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家とHOME

不思議な体験を書こうと思います。話の主人公は簡素な手作り茶碗蒸し。
一口食べたあと、しばらく涙が止まりませんでした。

お預けティータイム

ちょうど昨夜の出来事です。

恋人が最近忙しそうなので、好物の茶碗蒸しを作ってやることに。

前回は器が小さかったため、一瞬でなくなってしまいました。
その反省を生かして、今回は大きなグラタン皿を使って手掛けます。

濃い味が好きな恋人は名古屋出身、リサーチ済みです。
めんつゆで付けた味は、少しだけ濃い味に調整、あとは恋人の帰りを待つのみ。

帰宅後、いつもと変わらない様子で食卓につくと、今日あった出来事を話し出す彼女。茶碗蒸しを一口、二口と食べすすめます。

だんだんと、うまい、うまいと言いながら困惑しているようす。

うまい、パクパク、おいしい、モグモグ…なんだろう…パクパク…

珍しくリアクションが良いので、こっちとしてもなかなか嬉しい。

こんな風に褒められる日あるのかとしみじみ。
これが料理のしがいってものですか。

それにしても、そんなに手間もかかってないのになんでだろう。
二人して困惑しつつも、見事グラタン皿は綺麗サッパリ、空っぽになりました。

ナキムシ・チャワンムシ

皿を片付けるため席を立とうとしたとこで、ふと恋人の顔を覗くと…
なっ…泣いている!…なぜ…

予想外の展開にとても驚いた。
何かあったのか聞いてみても、心当たりはないそうです。

まるで夏の通り雨のように、ポツポツ出ていた涙も、しだいに洪水になって顔を覆いはじめました。

うろたえるわたし、子供みたいに泣く彼女、積み上げられた皿。

食後のいつものティータイムは、延期が決定しました。

おふくろの味・トリップ

しばらくして、落ち着いてきた恋人にゆっくりと話を聞いてみる。

曰く、幼い頃の母親との記憶が頭の中で炸裂したそう。

20年前、母親と初めて台所に立ったときのことです。
熱を出していた母親のために、幼いながらも好物の茶碗蒸しを作ってあげようとしました。

こどもの温かい気遣いの気持ち。換気扇の音。迷惑な筈なのに、嬉しそうな母親の声。ぬるくなった氷枕と冷えピタ。夕方の光に揺れるレースカーテン。

心身の緊張がスタンダードと化した20年後の体は、突然、味濃いめの茶碗蒸しによってこれら感触の渦に放り込まれたのでした。


料理をおふくろの味と比べられ、奥さんが嫌な思いをする。そうした話を聞いたことがある。

タイムトラベルを終えた恋人いわく、奥さま方の気持ちは痛いほどわかるが、おふくろの味ってのはやっぱり偉大だそうです。

わたし自身食べるのは大好きですが、そうしたおふくろの味・トリップの経験はありません。

悟った様子の恋人が少し羨ましく思えました。

家とHOME

わたしは小さな頃から、ひたすらに家族や友達、恋人といった自分の周りの人のことが大好きです。

彼らが自分をハッピーにしてくれていると信じていました。
そんな彼らを守るにはどうすればよいか、子供の頃からいつも考えていました。

よく考えると「守る」だなんて、今考えるとなかなか傲慢KIDSです。

そんなわたしが見つけ出した夢が、建築家になることでした。
彼らを、幸せを、暮らしを守るのは…家だ!

けっこうかわいい考えです、暑苦しそうですが。

話を戻すと、昨日起きた、手作りの茶碗蒸しの向こうで起こった出来事。

恋人が時間を超えた先に感じていた世界、匂い、音、質感すべて。
わたしがずっと考えてきた家(HOME)は、こんな風にもつくれるのかと、感慨深く思いました。

建築家はエプロンも着て、筆も持つ

そう考えると、この世にはきっと、人の数だけHOMEがあるのでしょうか。

自由に、大切な人たちのHOMEをつくれるようになれたら楽しいだろうな、そんなふうに考えるようになりました。

味の濃い茶碗蒸しは、恋人のついでに、20年前のわたしの夢も連れてきてくれたのかもしれません。

今日はこれから、サバを使ってご飯の支度を始めます。
いいアイデア持ってたら教えて下さいね。






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