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『死の天使の光輪』序章
草原を駆ける西風が草露を拭う。
その青年は、草原に出来た小径を歩いていた。厚い雲が悠々と漂う晴れた昼間のこと。風に吹かれながら歩くその姿は、長い時間歩いていたにもかかわらず、風に足を掬われるかのような、疲れを知らない、軽い足取りをしていた。これから向かう場所へ、期待に胸を弾ませながら、青年はこれから起きる《出来事》に対する想像をたくましくしていた。
青年はささやかな物書きであった。
数々の
『死の天使の光輪』第一章
少女の名はケイラと言った。
「ここでずっとあなたを待ってた」
「……人違いじゃないかな」
「いいえ」
不意に“待ってた”なんて不思議な事を言うものだから、青年は少し距離を取ってしまった。
「君はここで何をしているんだい?」
「墓守をしながらあなたが来るのを待ってた」
少女が廃墟で墓守とは。待つだけであれば墓守をする必要は無いだろう。それはただのごっこ遊びではないかしらん。しかし、ただのごっこ
『死の天使の光輪』第五章
古びた廃墟に長い影が二つ並んでいる。昼間、燦々と輝いていた太陽が今では優しい橙色に変わっている。世界と二人を包み込むその光は、どこか新しくも懐かしいような、一種の宗教画に見る後光のようだった。
しばらく黙って夕陽を眺めていた二人。しかし、静寂を破って、青年が少女に声をかけた。
「そろそろ日が落ちるし、町まで戻ろうか」
「確かに、もう戻らないと」
少女は青年から離れるようにして、夕陽のある方