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ワインツーリズムの活性化に向け魅力の発信役に

 「おしゃべりラボ~しあわせSocial Design~」2024年4月6日の放送は、「ワイン/ワイナリーでつながる社会デザイン」をテーマに研究を行い、国内外でワイン文化普及のため幅広く活動する、ソーシャル・ワイナリー研究会代表・ソムリエール、竹内三幸(みゆき)さんの後編でした。この日は竹内さんお勧めの日本ワインもお持ちいただき、試飲させていただきました。

ワインの魅力に開眼した客室乗務員時代

 ワイナリーやワインは飲んで楽しむだけでなく、人と人をつなげるツールの一つでもあります。文化、歴史、地域性などと結びつきを深めて社会性や事業性を構築する機能を果たしており、こうした「ワインを通じて社会をデザインしていく活動」に注力してきました。

 ワインの魅力にはまったのは、前職の客室乗務員時代です。国内の航空会社に24年間勤めましたが、その間に30か国以上の都市を訪れ、さまざまなワインと出会いました。そして、ワインとの組み合わせで食事がさらに美味しくなることを世界各地で経験したのです。その日の天気や湿度・温度、聞こえてくる言葉とともに、ワインは五感で楽しむものなのだな、ということも実感しました。

ワイン/ワイナリーでの慈善活動は中世から

 ワイン/ワイナリーには社会性と事業性があると申し上げましたが、社会性に注目するようになったのは私が30歳の頃からです。ブルゴーニュワインで有名なフランスのボーヌという都市にある「オスピス・ド・ボーヌ」を訪問したのがきっかけでした。
 ここは1443年に設立された修道院兼施療院で、いろいろなところから寄付を募りながら貧しい人々へ医療を提供していたのですが、それだけでは不十分だということで、自分たちでワイナリーを作ったのです。そして、そのワインをオークションで買ってもらうという資金集めの仕組みをつくりました。
 今でいう、まさにソーシャルビジネスが中世から行われていたことに胸を打たれ、「社会デザインとしてのワイン/ワイナリー」に目覚めたというわけです。そのチャリティーオークションは、国際的に有名なイベントとして今も続いています。

ソーシャルデザインを実践する日本のワイナリー

 ワインは1年に1回しかつくれません。ワインづくりの8割程度は葡萄の出来で左右され、あとの2割は醸造技術だと言われています。ご存知の通り、今は気候変動の影響による台風や猛暑など、葡萄の生育にとってなかなか厳しい環境になっています。
 その一方で、最近は技術の進化が著しく、また醸造家の方たちもしっかりと勉強をしているので、美味しいワインが安定して出来るようになってきています。
 近年日本ワインも躍進が目ざましく、世界的に評価が高まっていることは先週お話しさせていただきました。私も全国各地を回って魅力的なワイナリーとの出会いを重ねていますが、今日は最近実際に現地を訪れたワイナリーをいくつかご紹介しようと思います。
 先日は2泊3日で瀬戸内地域を訪問したのですが、まずうかがったのが広島の「瀬戸内醸造所」さん*1です。こちらは瀬戸内の海、山、島を見渡す醸造所で、瀬戸内産の葡萄を使ったワインを醸造しています。次の日にお邪魔した愛媛県今治市大三島の「みんなのワイナリー」*2さんは、珍しいみかんワインもつくっておられます。
3日目は岡山にまいりました。非常に土壌が良く、果実が良く生(な)ることで有名なこの地には、フランスのローヌで研鑽を積まれた職人肌の醸造家さんのワイナリー「ラ・グランド・コリーヌ」*3があります。こちらの自然派ワインはとても評判がいいですね。

 ワイナリーを訪ねるときに見るポイントとしては、そこを立ち上げた人、働く人々がどんな方かという点です。インタビューをしてワインへの情熱や背景にある思いなどをうかがった後、畑を見せていただきます。畑も本当に十人十色で、こだわりや栽培方法も千差万別です。
 その後、醸造所で説明を受け、試飲させていただくのですが、まだリリースされていないワインを出していただくこともあります。今後どのようにして世に出ていくのだろうと想像をめぐらせ、心が躍るひとときです。 

