菱田 奈津紀

会議通訳者。フリーランス。国際会議や外交、ビジネスの日英通訳をしています。東京生まれ長…

菱田 奈津紀

会議通訳者。フリーランス。国際会議や外交、ビジネスの日英通訳をしています。東京生まれ長崎育ち。2人のバレリーナの母、趣味は旅と娘たちとのバレエ鑑賞。https://beyondlanguage.net/

最近の記事

通訳者が聴くことだけに集中できる時間をつくる意義

今年心がけていることにひとつに「人の話を聴きにいくこと」があります。 興味のある分野の講演会を聴きにいく、 話を聴きたいと思う友人との食事を予定する、 会いたいと思う人にアプローチしてみる、 朗読会の鑑賞に行く、などなど そうすると、不思議な感覚になることがあります。 普段、聴きながら解釈して分析して、別の言語で表現するための言葉や語順を決めるという作業をほぼ同時に行っている通訳者は、自分の限られた脳のキャパシティをその作業に分散させています。通訳しているときの頭の中を円

    • 職人とサービス業の狭間

      通訳という仕事は、磨き続ける技術を駆使していく職人業であると同時に、通訳を必要とする人の目的達成のお手伝いをするクライアントファーストのサービス業でもあります。 職人としての通訳者には、それぞれが理想とする「型」のようなものが、長年の経験と共に築かれていくのだと思います。細大漏らさず訳していくとか、ニュアンスを取り込んだ訳にするとか。はたまた、話し手の順番通りに訳出するとか、意味が伝わりやすいように敢えて文の順番を変えるとか。プロの通訳者一人ひとり、自分の経験や訓練から培っ

      • 耳に心地よい通訳を目指して

        初仕事は毎年緊張しますが、今年も無事にスタートを切りました。本番から逆算して、何日前にトレーニングを始めて、何日前に準備をして…という具合に、始動の計画を立てます。今年の初仕事は、クライアントのオフィスに自分のデバイスを数台持ち込んで、ネットワークに繋ぎ、Zoom通訳機能を使って同時通訳、セカンドデバイスで多言語通訳を聞きながらのリレー通訳が入るというマルチタスクもの。切り換えが複雑なため、お正月ボケの頭も一瞬でたたき起こされました。通訳技術の準備だけでなく、デバイスを操る心

        • 熱の余韻を感じる対岸の選手村

          2020年3月下旬のある夜、私は翌日の出張に備えてスーツケースに荷物を詰めていました。行先は福島。聖火リレーグランドスタートイベントの同時通訳です。しかし、出張当日へと日付が変わる頃、「先ほど大会の1年延期が決定したため聖火リレーも出発しません。出張キャンセルです。」との連絡が入りました。本格的な感染拡大への不安の中、翌朝になってスーツケースの中身を片付けたことを覚えています。 以降コロナの影響により、通訳の仕事のしかたもずいぶん様変わりしました。一時各国のビジネスが止まっ

        通訳者が聴くことだけに集中できる時間をつくる意義

          ワークライフ・インテグレーション

          あっという間に8月も後半。初夏は通訳業界も大変忙しく、感染対策を講じながら現場へ出たり、リモート通訳をしたりと、矢を射るかの如く時が過ぎました。 開催には多くの議論を呼んだ東京オリンピック・パラリンピックですが、延期前から通訳者として準備にかかわってきた私は、会場に選手がいる様子をテレビで見た瞬間、目頭がじわっと熱くなりました。IOC会長と都知事の会談通訳に始まり、毎晩続いた世界各地とのリモート会議の同時通訳、福島での聖火リレーグランドスタートの同時通訳など、担当した多くの

          ワークライフ・インテグレーション

          インプットのためのお役立ちガジェット

          先日、落語をライブで聴きました。年に数回、娘たちとバレエの舞台を観に行くのですが、今回はバレエと落語を組み合わせたオリジナルの演目。言葉を使わず踊りで表現するバレエと、話芸である落語が融合した新たな世界です。 大昔に父に寄席へ連れて行ってもらった記憶がありますが、落語をライブで聴くのは、ほぼ初めて。泣いて笑って、登場人物の性格やしぐさまでもが、目の前に浮かんできて、自分の想像力を引き出される感覚です。これほどにもイメージが膨らむものかと感動しました。まさに話芸。 さて、私

          インプットのためのお役立ちガジェット

          真似こそ上達への近道

          同時通訳ブースにデビューした頃、上手な大先輩とご一緒するのは、緊張したものですが、それ以上に毎回「やった!」と思っていました。 未熟な自分が足を引っ張っているだろうとドキドキしつつも、先輩の通訳にうっとり。耳をダンボにして、訳語の選択や文章の組み立て方、声の出し方や言葉の運び方などを、じぃぃっと聴いていたものです。(今でもそうさせていただいています。)美しい通訳は、いつまでも聞いていたいものだなぁと思いながら…。 それだけではなく、その場で真似できるものは、すぐに使ってみ

