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アモールとプシュケー

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帝政ローマ期から伝わる物語のヴァリアシオン(変奏)小説です
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アモールとプシュケー〈1〉春の宵

アモールとプシュケー〈1〉春の宵

【あらすじ】

古代ギリシャ。愛の神アモールと王女プシュケーは深く愛し合うようになる。けれど、神と死すべき人間とでは共に生きることは叶わない。あまりに儚い愛に取り乱したアモールは神威の制御を失い、プシュケーを落命させかける。

プシュケーは自ら冥府へ下り、アモールに負わせた不慮の火傷を治す薬を、女王ペルセフォネーの厚情により手にする。

再会を果たし、想いを確かめ合いながら、苦しむ二人。

そんな

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アフロディーテ&アレース|ギリシャ神話随一の"美しすぎる"カップル

アフロディーテ&アレース|ギリシャ神話随一の"美しすぎる"カップル



⭐ はじめに(読み飛ばしOKです)

 『アモールとプシュケー』物語本編を掲載したのは6月のことでした。ありがたいことに、いまも読んで下さっている方がいるようで、ごくたまにスキをくださいます。
 スキ通知を見て、あとがき&設定資料のうち、下書きに眠らせたまま放置していたこの記事を思い出したので、遅ればせながら完成?させました。

 また時々、自分のホームに固定表示しておこうと思うのですが、実は

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締めくくりに参考文献|『アモールとプシュケー』あとがき

締めくくりに参考文献|『アモールとプシュケー』あとがき

 6月後半から、note掲載という、個人的に大事業だったイベントを続けてきました。この記事で *ひとまず* 終了です。

(というのが、アフロディーテ&アレースの記事を書いても良かったかな? と思うので、いつか書くかも・・・ですが、8月には8月の記事を書かないと。)

 本の最後には、参考文献のページがあることも多いので、それに倣って、このような形の締めくくりです。

 これまでお付き合いくださっ

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ミルラ、アドーニス編|『アモールとプシュケー』あとがき

ミルラ、アドーニス編|『アモールとプシュケー』あとがき

 ちょっと番外編・・・端役ですが、ミルラについて取り上げることにします。
 というのも、彼女の血筋をたどると、ギリシャ神話の有名どころがつながるため(^^)/

エオス→→・・・→→ピュグマリオン→→ミルラ→アドーニス の系譜

〈3〉で取り上げたミルラ/ミュラは、父親に恋をしてしまった悲劇の王女。調べてみたところ、血統を遡ると暁の女神エオスとケファロス王子にたどり着きます。また、父王キニュラース

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ゼフュロス編|『アモールとプシュケー』あとがき

ゼフュロス編|『アモールとプシュケー』あとがき

あとがき&設定資料集、今回はゼフュロスです。

ゼフュロス

 ゼフュロスは西風の神。その風は、優しく心地よいそよ風と言われています。

 風の神々の中で、最も好まれたのがゼフュロスで、世界の果て、オケアノス河の向こうにあるとも言われたエリュシオン(極楽の野)にも、ゼフュロスの風が吹いていたとされています。

 彼はなぜか、神様なのに人間に身構えられたり畏れられたりしないようで、アプレイウス『黄金

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ペルセフォネー&ハデス&冥府めぐり編|『アモールとプシュケー』あとがき

ペルセフォネー&ハデス&冥府めぐり編|『アモールとプシュケー』あとがき

 今回は、地下世界についてのまとめです。まとめ・・・といいつつ、あれこれ書きたいことが多すぎて、まとまらないまとめです。

 今更ながらふと気づいたのですが、なかなかマニアックだと思うので、ご興味のない方は末尾の絵画ギャラリー《冥府ミニツアー》(?)に、目次から遷移して下さいね(◍•ᴗ•◍)✧*。

冥府&古代の死生観

 冥府は、いろんな詩人や神話の編纂者によって、様々な陰鬱さで描かれています。

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『アモールとプシュケー』あとがき|アモール編

『アモールとプシュケー』あとがき|アモール編

それぞれの登場人物の特徴・設定の背景を解説する記事。今回は愛の神アモールです。

 エロス、クピードー、キューピッドなどさまざまな名前で呼ばれ、古来より、幼児から壮年まで様々な姿で描かれています。細かい説明は省きますが、古い時代には、カオス(空間)、ガイア(大地)、タルタロス(冥界)と並ぶ四人目の原初神。

