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思春期を振り返る。「推定少女」を読んでみて。

桜庭一樹さんの小説「推定少女」を読んだので簡単な紹介とともに思ったことを記そうと思う。

話は主人公の女子中学生カナとダストシュートの中に見つけた謎に包まれた少女”白雪”の二人を中心に進む。思春期特有の大人になることへの葛藤を取り上げた作品とも言える。

思春期と言えば私たちはよく、葛藤ともいうように「戦っていた」と表現することがある。しかし、実際に何と戦っていたのかと聞かれるとなかなか答えられない。何と戦っていたのだろうか。そして時がたってから振り返ってみるとそれはあっという間の出来事で、知らないうちに大人になっている。なってしまっている。

この作品ではカナの思春期における葛藤を、正体不明の宇宙人と思われる生命体との接触、戦いに重ねて書かれている。

読んでいる途中で気づくことはできなかったが、終わってから自分の思春期もそんな感じだったなと思った。実際に宇宙人に接触した訳ではないが。将来の夢なんかなくて、でも周りのみんなは進んでゆく。まるで自分だけが欠陥品のように思えてきて、ひょっとしたらこんなに悩んでいるのは自分しかいないのでは?なんて考えたりして、勝手に落ち込んだり。落ち込んでも何も解決しないことはわかっていた。けれど、これが自分なりの反抗だった。家出なんてする勇気はなかったけど、大人になんてなりたくないという反抗。大人なんてよくわからないし、自分の都合を他人に押し付けるし、子供のためなんて言っても結局は自分を守るためだったり。何を信用していいかわからなかったし、そもそも自分のことさえ信用していなかった。

そんな中で家出という行為は私にとってはとても憧れだった。自分が家で過ごす時間とは異なる時間を過ごすことができるような気がして、ずっと夢見ていた。毎日のように家出の計画を立てていた。自分では本当はできっこないって分かっていたのに。自分の場合は海外に片道航空券を買ってしまえば何とかなるんだろうと思っていた。絶対に家には帰らないつもりでいたが結局は家出の「い」の字も家族の中で話題に上がることはなかった。

こんなことを考えながらこの小説を読んでいた。私は今年の6月で20歳を迎え、一年もしないうちに成人式を迎える。そしてきっとこの小説を読んだことが私の中で最後の思春期への抵抗になるんだろうなと思っている。

大人になる前の最後の反抗。大人になる前のあの自由で無敵だった時間を最後に与えてくれないだろうか。

そのうちそんなことも忘れて、ある時ふとこの本を思い出して、「あぁ、こんな時もあったな。あの時はよかったな。何でもできて、そして戦っていた。」なんて思うのだろうか。

こうやって思ってしまう自分が少し悲しい。やっぱり自分は何者でもないのかもしれないと思ってしまう。普通に大学を卒業して普通に就職し、なんだかんだ言って普通に結婚し普通に死んでゆく。そんなまだ見えない先のことを考えると、やっぱり思春期のころが最高だったと思う。しかし、ここでこの小説に登場するカナと同い年の千晴の言葉を借りると

「まだ見ていない色を語る言葉はない」

と言える。未来は未来でしかなくて、今をどう生きていても未来は必ずやってくる。そんな先のことを心配するくらいなら今を精一杯抗いたい。

思春期に戦った敵のことはやっぱり今もわからないし、この先もわからずに曖昧なままのだと思う。けれど、戦ったという確かな記憶が証として、成長した私たちの心に残り続ける。

そして色を増やしていきたい。

最後に、、、この本に十代のうちに出会えてよかった。自分は間違ってなかったと思えることができた。この先人生でつまずくことがあったらまたこの本を読み直したい。

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