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ものづくりへの想いがつなぐ "CRAFT NATION”としての日本の未来━━ hyogen代表 河野 涼

BIOTOPEではリサーチ企画として、全国各地の文化起業家たちを訪ねる「Culturepreneur」連載を始めます。

5月24日、世界経済フォーラムが発表した2021年版「旅行・観光開発指数」の世界ランキングにおいて日本は初めて1位になりました。なかでも「文化資源」の項目が高く評価されており、経済全体へのインパクトも期待されています。

一方で、価値観やライフスタイルの変化に対応できず赤字に陥ったり、跡継ぎ問題や原料高騰など多くの課題から、仕方なく看板を下ろす文化の担い手も少なくありません。

この連載では、これからの時代に新たな文化をつくり世界へ発信したり、次世代のために残そうと奔走するカルチャープレナー(文化起業家)たちとの対話を行います。なぜそれをするのか。なぜそこまでできるのか。なぜそう思うのか。問いかけを繰り返すなかから、私たちの未来に必要なタネを探ります。


「Culturepreneur」連載、1人目はhyogen代表の河野 涼さん。河野さんは広告代理店勤務時に、伝統工芸に従事する職人たちの手仕事を写真や動画で発信するメディア「JAPAN MADE」を立ち上げました。その後、フリーランスでの活動を経て2020年にクリエイティブプロダクション「hyogen」を設立。さまざまなブランドのCI開発やスチール・ムービー撮影などを一貫して行う傍ら、株式会社ひゃくはちと共にJAPAN MADEの活動も精力的に行っています。

これまで全国200カ所以上もの工房を訪れてきた河野さん。話を聞くとJAPAN MADEの運営はずっと赤字だそう。それでもなお、多忙なスケジュールの合間に時間をつくっては全国各地の工房を訪ね、職人たちの仕事を発信し続けることを止めません。なぜそこまでできるのか、そこには河野氏の「文化に対する愛」がありました。

━━JAPAN MADEの活動について教えてください。

 JAPAN MADEは「共息をコンセプトに、日本のモノづくりを持続可能にする」ことをミッションにしています。これまで150〜200カ所を取材して、動画は100本以上公開してきました。

JAPAN MADE: https://www.instagram.com/japan___made/

時間もお金もかかるので、正直、事業としては成り立っていないです。それでも、自分を含めたメンバーたち自身の「やりたい」を大事にしながら継続的に発信をしていて、1年に1~2回はJAPAN MADEとしてメディア発信以外のプロジェクトをやっていこうとしています。去年の「ジャパンメイド展」では、提灯や和蝋燭などの工芸品と現代アーティストの方々とのコラボーションを行い、工芸品をキャンバスにしたアート作品を、「渋谷PARCO ギャラリーno-ma」で展示・販売しました。

ジャパンメイド展の内観

クラウドファンディングも行って多くの方々からご支援いただきましたが、収支的には厳しかった。でも、やってよかったなと心から思える出来事があったんです。僕が在廊しているとき、高校生2人がギャラリーを外から覗き込んできたんです。僕が「どうぞ見ていってください」と声をかけると、ひとりが「買えないんですが、それでも大丈夫ですか?」と。このとき、「成功だな」と思いました。若いひとたちに、かわいい、気になると思ってもらえた。普段からあまり馴染みのない人がぱっと見で良さを感じることは難しい。でも、アート作品としてポップに魅せることで若い人たちが注目してくれるし、それを入り口として工芸品に興味を持ってもらえるかもしれない。そのきっかけをつくれただけでも、このイベントをやってよかったなと実感しましたね。

今年は、い草のB・C級品をアップサイクルしたマットを、東京都浅草橋にある金井畳店さんとのコラボレーションで販売するプロジェクトを行っています。畳の原料であるい草の、約7割が正規品になれず廃棄されてしまっていると知ることができたのは、これまで培ってきた職人さんとの関係性があったからこそです。

━━JAPAN MADEを立ち上げた背景にはどんな思いがあったのでしょうか。

JAPAN MADEは、僕が新卒で広告代理店に就職して3年目に、新規事業として立ち上げたメディアです。僕は、人の生い立ちやブランドの理念、背景にある物語を知るのが好きなので、「背景を伝えるメディア」というコンセプトに行きつきました。それに加えて、当時の社長の「努力している人が正当な評価を得るべきだ」という想いに共感していたので、日本のモノづくりに従事する職人さんたちに、何かできることがあるかもしれないと思ったんです。

もともと僕は職人の家庭に生まれ育ったわけでも、モノづくりが好きだったわけでもありません。ただ、なんとなく自分が日本人であることを誇りに感じていたし、職人さんのように何かに秀でているスペシャリストへの憧れが強かったんだと思います。取材を通じて現場を見ていくなかで、どんどんのめり込んでいって、気づいたら立ち上げから6年が経っていました。

━━さまざまな理由によって全国各地の伝統産業が衰退しつつありますが、河野さんがこれまで多くの現場を見てきたなかで、その業界の課題や可能性をどう感じていますか?