復興の牽引役となった秋保ワイナリー

 今日はお勧めのワインを1本持ってまいりました。仙台の「秋保(あきう)ワイナリー」でつくられたワインです。
 東日本大震災後、仙台で建築設計のお仕事に携わっておられた毛利親房さんが復興業務で被災地に入られた際、県内唯一のワイナリーがなくなってしまったというお話を聞いたそうです。そして宮城にワイン産業を復活させることで、再び人が集まり、雇用を生み出せるのではないかと考え、実現に向けて動き出します。2015年から敷地を探して、昔タバコの試験場だったところを葡萄畑に変えて醸造所を造られたのです。
 ところが程なくしてコロナ禍に見舞われ、醸造したワインのリリースまでいっていたのですが一度中断せざるを得なくなりました。今また組織改革に取り組みながら、ソムリエやシェフと一緒につくるワイナリーを目指しているそうです。
 今日お持ちした「秋保フィールドブレンドブラン」は、ピノグリという品種とゲヴュルツトラミネールという欧州の品種で作られています。白いお花の香りと、フルーティーでありながら酸も感じられる、とても美味しいワインです。
 
―試飲タイム―
 
 秋保ワイナリーはこれからバーベキュースペースやレストランを併設し、クラフトビールをアメリカから招致するなど新しい取り組みを始められるそうです。今年7月にオープンするとうかがっているので、私も是非お邪魔したいと思っています。仙台の中心部から車で30分ほど、バスもあるのでアクセスもよいところです。

ワインに親しみ、ワイナリーから地域活性化を

 日本ではまだまだ敷居が高いと思われているワインですが、まずワインを日常の中に取り入れて、自由に飲むことが大事だと思っています。お休みの日にはお昼ご飯のパスタに合わせて気軽に開けてしまう、なんていうのもいいですね。
 
 若い世代はワインを飲む機会そのものがあまりありません。そこで大学の授業では自ら興味をもって取り組んでもらえるよう、全世界のワインの歴史や法律、郷土料理、そして背景にあるストーリーについて調べてもらっています。食事とワインの組み合わせの話から、「ハンバーグに合わせてもいいかも」「ワインを持ち寄ってお鍋と一緒に合わせても美味しいわよ」といった話をすると、実践して報告してくれたりする可愛い学生もいます。まさにアクティブラーニングですね。そうやって身近なものとしてワインをとらえてもらうことが第一歩だと思います。
 今後は、ワイナリーやワインを扱う人、シェフ、地域の人々と一緒にワインツーリズムがもっと盛んになるような環境整備をして、私は発信の役割を果たしていきたいと思っています。大人は興味があれば積極的に訪問してくれますが、若者はなかなかそうはいかないので、大学やワインスクールなどで学生さんに向けてワインの魅力を伝えていきたいです。今年度はフィールドワークも行うことになっていて、とても楽しみにしています。

◆中村陽一から見た〈ソーシャルデザインのポイント〉

 ワインが持つ「社会性」と「事業性」が地域の歴史や文化と結びついて展開していくというプロセスは、実際に日本のワイナリーにもずいぶん広がっている。竹内さんが紹介する秋保ワイナリーのように、震災復興、まちづくりの視点から建築家がワイナリーをつくり、人と人、人と地域を結びつけるといったケースは、未来へ向けて希望が持てるソーシャルデザインの実践としての好事例と言える。竹内さんのように、ワインの美味しさだけでなく、地域性や歴史性、文化性を踏まえたストーリーについても発信できる「ソーシャル・ソムリエール」の存在にこれからも期待したい。

◆MEMO

*1 瀬戸内醸造所
耕作放棄地の整備、食品ロスを無くすための予約優先のレストラン営業、瀬戸内産にこだわった食材仕入れを徹底するなど、持続可能な地域社会を目指す取り組みを行う醸造所。 https://setouchijozojo.jp/
 
*2 みんなのワイナリー
「せんだいメディアテーク」の設計などで有名な建築家、伊藤豊雄さんのミュージアムができたことがきっかけで、「島づくり」プロジェクトの一環としてワイナリー事業が立ち上がる。愛媛県はみかんの産地として有名であるものの栽培放棄地も多く、その一部を借り受けて大三島初の葡萄畑に転換。ワインを通じて、都会の人々と島の人々を結びつける役割を果たしている。
 http://www.ohmishimawine.com/

*3 ラ・グランド・コリーヌ 
フランスのローヌで修業し、醸造資格を取得した大岡弘武さんが開設したワイナリー。葡萄は有機栽培で、醸造に際しても一切の添加物を使わず、葡萄100%のワインをつくっている。http://www.lagrandecolline.fr/j_index.html



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