なぜサウナが好きなのか【番外編】

　僕には「好き」という気持ちについて、高校生の頃から持論がある。それは「理由を言えてしまう ”好き” は本当の好きではない」ということだ。
　たとえば、ある女性が彼氏に「私のどこが好きなの？」と聞いたとする。すると彼氏が「かわいいところ」と言う。そしてその女性は「他には？」と質問を繰り返す。それに対して彼氏は「優しいところ」と言う。さらに彼女はもう一度同じ質問をして、彼氏は「料理が上手なところ」と言ったとする。彼女はその後も同じ質問を繰り返し、彼氏はそれに答えていく。

　さて、このやりとりを続けるとどうなるかというと、この彼氏は「かわいくて、優しくて、料理が上手で、……な女性」のことが好きということになってしまうのだ。つまり、いまの彼女ではなくても、同じ条件に当てはまる相手であれば好きになる可能性があるということだ。

　冷静に考えてみると、その男性はもともと彼女のことを好きになった理由なんて本当はわからなかったはずだ。直感で本能的に恋に落ちて、その相手のことを好きになった理由については後から付け足しただけに過ぎない。
　しかし、好きになった理由を後から考え直してしまうと、もともと本能的に好きになった対象を理性的に捉えるようになってしまうことがある。恋が冷めるのはこのようなきっかけからだ。絶対的に目の前の相手のことが好きだったはずなのに、相対的に相手のことを好きになっているのだと考えるようになってしまうことで、その相手よりも魅力的な人が現れると気持ちが移ってしまう可能性があるのだ。

　好きという気持ちは本来絶対的なものであって、相対的なものではない。そもそもそこに比較対象など存在しないのである。「あれと比べてこれが良い」と理由を言えてしまうようになると、それよりもさらに良い条件のものが現れた時に、気持ちに変化が現れるということだ。

　そのようなことを考えた結果、僕が導き出した結論が「理由を言えてしまう ”好き” は本当の好きではない」なのである。むしろ、なぜ自分が目の前にあるものを好きになったのか、その理由を語ることができず「なんとなく好きなんです」と曖昧に回答する人のほうが信用できる。

　これについて、つい先日読んだ本にこんなことが書かれていた。

　ヒトの行動は根拠があるようでいて、基本的には深い根拠はないものです。
　恋愛も同じです。なぜ、その人を好きになったか、根拠があるでしょうか。
　彼氏に「おれのどこが好きなんだよ」と聞かれたら、どう答えますか？ 「優しいし、かっこいいし、背も高いから」などと理由を挙げて答えることはできます。それに対して、彼氏が「じゃあ、背が高くてかっこよくて優しければ誰でもいいのか」と聞き返したら、どうでしょう。もちろん、誰でもいいわけではありません。そうやって突き詰めていくと、理由なんてないのです。人は選んだ後に「言い訳」を言っているだけなのです。
「なぜ僕のことを好きになったの？」と聞かれたら、正しい答えは、そう、「脳がゆらいだから」でしょう。

『脳はなにかと言い訳する』（p169〜170）池谷裕二 著

　僕はこの本を初めて読んだ時に衝撃を受けた。僕が高校生の頃から考えていたことが、ほぼそのままの形で書かれていたためだ。

　本当に好きなものには、理由なんて言えるはずが無いのだ。僕はサウナが好きだけれど、その理由をはっきりと答えることはできない。もちろん、サウナに入ると気持ちが良いし、気分転換になるし、美容や健康にも効果があるような気がするし、サウナを通じて知り合えた人もたくさんいるけれど、それらはあくまで結果だ。それらを理由にサウナが好きになったわけではないのである。
　実を言うと、本音は「なんとなく行きたくなるから行く」ただそれだけなのだ。だから、気分によっては１週間以上サウナに行かないこともあったし、二日連続で行ったこともある。
　でも、これが本当の意味で「好き」ということなんだろうと思う。

　そして、そのサウナを通じて感じたことや起きた出来事をnoteに綴り続けて、今日でちょうど１年が経過したらしい。長いようであっという間の１年だった。

　今まで読んでくださった方々、フォローをしてくださった方々、そして僕のnoteがきっかけで実際にサウナに足を運んでくださった方々に、この場を借りて感謝を申し上げます。２年目に突入した『#連続サウナ小説』を、今後も楽しんでいただけると嬉しいです。

（written by ナオト：@bocci_naoto)

YouTube「ボッチトーキョー」
https://www.youtube.com/channel/UCOXI5aYTX7BiSlTt3Z9Y0aQ

基礎から学ぶ #noteゼミ｜#連続サウナ小説 『ボッチトーキョー』byナオト