【私が不安な時、いつもよりココアを濃いめに作っている理由】漢詩：李白「月下独酌」
理由もなく、不安になる。
私はひとりで居るのが好き。
雨の降らない梅雨の朝。
昨日は眠れなかったけど、今も眠れない。
冷蔵庫をあけても、
なにが食べたいのかわからず、
目に映る食材を頭の中で調理しても、
どれもピンとこない。
とりあえず水を飲みながら、今日を考えるフリをする。
こんな私を、
いったい誰が必要としているのだろうか。
私には、価値がない。
部屋にひとりでいると、
そんなことばかり考える。
負の、さらに奥深くへ。
そうして空っぽになった私は、
寝る楽しみ、食べる楽しみ、学ぶ楽しみ、
「楽しい」という感情をすべて失う。
それでも漢詩は毎日読む。
読み始めると涙がこぼれる。
私は「漢詩」が好きだったはずなのに。
こんな精神状態での録音は、散々なできばえ。
部屋にはテレビがない。
最近はポッドキャストも聴かなくなってしまった。
音楽を聴く気分にもなれない。
私は永遠に自分と問答を繰り返すだけ。
漢詩なんて読んで意味があるのか。
…漢詩は中国語勉強の一環。
しかし漢詩だけ読んでいても中国語はまったく上達しない。
価値のない人間がどうして外食するのか。
…体調を崩しているから仕方がない。
しかしお腹を満たすだけなら冷蔵庫の残り物で十分であり、お金もかからない。
私はひとりで居るのが好き。
その代償は、思考が成長しないこと。
私は私の中で、私の考えのまま行動する。
誰にも指図されない世界が心地よくもあったり、
不安で、恐ろしかったりもする。
私だけの力で、
負の奥深くから抜け出すためには
どうすればいいのだろうか。
「楽しい」という感情を取り戻すカギは何だろうか。
李白：月下独酌
月下独酌
李白
花间一壶酒，独酌无相亲。
举杯邀明月，对影成三人。
月既不解饮，影徒随我身。
暂伴月将影，行乐须及春。
我歌月徘徊，我舞影零乱。
醒时同交欢，醉后各分散。
永结无情游，相期邈云汉。
【書き下し文】
花間一壺の酒
独り酌んで相親しむもの無し
杯を挙げて明月を邀え
影に対して三人と成る
月 既に飲を解せず
影 徒に我が身に随う
暫く月と影とを伴い
行楽 須らく春に及ぶべし
我れ歌えば 月 徘徊し
我れ舞えば 影 零乱す
醒むる時 同に交歓し
酔うて後 各分散す
永く無情の遊びを結び
相期す雲漢邈かなるに
【日本語訳】
花のもと一壺の酒
友も無くわれひとり酌む
杯をあげて月を招き
わが影とともに三人
月はもとより飲むこと知らず
影もむなしくわが身に添う
このまま 月と影とを友として
春過ぎぬ間をこそ楽しめ
われ歌えば月 空をさまよい
われ舞えば影 地に乱れる
醒むる間はともによろこび
酔い臥せばまた分かれて
永く結ばむ無情の交わり
いつかは会わむはるかなる天の河原に
【解説】
月夜、花の下でひとり酒を汲む。
月とわが影と、これで三人だ。
月は酒を飲む楽しみを知らず、
影もまたものを言わない。
それでも私が酔って眠ってしまうまで、
相手をしてくれよ？
＊＊＊
自由気ままで呑気な歌のように聞こえますが、
李白の孤独な様子や心情が深く影を落としています。
末句の「相期」は再会する、
「邈云汉」は遥かな天の川という意味です。
李白は、酒の相手をしてくれた
本来情をもたないものたちに対して
天の河でまた会おうと締めくくります。
ロマンチックでありながらも
死後の世界が頭をよぎってしまう詩です。
【不安な時は、いつもよりココアを濃いめにつくる】行動は、私の存在を肯定すること。
私は、本当にひとりなのだろうか。
部屋の中にいる私を、
物質的な人間として数えるなら
「一人」なのかもしれない。
しかし
部屋の照明は、私のために明かりを灯す。
洗濯機は私のために服を洗う。
私は、私のためだけに玄米粥をつくる。
私は、価値がないかもしれない。
でもまだ天の河へ行く理由もない。
「楽しい」という感情を取り戻すカギは、
私という存在を肯定すること。
肯定は否定よりも難しく、
気を抜けばまた負の奥深くに引きずり込まれる。
空っぽの私は、とても脆い。
しかし自分の負と戦えるのは、私だけ。
不安な時は、
いつもよりココアを濃いめにつくり、
たとえ引きずり込まれても、何度でも戻ってくる。
天の河へ行く理由が見つかるまでは
「楽しい」ことをしてもいい、
「おいしい」料理を食べてもいい、
「生きて」いてもいい。
なるべく、そう思うようにする。
参考書籍 中华书局经典教育研究中心：唐诗三百首诵读本（插图版） (Chinese Edition)
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