメする「楽しい反戦小説」はこちらです。

舞台は大正&昭和前期の日本。弱きを助け強きを挫く義賊「目細一家」の活躍を描いた人気シリーズです。巻が進むにつれ、時代が徐々にきな臭くなっていきます。かつて「二百三高地」でロシア軍と戦った経験を持つ主要人物のエピソードはかなり重いし、5巻では「五・一五事件」の話題も出てきます。

でもその重さを吹き飛ばす痛快さがこの作品にはあります。肝になるのは講談のような独特の語り口調と各キャラクターの矜持、そして揺るがぬ美学です。

「目細」の異名を持つスリの達人・安吉は言います。

「死にてぇっていうのと、いつ死んでもかまわねえってえのは、大ちげえなんだぜ。そのちげえがわかりゃあ、おめえも一丁前の男だ」
「目細の安吉は天下に仇なす盗ッ人でござんすが、味方のいねえ人の味方でござんす」

主人公の「天切り松」(天切りは、屋根から家に侵入する技)こと松蔵も語ります。

「いかに民主主義の世の中だって、物事の善悪まで数の多寡で決まるわけじゃあねえ。たとえ一握りの善行だって、いいものはいい。みんなしてやろうが、悪いことァ悪いんだ」

賛否両論あると思いますが、押し込み強盗をする「説教寅」こと寅弥の台詞も忘れられません。

「武勇伝なんぞするやつァ、戦をしたうちにへえるものか」「徴兵検査なんざ呼ばれたって行くんじゃねえぞ。赤紙がきたら、兵隊なんざ行かずに懲役に行け。そのほうがなんぼかましだ」

これらのメッセージを忘れさせず、でも物語は少しも説教臭くない。権力に楯を突き、庶民の声なき声に耳を傾け、損得勘定抜きで動く。そんな粋な生き様がリズミカルに語られていくのです。こういう人間になりたいと子どもみたいに憧れました。

1巻から読んでほしいけど、いきなり5巻もありです。なぜなら表題作「ライムライト」に出てくるチャップリンと彼らの邂逅が素晴らしいから。チャップリンこそ太宰治が言う「芸術家は弱者の友」を誰よりも体現したひとりだから。

読了後に「独裁者」のDVDを見るのもオススメです。娯楽作品を満喫しながら共に「反戦」について考えませんか? 

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