また、前回の記事をまだ読んでいない方は、
先にこちらを読むと理解がより深まります。
⒊日本での知名度は低いが、個人的に紹介したい漢詩
⑴杜甫:蜀相
①作者・杜甫について
杜甫は諸葛亮をリスペクトしていました。
諸葛亮の主君への忠誠心をしたっています。
安禄山の乱で唐の王室が傾くなか
もし今諸葛亮のような人物が現れてくれたらと
思わずにはいられませんでした。
杜甫は49歳の時に成都に住んでいました。
2年ほどしかいなかったが平穏な生活を送ります。
私たちは現在、小説やドラマ、
ゲームで三国志を楽しんでいますが、
この時代は漢詩で、三国志への思いを
馳せていたのではないでしょうか。
②書き下し文
丞相の祠堂何れの処にか尋ねん
錦官城外栢森森
階に映ずる碧草は自ずから春色
葉を隔つる黄鸝は空しく好音
三顧頻煩なり天下の計
両朝開済す老臣の心
師を出だして未だに捷たざるに身先ず死し
長く英雄をして涙襟に満たしむ
※祠堂は祖先がまつられている場所
③日本語訳
丞相の祠堂はどこだろうかと探していたら
成都城外のヒノキの常緑樹が繁る場所にあった
階段の前にある青々とした植物は春に芽吹き
木々の間にとまるウグイスは空しくさえずる
三顧の恩に感じては
天下三分の計を授け
二代にわたり主君を助けては
困難に遭いながらも国を維持した
魏を討たんとして軍を出し
いまだ勝利を得ぬうちに
無念やその身は病に倒れ
永く後世の英雄に
痛恨の涙をそそがせる
③中国語白文
⑵曹操:短歌行
①作者・曹操について
曹操の悪役イメージは、
演義の影響が大きいです。
「目的のためなら手段を選ばない」
という人物という印象があるかと思いますが、
今回は漢詩をテーマに話しているので、
曹操の「詩」から人柄を考えてみます。
『冬十月』
戦のあと民家に一泊しようと
とある家を訪ねたときの詩。
そこで見たのは、
シーズンを終え収穫された農作物が
しっかり整頓されている様子。
(客人が宿泊できるように)
これを見て、何と美しい風景だろうか
と言っています。
さらに、私(曹操)が願うのは、
政治と経済が安定し民が安住できる統一国家だ、
と続けます。
『龟虽寿』
曹操の晩年の詩になります。
虽は雖の簡体字です。
「亀は長生きといえども」
という意味のタイトルかと考えられます。
『龟虽寿』は、自分自身(曹操)は歳をとった
千里馬よりも身体は衰えているが、
胸の中には千里を駆け回る
雄大な志があることを伝えている詩です。
この詩は四字で構成されています。
古詩や五言律詩とは別の【楽府】という形式です。
曲にのせて詩を読むスタイルで、
三国志のドラマでは太鼓や笛にのせて
曹操が詩を読んでいたりします。
②書き下し文
酒に対しては当に歌ふべし
人生幾何ぞ
譬へば朝露の如し
去る日は苦だ多し
慨して当に以って慷すべし
幽思忘れ難し
何を以ってか憂ひを解かむ
惟だ杜康有るのみ
青青たる子が襟
悠悠たる我が心
但だ君が為故に
沈吟して今に至る
幼幼と鹿は鳴き
野の苹を食ふ
我に嘉賓有らば
瑟を鼓し笙を吹く
明明たること月の如きも
何れの時か採る可けんや
憂ひは中より来たる
断絶すべからず
陌を越へ阡を渡り
枉げて用って相存す
契阔談䜩し
心に旧恩を念はむ。
月明らかに星稀に
烏鵲南に飛ぶ
樹を绕ること三匝
何れの枝にか依るべき
山は高きを厭わず
海は深きを厭わず
周公は哺を吐きて
天下心を帰せり
③中国語白文
⑶曹植:七步诗
①作者・曹植について
曹操の五男(母は下夫人)、享年41歳です。
(前妻の丁夫人は二人子供がいたが早逝)
幼い頃から文才があり、曹操に
「誰に書かせた?」と言われてしまいます。
曹植の返答は
「私は言葉を発せば論となり、
筆を持てば章を自然と綴ります。
試験しても構いません」
と答えて曹操は、曹植の才能は本物だと信じたという逸話があります。
②書き下し文
豆を煮て持て羹と作し
菽を漉し以って汁と為す
萁は釜下に在りて燃え
豆は釜中に在りて泣く
本同根より生ずるに
相煎ること何ぞ太だ急なると
③日本語訳
豆を煮て汁物を作る
味噌は漉されて汁物となる
まめがらは釜の下で燃え
豆は釜の中で泣く
元々は同じ根から生まれたというのに
なぜまめがらはそこまで酷く
豆を煎り付けるのか
③中国語白文
諸葛亮リスペクトの杜甫ですが、
曹植も絶賛しています。
恵まれない運命にありながら詩を読み続けた
姿勢に自分を重ねていたのかと考えられます。
跡継ぎ争いが収束しても曹植は冷遇され続けます。
戦の前線に出してほしいと何度も曹丕に上奏文を送っていました。
今回は、ポッドキャストの放送範囲に
合わせているため、以上になります。
先行してこの記事をお読みいただいた方も、
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