          真似こそ上達への近道

          映画『食べて、祈って、恋をして』を観て旅へ思いを馳せる

          思いっきり旅がしたい。旅先で出会った人と気兼ねなく語り合いたい。人の温かさに触れたい。そんな願いを封じ込めて、今は我慢の生活を送る私たちを、映像とストーリーで旅に連れていってくれるような映画でした。 ニューヨークのジャーナリスト、エリザベスを演じるのは、ジュリア・ロバーツ。離婚や失恋を経験して、イタリア、インド、バリへと、自分探しの旅に出かけます。 ストーリーのターニングポイントで、素敵な名言が出てくるのも、この映画の特徴です。私たちの人生のターニングポイントでも「ことば

          映画『食べて、祈って、恋をして』を観て旅へ思いを馳せる

          インプット、もっと上手につづけたい

          ウィズコロナ生活も1年が過ぎ、運動不足が蓄積。お腹のまわりにも何やら蓄積…。このままではヤバい!と我にかえり、暖かい季節になってランニング&ウォーキングを再開しました。 近所の散歩道は、5キロほど。少し走って、ほとんどを歩くと約1時間(遅っ…!)。ペースは遅いけれど、これがまた、Podcastで英語ニュースを聞くのにちょうどいい時間なのです。NHKのEnglish News、米abcのWorld News Tonight、英BBCのGlobal News Podcastを聴

          インプット、もっと上手につづけたい

          ウィズコロナの通訳環境

          新型コロナウイルスの感染拡大に伴うオンライン会議の急増で、リモート通訳のニーズが増えました。また経済活動の再開とともに、通訳者が参加する対面の会議も戻りつつあります。ウィズコロナの会議環境では、十分な感染予防対策が必要です。 一般社団法人 日本会議通訳者協会(JACI)では、8月に「新たな通訳環境に向けた通訳者からのご提案」として、 ・ 感染予防のためのお願い ・ リモート通訳に関するお願い を発信しています。ウィズコロナの通訳環境を準備する上で、ご参考にしていただけ

          ウィズコロナの通訳環境

          共著書が出版されました

          グローバル化が進む日本において、日々多くの通訳者がさまざまな場所でコミュニケーションのお手伝いをしています。ところが知られているようで、案外知られていない通訳者の生態。私たち通訳者は完璧な言語マシーンではなければ、読心術を身につけているわけでもなく、技術向上を目指して日々地道に努力し、お客様に喜んでいただけたら嬉しくなり、失敗すると悲しくなる生身の人間です。話し手のメッセージを理解するために集中力を最大にして聴き分析し、そのメッセージを別の言語で表現しようと取り組んでいます。

          共著書が出版されました

          通訳翻訳WEBに寄稿しました / コラム「通訳者・翻訳者の子育て」

          家庭で育てる世界への興味(2020年4月7日 通訳翻訳WEB) 我が家は日本人の夫と私、10歳と7歳の娘の4人家族です。通訳という職業柄、「家でも子どもに英語を教えているの?」とときどき尋ねられますが、我が家の英語教育はのんびりしています。日本語環境にいながら、幼いころから家庭で本格的に英会話を教えるとなると、親の側に相当な努力と根気が必要なのではないでしょうか。残念ながら、私はそのようなものを持ち合わせておらず、娘たちからも「ママ、もう少し英語教えて」とクレームが出るほど

          通訳翻訳WEBに寄稿しました / コラム「通訳者・翻訳者の子育て」

          JACIで連載始めました /「トップの通訳」

          こんにちは。日英会議通訳者の菱田奈津紀です。三寒四温の頃が過ぎ、春の陽気を感じる季節となりました。想定していた繁忙期は、世界的なウイルス感染拡大によって失われ、通訳業界も漏れなく大打撃を受けています。 このような中、Zoomを活用した遠隔セミナーや朝活などで、通訳業界を盛り上げてくれるJACIに改めてお礼を申し上げたいと思います。私も皆様に刺激を頂いて、自分の通訳訓練法を見直したり、以前購入してあった英語書籍を音読したり、はたまた初めてのe-Taxに挑戦したりと、普段なかな

          JACIで連載始めました /「トップの通訳」

          JACI寄稿 / 駆け出しのころ「一歩を踏み出す勇気を重ねて」

          初めて通訳という仕事を意識したのは、12歳のころだったと思います。翻訳家である母の友人が、一冊の訳書を私にプレゼントしてくれました。マザー・テレサの生い立ちや活動を紹介した児童書です。巻末の同時通訳者の解説には、1982年にマザー・テレサが来日した際の通訳の様子が書かれていました。当時の私が、これを読んで何を感じたのかは記憶にありませんが、通訳や翻訳という仕事が憧れのような形で印象に残ったことは、今も覚えています。 本文のつづきはこちらから… https://note.c

          JACI寄稿 / 駆け出しのころ「一歩を踏み出す勇気を重ねて」