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ワイン/ワイナリーは人と人をつなげるツール 竹内三幸さん〈前編〉

 「おしゃべりラボ~しあわせSocial Design~」2024年3月30日の放送は、「ワイン/ワイナリーでつながる社会デザイン」をテーマに研究を行い、国内外でワイン文化普及のための幅広い活動を行う、ソーシャル・ワイナリー研究会代表・ソムリエール、竹内三幸(みゆき)さんの前編でした。

文化やSDGsとワインとの関わりを教える

 ワインやワイナリーは楽しみを得るための一つの要素ですが、一方では文化であり、人と人をつなげるツールにもなります。
 ワイナリーが核になり、教育や地域活性化、農業といった多様なテーマで、地域住民や学生などさまざまなステイクホルダーの結びつきを深めることができますし、社会性や事業性を循環させつつ発展させる役割も担っています。

 こうしたワイナリーやワインを研究対象の一つとして、社会デザインという視点から考察していきたいと思い、立教大学院21世紀社会デザイン研究科を卒業後、ソーシャル・ワイナリー研究会を立ち上げました。

 活動は多岐にわたっていますが、まず一つ目は、大学で「ワインサービス論」という授業を担当しています。
 今の学生さんたちはお酒を飲む機会そのものが少なくなっていますが、そうした中でもワインに親しむチャンスは限られています。
 しかし、ワインと文化は切っても切れないものですし、その国の象徴的な特産品として位置づけられている場合も少なくありません。
 歴史や法律、郷土料理などともからんできますし、それぞれのワインには作り手の思いがこもったストーリー性があります。
 そういったことを通して、全世界のワインを対象に授業を行っていますが、SDGs やマナーについても盛り込んでいます。
 今の学生さんは SDGsへの関心が非常に関心が高く、当たり前に受け取ることができますので、そのあたりはよく勉強して調べてきてくれます。

世界最古といわれるジョージアワインの魅力

 もう一つはワインスクールの研究科でジョージアワインの講座を受け持ち、今年4 年目になります。
 授業という形でテイスティングをするのはもちろん、ジョージアの文化や歴史についても学べるカリキュラムが特徴です。
 「クヴェヴリ」という甕の中でつくられ 8000 年の歴史をもっているジョージアワインですが、私が出会ったのは研究を初めてしばらく経ってからでした。
 日本ワインに特化した修士論文を書いたこともあり、さらに日本ワインを知りたい、もっと探求したいという気持ちが強かったのですが、ある国立大学の先生からアドバイスをいただいたのがきっかけです。
 「ワイナリーの研究をしているなら、グルジア(現在のジョージア、当時はそう呼んでいました)を気にかけてみたら? ワインの歴史をたどると、やはりグルジア、南コーカサス地方のあたりが原点になるのではないか」
 その当時はまだジョージアワインが世界最古と言われていなかった頃でしたが、勉強して確認してみる価値があるのでは?とおっしゃってくださったのです。

 それを頭の隅に入れておいたところ、国連大学前で開催されていた全世界のワインが集まる試飲会で偶然、ジョージアワインのブースを見つけました。
 そこで自己紹介の上、ジョージアワインに興味があると申し上げ、テイスティングをさせていただいたのです。
 初めて飲んだジョージアワインの印象は「甕でつくるワインってこんなに深みがあるんだ」という驚きでした。
 それをお伝えしたところ、ブースにいらしたインポーターの方が「 2カ月後にジョージア行くから、一緒に行かない?」と誘ってくださったのです。

 こうしてジョージアワインの研究が活動の柱の1つになっていったわけですが、ソーシャルキャピタルという概念が加わり、そこからソーシャル・ワイナリー研究もさらに深まった感があります。
 ワインは飲むだけで楽しいですし、お食事に合わせておいしくいただけます。
 でも、それだけではつまらないなという気持ちは日頃から持っており、大学院の頃から「ワイナリーの社会的意義を研究する」という視点で取り組んできました。
 そんななか、ワインの歴史を深く知るようになったことで、それぞれの地でワインがつくられるようになった経緯や当時の生活様式など、背景やストーリー性に一層注目するようになったのです。
 それがソーシャル・ワイナリー研究にも生きていると思います。

日本ワインの躍進をソーシャルな視点で後押し


 修士論文でも取り上げた日本のワインに関しては、まずワイナリーの数が非常に増えました。
 私が大学院で研究していた 10 年ほど前は 210 ぐらいしかなかったのですが、今や 500 を超えています。
 先ほども申し上げましたが、やはりワイナリーができることで地域の活性化にもつながります。
 農業人口が減少し続け、後継者難が深刻化する中、耕作放棄地の増加が大きな社会課題となっていますが、そこにワイナリーをつくれば、また農家がブドウ栽培から始めることもできるのではないか。
 もしくはワイン特区とか行政が補助を出すなど、個人や様々なセクターが参入して特別な枠組みでワイナリーとしてブドウ栽培ができますよと推奨している県もあります。

 これらの担い手としては、移住してワイナリーをつくってみたいという若い方、サラリーマンとしてお仕事をしたけれどもこのまま終わるのはどうかということで農業に着目されたという方などさまざまです。
 ワインに関しても、もともと好きではあったけれども、のめり込むほどではなかったのに、ワインづくりの過程を知り「作品としてのワイン」に魅力を感じるようになったという方もいれば、 1 年に 1回しかつくれないワインという商品がこんなに人に感動を与えるのであれば、ぜひ自分がつくってみたいと移住してワイナリー始められる方もいます。

 海外のコンクールへの日本ワインの出品もすごく増えました。
 もちろん日本のコンクールでも賞をいただき認められているのですが、やはり国内での需要だけでは限りがあります。
 海外でも日本のワインをどんどん知ってもらい、その素晴らしさを分かって飲んでいただきたい。
 海外のコンクールでの受賞はその大きな足がかりとなり、消費を国内外で拡大することにつながっています。

 私自身はソムリエールとして、地域の歴史や文化、食文化とつなげる形で、この流れを後押ししていきたいと考えています。
 まさにソーシャルな視点での取り組みですが、私 1人でやってもなかなか結びつきにくいので、シェフの方や農家さん、ワイナリーの方はもちろん、味覚の教育の方にも携わっていただければと思っているところです。
 こうしたさまざまな方たちと連携し、具体的には、ワインの若者消費の拡大に向けた取り組みを展開していきたいですね。
(後編に続く)

◆中村陽一から見た〈ソーシャルデザインのポイント〉

 ワイン/ワイナリーとソーシャルデザインは一見、どういうつながりがあるのだろうと思われるところだが、ワインはワイナリーを通じて、地域性・歴史性・文化性という背景と結びついてこそ醸造されてくるものといえ、その生成過程そのものがソーシャルデザインといえる。
 その生成過程においては、ワイナリーが「育まれてきた」地域の環境、地域社会のなかでの位置づけ、歴史的背景、さらには地域文化との関係性が潜在的にもせよ重要な役割を果たしており、時代の変化に応じたそれらの新しい組み合わせによって出来上がってくるワインという成果は、まさに「人間の幸せという大きな目的のもとに、創造力、構想力を駆使し、私達の周囲に働きかけ、様々な関係を調整する行為」としてのソーシャルデザインによるものといえるのではないだろうか。


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