見出し画像

「純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロイン」の魅力を司るもの――『夜は短し歩けよ乙女』

ずっと気になっていた森見登美彦さん著『夜は短し歩けよ乙女』(角川書店)を読み終えた。その独特な世界観と文章、魅力的な登場人物、もともと大好きな京都という舞台設定、すべてが私の心をつかんで離さなかった。

なかでも純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロイン「黒髪の乙女」に非常に惹かれた。こういう登場人物は大好きだ。

読み終わって物語の余韻に浸っているとき、ふと住野よるさん著『麦本三歩の好きなもの』(幻冬舎)を思い出した。こちらも純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロイン・麦本三歩の日常を描いた物語である。

私は住野よるさんの華々しいデビュー作『君の膵臓をたべたい』や『また、同じ夢を見ていた』がとても好きだし、『よるのばけもの』(3冊とも双葉社)はストーリーを理解しきれなかったかなという部分はあるものの好きな作品である。住野さんが描く登場人物もすごく魅力的なのだ。

しかし、なぜか麦本三歩だけはどうしても好きになれなかった。私が大好きな純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロインであるにもかかわらず……。読み終わったときの率直な感想は「麦本三歩ってあざとくて好きになれないな。友だちには絶対なりたくない」という辛辣なものだった。

『麦本三歩の好きなもの』を批判したいなんて気持ちはまったくない。ストーリーはのんびりとあたたかく、他の作品でも感じていたけれど、「住野さんは日常をやさしく見せるのが得意な方だなあ」と尊敬した。ただ、単純に麦本三歩にモヤモヤするのだ。

「黒髪の乙女」と何が違うのだろう。はたまた私が純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロインにハマるきっかけとなった大好きな漫画『フルーツバスケット』(白泉社)の主人公・本田透と何が違うのだろう。この3人は、世界観は違うものの個人的には似ていると感じるのに。

うーん、うーんと考えたのち、私はハッと気が付いた。「黒髪の乙女」と本田透は“ファンタジー世界”の住人だが、麦本三歩は“リアルな日常”の住人だからだ……! 純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロインは、ファンタジー世界でこそ力を発揮する。しかしリアルな日常を描いた世界に住まわせた途端、その魅力は「あざとさ」に成り代わり私をモヤモヤさせるのだった。

とても個人的な見解だけど私はこの答えにうんうんと納得した。なんの書評を書いているのか分からない感じになってしまったが、私的大発見を残しておきたかった。

純真で好奇心旺盛でちょっと天然なヒロインが好きならば『夜は短し歩けよ乙女』も漫画『フルーツバスケット』もお気に入りの作品になるはず。どちらもヒロインが魅力的なだけではなく、語り尽くせないほど引力が強い物語なので、気になった方は読んでみてほしい。

また、私のように心がせまい人間でなければ『麦本三歩の好きなもの』も非常におすすめである。


この記事が参加している募集

読書感想文

サポートいただいたら本の購入にあてる予定です。たくさん本を読んでたくさん紹介できたらと思います◎