真似こそ上達への近道
同時通訳ブースにデビューした頃、上手な大先輩とご一緒するのは、緊張したものですが、それ以上に毎回「やった!」と思っていました。
未熟な自分が足を引っ張っているだろうとドキドキしつつも、先輩の通訳にうっとり。耳をダンボにして、訳語の選択や文章の組み立て方、声の出し方や言葉の運び方などを、じぃぃっと聴いていたものです。(今でもそうさせていただいています。)美しい通訳は、いつまでも聞いていたいものだなぁと思いながら…。
それだけではなく、その場で真似できるものは、すぐに使ってみます。それがあからさまな時は「とてもいい表現なので、私も真似させていただきました」と時々お断りを入れて。そして帰り道など記憶の新しいうちに、なぜその通訳が美しいのかを分析してみます。自分の通訳には何が足りないのかを考え、そこを強化するためのトレーニングを取り入れます。
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思い返せば、通訳者を目指すもっと前、ただただ英語を話せるようになりたかった若者時代、書店で購入した英会話本のCDを流しながら、ひたすら真似を繰り返しました。
留学時代には、ネイティブスピーカーの友人たちが使う生きた表現を真似して、自分の言葉にすべくどんどん盗んでいました。
もっと遡ると幼稚園時代でしょうか。母が聴かせてくれた英会話のレコード(!)で、発音の真似っこ遊びをしていた記憶があります。
真似はつまり、インプット⇒アウトプットの回転を速くすることなのだと思います。そして、インプットしたものを繰り返し使うことで、アウトプットを身体に覚えさせます。
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先日、ある日本人社長の英語スピーチを日本語に通訳しました。世界中から500名以上がオンライン会議に接続して聴いています。この方の英語はとてもきれいな上に、言葉への感情の乗せ方、語りの緩急のつけ方、間の取り方が上手く、聴いている人をとにかく惹きつけるのです。会議プラットフォームのチャットボックスには、世界中のオーディエンスからどんどんコメントが寄せられ、皆が集中して聴いていることが伝わってきました。
スピーチやプレゼンは、発表の内容ももちろん大事ですが、それをどう語るか(デリバリー)も、伝わり方や相手が感じる印象を大きく変える要素です。語りが上手な人、自分の好みの話し方をする人を見つけて、コツを真似してみるのは、きっと上達への近道だと思います。
もうひとつ、英会話の練習や話し方を改善する上でおススメしたいのが、録音です。文章と違って話し言葉は一瞬で消えてしまうため、振り返ることができないものですが、それを可能にしてくれるのが録音です。通訳者は、訓練の過程で必ず自分のパフォーマンスを録音して振り返ります。最初、自分の声を聞くのは恥ずかしいし、ましてや改善点だらけのパフォーマンスを聞くのは、ああぁと凹む拷問のような感じがします…。でも続けると、案外慣れていくものです(笑)。
真似して、訓練して、録音で振り返って修正する…。通訳者である限り、これからも続いていく地道な筋トレです。
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