と描写される青年〜壮年の神。最も力のある神とも言われていたようです。

 一方、時代が下り

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鷺行美さんからの応援記事に感謝|アモールとプシュケー

鷺行美さんからの応援記事に感謝|アモールとプシュケー

 noter鷺行美さんが、応援記事を書いて下さいました(^∇^)

 あまりにうれしかったので、自分のページに残しておきたくなって・・・引用&ご紹介の許可をいただいたので、わーいヾ(^▽^ )ノ

 〈6〉は、いちばん手をかけて仕上げた章なので、そこに注目してくださったのは、書き手としてなんともうれしいことでした。

 記事の中で、「愛の神であるアモールのほうが迷いに流されているように見えます。」

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『アモールとプシュケー』あとがき|プシュケー編&ブグロー絵画4点

『アモールとプシュケー』あとがき|プシュケー編&ブグロー絵画4点



プシュケーの人物像(容姿)

 からだは食べ物でできています。
 蜜の川のような栗色の髪、飴色の瞳、肌はミルク色であたたかいマシュマロのよう。そして賞味期限付き。
 とろ火であたためると、マロンミルクティーラテ、マシュマロ&ハニートッピングのできあがり。

 ギリシャ人は黒髪の人が多い気がするのですが、西洋の絵画で描かれた神々や人間が茶色づくしなの。タイトル画像として使わせてもらうつもりだった

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『アモールとプシュケー』あとがき|総論 編

『アモールとプシュケー』あとがき|総論 編

 まずはお礼から。

 『アモールとプシュケー』は、ぎりぎり中編に収まる長さの物語でしたが、充分すぎるほど長かったことと思います。最後まで読んでくださった方、また、途中までお付き合いくださった方、ねぎらいのスキをくださった方、本当にありがとうございました。

 ご興味は人それぞれ。書いている私が「一人」なので、公開するとなるとどなたか「一人」が読んで下されば、やりとりとして完結!と思っていました。

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アモールとプシュケー〈終〉果てなき愛のみもとに

アモールとプシュケー〈終〉果てなき愛のみもとに

第10章 果てなき愛の御許に

 神々の宴は終わり、夜が来た。
 地底では月が、高い峰の上では春が、それぞれの安らぎとともに眠りにつこうとしていた。

「ねえ…」
 どこか思案げに、プシュケーはつぶやいた。
 彼女は、アモールの腕を枕に、美しい栗色の頭を預け、無意識にアモールの肌に指を伝わせていた。
 さらりとすべらかな肌は、汗の艶を忍ばせていっそう香り高く、吸い付くようになめらかだった。
 プシ

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アモールとプシュケー〈9〉神々の祝宴

アモールとプシュケー〈9〉神々の祝宴

第9章 神々の祝宴

 ゼウスが若き恋人らの願いを聞き届けた真の理由は不明である。
 クピードによれば、ゼウスは恋の矢には懲りたので二度と自分を煩わせてくれるな、との交換条件を持ち出したとのことだった。
 ゼフュロスがのちにうっかり口をすべらせたところによれば、その条件はクピードの側から出したものであり、ゼウスはそれを呑むでもなくただ一言、次に見目容貌の並外れて美しい乙女を見つけたら、今度こそは連

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アモールとプシュケー〈8〉美しき死の花

アモールとプシュケー〈8〉美しき死の花

第8章 美しき死の花

 冥府を流れる川のひとつ、蒼きステュクスのほとり──一群の不凋花と水仙に囲まれた辺りに、ほっそりと優美な、ひとりの青年の後ろ姿がある。
 青ざめた初花のようなその姿を、ペルセフォネーはしばし歩みを止めて見つめた。
 彼の名はナルキッソス。未だ幼さの影を残した若々しい青年である。
 河の神と水の精の美貌を受け継いだ、この世ならぬ美しさゆえに、愛神クピードに似た面差しとまで囁か

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アモールとプシュケー〈7〉天上への階

アモールとプシュケー〈7〉天上への階

第7章 天上への階

 その時、ゼフュロスが窓から飛び込んできた。身の軽い彼にしてはめずらしく、壁龕の花瓶や石彫の花綱飾りがカタカタと揺れたほどだった。
 その手には、黄金の小箱があった。
 ふたりの恋人たちは、同時にゼフュロスの名を呼んだ。
「ああよかった…なにか悪いことでも…と、急に胸騒ぎがしたものですから」
 ゼフュロスは一瞬言葉を切り、息を整えてから言を継いだ。
「クピード。結局のところ、

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