以前、JAPAN MADEの取材対象を決める上で職人さんのタイプを四象限に分けたことがあるんです。横軸は、新しいことに積極的な人か、頑固な人か。縦軸は、SNSなどを通じた発信が上手い人か、苦手な人か。

僕らは、第3象限の「発信は苦手だけど新しいことに対して積極的な人」を取材対象にしました。職人というとこだわりが強く頑固なイメージも強いかもしれませんが、数々の現場を見てきたなかで、この層がかなり多いことに気づいたんです。

彼らの課題としては、1つ目が「販路」。やはり買う人がいないことに皆さん頭を悩ませています。次に「後継ぎ」。やりたいと思う人はいても、弟子入りの文化が合わないとか、経済的に不安だからと諦めてしまうことが多いです。最後が「道具と原料」です。職人さんが使う道具の中には、それをつくれる人は日本に1人しかいないということがよくあるし、漆などの原料も枯渇してきています。

彼らの課題に寄り添いながら、それがどうすれば解決しうるのかを考えるのが僕たちの役割でもありますね。一方で、小さな島国にこんなにたくさんの工芸品があって、なおかつそれがいまも残っているのは本当に奇跡としか言えない。やっぱり日本は文化大国になるしかないと思っています。

━━柳宗悦の日本民藝地図(現在之日本民藝)を見ると、全国各地に土着の民藝品が存在することがわかります。

僕は、日本のものづくりが全国各地でこれほど発達し、残り続けている理由について「きれいな水が流れる川がたくさんあるから」だと思っています。例えば和紙の原材料である楮(こうぞ)は綺麗な水があるところで育ちます。または、山形の鉄瓶。岩手で南部鉄器が有名な一方で、山形の鉄瓶の特徴は、砂のきめ細やかさ。砂型に鉄を流し込んでつくるのですが、川の流れのおかげで砂がきめ細かいので、鉄器の肌もなめらかになるんです。

「サステナビリティ」と言われる前から、日本のモノづくりは自然と共に存在してきました。JAPAN MADEのコンセプトは「共息」。息をするように、人と自然と技術が一緒に育ってきたのが日本のものづくり文化を表した造語です。JAPAN MADEのロゴも、自然と人を表してる。左側が自然で、右側は自然界にない正円で、人の手でしかつくれないもの、すなわち技術を表しています。

JAPAN MADEのロゴ

━━こうした日本独特のものづくり文化は、海外に対してどのようにアプローチしていくべきなのでしょうか。

「CRAFT NATION」としての日本をブランディングしていく必要があると思います。例えば、150年以上続いている「小嶋商店」という提灯屋さんでは、海外ブランドとのコラボレーションを機に、インスタへの問い合わせのほとんどが海外からだそうです。

CRAFT NATIONとしての日本を打ち出していくときには、職人さんたちへサポートする仕組みも重要だと思いますね。彼らはモノづくりは一流ですが、売ることは苦手なケースが多いので、プロダクトだけでなく、マーケティングやブランドのデザインも含めてサポートがあると良いと思います。例えば、地域おこし協力隊のように、デザイナーやカメラマンを各都道府県に派遣して工芸品ブランドを大きくしてもらう、とか。

あとは、そもそも僕たち日本人が、日本の文化に対してしっかり目を向けないといけないと思います。自分が生まれ育った地元のことを海外の人に紹介するとき、はたしてどれだけの人がしっかり説明できるのだろうかと。日本のことをまったく知らない日本人も多いですよね。日本の文化について知って、ちょっとでも自分の国民性を肯定できたら、自分自身のことを肯定することにもつながると思うんです。

━━今回の連載タイトルでもある「カルチャープレナー」という言葉に対してどう思いますか?

しっくりきますね。僕は日本のモノづくりに対する「愛」をもっています。JAPAN MADEの取材はすべて自腹で、つくった映像と写真は職人さんに無償で提供していますが、ここまでできるところはあまり無いんじゃないかなと。なぜできるのかと聞かれれば、モノづくりと、それをつくる職人さんのことが本当に好きだから。愛があるからに尽きます。

カルチャープレナーとしての僕らの役割は、道を広げて、次の世代につなげていくこと。最初は1人しか歩けなかったり、雑草が生い茂って道が無くなろうとしている場所を開拓しながら、舗装をして、どんどん広く長くなっていく。僕が目指すのは「その道がなくならないこと」です。日本のモノづくりが途絶えてしまわないように、つなげ続けたい。職人さんや、彼らが生み出すものが本当に好きだからこそ、シンプルに「無くなったら嫌だ」と思う。だから、やる。それだけかもしれません。

河野 涼◎クリエイティブプロダクション「hyogen」ファウンダー 。「JAPAN MADE」編集長。全国約200箇所以上の産地に行って、日本のモノづくり・工芸を中心にカメラマン、アートディレクターとして、多岐にわたる活動を行っている。

Twitter: https://twitter.com/ryokawanophoto
Instagram: https://www.instagram.com/ryokawanophoto/?hl=ja

text by Saki Ishiyama
Interview & edit by Ryutaro Ishihara


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