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むずかしい平凡 自句自解 第一章「むずかしい平凡」

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拙句集「むずかしい平凡」の自解を行っています。もしよければ俳句を楽しみつつ、お付き合いください。
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#春

60 鳥は卵石ころは影抱いて春

60 鳥は卵石ころは影抱いて春

 句集「むずかしい平凡」自解その60。

 この句の読み方をまずは文法的に。

 「鳥は卵」「石ころは影」はそれぞれ「抱いて」にかかってゆく文法構造です。散文的に言えば、「鳥は卵を抱いていて、いっぽう石ころは影を抱いていて」というふうに、「抱いて」にふたつの部分が同時につながっている、そういう形です。

 鳥は卵を抱いているし、石ころは影を抱いているし、うん、なんだか春だなあ。

 そんな読みです

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59 鳥の巣指す木漏れ日を来て子も木漏れ日

59 鳥の巣指す木漏れ日を来て子も木漏れ日

 句集「むずかしい平凡」自解その59。

 ちょっとした遊歩道を子どもと一緒に散歩していた時の光景。先を歩いていた息子が木の上のほうを指さす。鳥の巣があるみたいだ。

 こちらからはよく見えない。

 どこ?

 ここ、ここ。

 子どもがこちらにやってくる。遊歩道は木漏れ日が揺れていて、その木漏れ日の中をやってくる。

 あっ、と思う。子ども自体がもう木漏れ日そのもの。

 その木漏れ日が私の手

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58 春はあけぼの家族にそれぞれの寝息

58 春はあけぼの家族にそれぞれの寝息

 句集「むずかしい平凡」自解その58。

 東日本大震災、福島第一原発の事故で自主避難した妻子。

 自主避難して二年目か三年目のころだろうか。

 当初は生活の変化についてゆくのが精いっぱい。とにかく初めてのことばかりだった。少し慣れてきて、いくらか不安はあるものの、我々はなんとか生き延びてきたんだなという思いがわいてきた。

 自分一人だけ早く目が覚めて、妻子はぐっすり寝入っている。妻子それぞ

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