見出し画像

きのこのガーリック炒めと、マッシュルームあれこれ

東北の山沿いで生まれ育った私は、秋になると、必ず食べたくなるものがある。

それは、きのこ料理だ。天ぷらや炒め物、煮物もいいし、味噌汁に入っているきのこもおいしい。きのこの炊き込みご飯や、松茸の土瓶蒸しなども、秋ならではの香りだ。

…と、思いながら、なじみの居酒屋へ顔を出すと、カウンター上にある大皿に、さまざまなきのこが山盛りになっていた。しいたけ、舞茸、エリンギ、しめじ…。

「あれ?これ、ナラタケじゃない?」

大皿のきのこの山の中に、しいたけよりも明るい茶色で、カサの部分が平べったいきのこを見つけて、私は思わず声を上げた。

「よく知ってるねぇ。そうそう、これ、ナラタケ。この時期しか入荷しないみたいでさ。他のきのこと比べて、見た目はよくないけど、うまいんだよ」

「そうだよねぇ。子どもの頃、よく家族できのこ狩りに行ってた」

「きのこ狩り?びんこが?」店主が、意外だといわんばかりの顔で聞き返す。

「そうだよ。私、東北の田舎出身だから。秋になると、必ず家族みんなで山に入って、きのこ狩り。毒きのこを採らないように、両親からしっかり教えられたんだから~」

「へぇ~。筋金入りだなぁ」

「でしょ?ねぇ、このきのこ、なんの料理になるの?ちょうど、きのこ料理が食べたいと思ってたんだ~」

「いろいろ混ぜて、ガーリック炒めにしようかなと」

「お!いいねぇ。食べる!」

「かしこまりました~」

店主はそう言うと、大皿からそれぞれのきのこを少しずつ手に取り、「いろいろきのこのガーリック炒め」の用意を始めた。

私は、この時期ならではの「秋あがり」という日本酒を飲みつつ、おつまみが出来上がるのを待つ。

「そういえば、きのこは植物なのに、なんで『採る』じゃなくて『狩る』っていうんでしょうね?」隣席の常連さんが、ぼそりとつぶやいた。

「さぁ…。言われてみれば、なんでだろう?気にしたことなかったですね」

「狩る」という言葉を使うのは、きのこだけではない。「紅葉狩り」「ぶどう狩り」季節は違うが「さくらんぼ狩り」「いちご狩り」などなど…。みんな、植物を採ったり、見たりするのに、「狩る」という言葉を使う。

私は、日本酒を飲む手を休め、スマホでググってみた。

「季節の花や草木を山野にさがし求める様子を、獲物を追う『狩猟』になぞらえている(NHK放送文化研究所)ですって」

「へぇ~。狩猟になぞらえているんですか。なるほど~」

「調べてみないと、わからないもんですね」

「はいよ~。お待たせ」

私が常連さんと話をしているうちに、きのこのガーリック炒めができあがった。カウンター越しに、店主から茶色の和皿に盛り付けられた料理を受け取る。

「うお~!いい香り!」

食欲をそそるにんにくの香りをメインに、しいたけや舞茸の香りがする。きのこのうまみがたっぷり入った、間違いなくおいしいヤツだ。

ハフハフ、アチチ…。

「うまっ!」と言いつつ、秋あがりをちびり。

「あ~!おいしい~!」

無意識にニマニマしていたのだろう。隣席の常連さんが「よっぽどおいしいんですね」と笑っている。

「あ、そういえば私、以前、フランスに住んでいた、っていう日本人と一緒に飲んだことがあって…」

「はぁ、フランスに住んでいた方と?」

「ええ。フランスでも、きのこ狩りに行くらしいですよ」

「フランスでも、きのこ狩りに?!」

「ええ。ポルチーニ茸とかが有名ですけど、他にも、なかなか日本には入ってこないきのこがあるらしくて。キッシュとか、パイにするんですって」

「へぇ~。キッシュとか、パイに…。日本のきのこ料理とは、ずい分違いますね」

「そうなんですよ。ちなみに、海外でも、日本のしいたけとかは人気があるみたいですよ」

「日本の、しいたけが?」

「ええ。ベジタリアンやヴィーガンの人たちが、肉厚のしいたけをステーキにするんです」

「へぇ~!しいたけステーキ!しいたけって、英語でなんていうんですか?」

「しいたけは シイタケマッシュルーム(Shiitake Mushroom)

ですね。舞茸とかしめじとかも、日本名の後にマッシュルームってつけると、だいたい通じるみたいです」

「知らなかった~。日本名でいいんですね~」

日本で「マッシュルーム」といえば、白くて丸いカサの、あのマッシュルームを思い出す。往年のビートルズの髪型「マッシュルームカット」の形である。

「欧米では、きのこ全般をマッシュルームっていいますからねぇ」

私と常連さんが、きのこの話で盛り上がっていたその時、店の扉が開いた。

「こんばんは~」

よく見る、背の高い別の常連さんである。カウンター席に案内された彼は、私たちの会話の一端が耳に入ったのか、開口一番、こう言った。

「ボクは、きのこより、たけのこ派ですね。あのクッキーの部分が、おいしいんですよ」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?