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『死の天使の光輪』第四章

「君の気が済むまで聞いてあげるから、話してごらん」
 風が少女の髪を揺らす。少女の表情は今まで以上に、更に明るく輝いていた。少女は《真理》を語り始める。
「目に見える世界と目に見えない世界には境というものは無い。二つの世界は境無く繋がっていて、互いに影響を与えあっている」
「目に見えない世界と繋がっているということは、目に見えない存在との繋がりもあるってことだよね。例えば守護天使とか……」
「そう。目に見えないだけで、本当はそばにいる。そしてあなたが困っている時は、あなたの耳元で囁いて、適した考えを閃くように促している。あなたはその囁きに耳を傾ける必要がある」
「やっぱり守護天使は存在するんだね」
 実を言うと守護天使の存在に憧れを抱いており、それを思い出す度に心を込めて、祈りを捧げていた。そんな中でのこの話だ。聞いただけでも大収穫だ。
 少女は語り続ける。
「天使はたくさん存在している。仕事は無くただ遊んでいるだけの天使、そしてその天使らの監督をする大天使という存在もいる。そしてそれらに困っていることについて助けてくれるように頼むことも出来る。天使だけでなく、次元上昇した人たちや宇宙にも頼むことが出来る。すぐにやって来てくれて、そして助けてくれるから、信頼して待つといい」
 またひとつ、疑問に思う言葉が出てきた。
 少女に言葉を返す。
「ひとつ質問があるんだけど、次元上昇した人たちって、例えば誰のこと?」
「それについてはここでは説明しない。詳しく知りたいなら『アセンデッドマスター』という単語の載っている本を調べてみるといい」
 説明がないのには何か理由があるのか、しかし、あまり深入りしすぎるのも悪いだろうと思い、そっと、言葉を喉の奥へしまいつつ、少女の気持ちを汲み取った。
「分かった。それは自分で調べておくよ」
「それと、まだ、真理の話があって……」
「最後まで聞くから安心して話していいよ」
「ありがとう」
 少女は体を左右に揺らしながら、嬉しそうに語る。
「あのね、『神の属性』というものがあって、それは、愛、光、永遠、完全性、叡智などがある。そして前に話したように、私たちは神であるから、その属性を持つことになる。つまり、私たちは愛であり、光であり、永遠であり、完全であり、叡智である。私たちは愛。愛という存在」
「その言葉、とても気に入ったよ。『私たちは愛という存在』って、とてもいい響きだね」
《愛》という言葉だけでも甘美な響きであるのに、その《愛》が自分たちにも当てはまるとは。全てが神であり、そして愛である。今まで少女が語ってきた《真理》の中で一番にピンと来るものであった。
「私たちは愛という存在だから、世界に愛を広めていくことが大切になる」
「世界に愛を広めることか……どうやったらそれが出来るかな?」
《あの人》でもなければアガペなんて無理だ。そう思いつつ質問したが、少女は何でもないような事のように語る。
「愛を広めるとは、簡単に言うと『思いやる心』を持つこと。『思いやる心』の他に『忍耐』も愛の一つになる。あなたも今、私の話を聞いてあげるという思いやりと忍耐の行動が出来ている」
「君の話を聞いている今の僕は愛を広めていることになるんだね」
「そう。他にも自己愛というのも大切。他人を愛するのと同じぐらいに、自分のことも愛しておくこと」
「そっか。自分を大切にするのも重要なんだね」
 そういえば、自己愛を発揮出来ていたかしらんと、思考が走る。この少女の話を起にして、これから自分への愛についても考えよう。そう思い至った。
 そんな話を聞いていくうちに、ふと気付く。少女がこんな難しい話を思いつくわけが無い。さっき話したこの廃墟の歴史を本で知ったのと同じように、今まで話したことが全て本の中からの受け売りだったとしたら? それを知るべく質問を投げかけた。
「もしかしてだけど、君は読書が好きなのかな?今まで話した真理も本で得たものだったりして」
「自分の内にいる神に教えてもらった。そしてそれについて考えて閃いたものだけを話した」
 信じられない。少女が言っていた、人の内にいる神が《真理》を教えていたなんて……いや、今まで話していたことが少女の単なる空想だとしたら?
 少女は尚も語り続ける。
「そして、自分の閃きの確認のために何冊か本を読んでたんだけど、そのほとんどは古くから伝わる賢者たちの言葉の繰り返しであることに気づいて、その時に来た閃きが『自分が行動をする時期に来ている』ということだった。ただそれだけ」
 そして啓示があり、その行動があって今に至るということか。
「同じことの繰り返しは飽きやすい。何となく分かるな」
 青年は続けて言葉を繕う。
「でもそこから行動の時期に来てると気づくのは、それはすごいね」
「たぶんだけど……信じてないでしょ?」
 青年は驚いた。心の内を少女に見透かされている? 青年はまた言葉を繕った。
「そんなことはないよ。ただ君の話はびっくりすることの方が多くて……」
 正直、ついていけないとは言えなかった。
「別にいい。もう、終わりにする。満足した」
「そっか……」
 青年はぎこちなく笑った。すると少女は言った。
「やっぱり、次で最後の話にする。それはね」
 少女の顔には満面の笑み、瞳がキラキラと輝いているのは……泣いている? 少女は体を左右に揺らしながら、空を見上げて話す。
「それはね『なんでもない時にも笑顔でいてもいい』ということ。たとえ楽しいことがなくても、悲しい内にあっても、いつでも笑顔でいることができる。それに一人の笑顔は周りを笑顔にする魔法を持っている。『いつでも笑顔でいてもいい』と自分を許すこと。それを最後に伝えたかった」
「うん」
青年はそれを聞いて、少しほっとした。この少女にも普通に・・・話せる話題があるんだなと感心した。
「重要な話を、最後に話してくれてありがとう」
「……こちらこそ、ありがとう」
 二人は微笑み合った。

昼は過ぎて、日が傾きつつある。もうすぐ夕陽が輝く頃となるだろう。二人の会話は、終わりに近づいている。

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