学校図書館の分類を変える、学びが変わる。 ~児童・生徒の視点や動線と、授業者の導きたい導線を考えた分類による学びの変化~

はじめに 
学校図書館は、学校という教育施設の中にある教育設備の一つである。学校図書館を「教育課程の展開に寄与する」学びの専門図書館として機能するように、学習情報センターとして作り上げることが、学校司書の最も大切な業務である。
ところで、「教育課程の展開に寄与する」とは、どういう状態の学校図書館を指すか。
文部科学省は『学校図書館の活性化推進総合事業』の『16.学校図書館の活性化推進総合事業(新規)[達成目標2-1-2]3.事業概要』で、学校図書館の活性化のための取り組みを、新規事業として掲げている。事業概要には「教育課程の展開に寄与する」学校図書館の在り方が記述されているので、一部を紹介する。

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資料1*文部科学省ホームページより『学校図書館の活性化推進総合事業16.学校図書館の活性化推進総合事業(新規)[達成目標2-1-2]3.事業概要』 原文のまま

児童・生徒の興味や関心を一層高め、知る喜びを実感できる効果的な「調べ学習」ができる資料が揃っており、児童生徒の自発的、主体的な学習活動が可能な学びの専門図書館、学習情報センターとなっていることが、教育課程の展開に寄与できる学校図書館である。また、学習指導要領においても、指導計画の作成等に配慮すべき事項として、学校図書館が、学校教育にとって切り離しては考えられないと言う位置付けをしている。

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資料2 文部科学省 小学校学習指導要領より抜粋

では、学校図書館に常駐し勤務する学校司書とはどういった存在であろうか。
抜粋した資料1より、「2教員のサポート機能強化に向けた学校図書館活性化プロジェクト」には、教員のサポートができ、教員のレファレンスに的確に答えられる人であり、学び方を学ぶ場として、学校図書館が機能できるように管理運営する職務を持つ者であるとされている。
学校司書は、教諭と対等であっても、授業などを単独で行うという同等の立場にはいない。授業を行うのは、あくまでも教諭であり、学校司書は授業を行う教諭に対し、資料を揃え提示し、学びを支えるのである。


ところで、実際の調べ学習は、どのように行われているであろうか。児童・生徒の調べ学習を見ていると、自身あるいは友達が見つけた一冊の本だけで、調べ学習を終わりにする子が多い。教諭は提出された課題を見て、「これではだめ。もっと調べてきなさい」と言うが、「だって、資料がないから、これ以上は無理」と、ほとんどの児童生徒が答える。たとえ別の書架に同じような内容の本があるとしても、探しもせずに「ない」と言う。
同じような主題の本であっても、書架が違えば、活用の仕方や活用の頻度に違いが出てくる。本によっては、多岐に渡った主題が一冊に入っており、分類の識別が分かりにくい本もある。書誌を作成する人の技量や経験の長短も関係するかもしれない。とにかく、同様の似通った内容の本であっても、分類や排架が違う状態になる可能性が少なくはない。『別の書架に同じような主題の本がある』と言う状況は、『書誌上の請求記号(分類記号、図書記号、巻冊記号)通りの正しい排架を行った』司書としての仕事の結果であると言える。しかし一方では、『学校司書の本来の仕事が、十分にされていない結果である』と考えることもできる。
この矛盾の真相は次の通りである。パソコンで蔵書管理する図書館システムの導入以前は、本を受け入れる際に多くの学校では、学校司書が書誌を作成し、請求記号(分類記号・図書記号・巻冊記号)として、自分で確認し決定した図書資料を排架していた。
近年になり、そういった図書館システムを導入することで、司書の仕事の効率化が進んだ。また、多くの市町村では、学校図書館にも図書館システムを導入することで、一校だけの蔵書の活用から、他校の蔵書活用も可能なインターネットを利用する学校図書館システムが普及した。
結果として、同一市町村内だけでなく、日本中の学校種あるいは図書館種が違っていても、統一性のある書誌が作成され、どこの図書館に行っても、同じ請求記号がついた図書が、蔵書されるようになった。
司書は、今まで通り書誌を確認して排架するが、その請求記号は受け入れる学校司書が自ら本を確かめ、判断して決めたのではなく、購入した図書に付随してくる書誌通りの請求記号となっているので、『請求記号通りの正しい排架を行った』司書の仕事をしていると言えるのである。もちろんほとんどが正確な分類であるが、中には、正確であったとしても、学校図書館には適さない分類がある。
学校司書の仕事とは、蔵書する時、本の背にある請求ラベルと書誌を確認して、排架していくだけではない。蔵書される本の内容を確認し、排架するのは基本である。まずは、同じような内容の本が、もしかすると別の書棚にあるかもしれないと、所蔵状態を意識し、確認し、把握することが大切である。揃体本として蔵書する扱いとなっている本についても、本の主題を確認し、揃体したままで排架して良いのか自身に問うてみる。
利用者である児童・生徒が、どういう動きをするか想像し、彼らが行う調べ学習が、自発的に探求的になっていくような蔵書、分類、排架を考える。
本の内容に対し、学校図書館での使われ方が十分に考えられた的確な分類がされていくと、全く手に取られなかった本、あるいは開かれなかった本が、児童・生徒によって、手に取られ開かれるようになる。学校司書が、本の内容や主題を把握し、類・綱・目だけでなく分目(ぶんもく)(小数点以下)をも意識しながら分類をすると、児童・生徒の調べ学習の動線に変化が起こり、学びは激変していく。
分類一つ違うだけで図書資料の使われ方は、激変する。たった一冊の本の分類を変えるだけで、今まで手にされなかった本が手にされ、利用される。
これから論じていくのは、学校図書館の司書の業務を行う立場から考え、実践した例であり、図書主任や司書教諭との協同作業、例えば『読む喜びや、楽しみを伝える』読書週間などの活動の話とは少し違う。むしろ、それ以前の、学校図書館を整えるための分類の話と、その分類を定着させるための取り組み、分類がなんとなく定着したことで現れた貸出の変化などについてである。
利用者である児童・生徒の視点や動線を考慮に入れ、調べ学習において、教育目標や授業者が導きたい動き(導線)を念頭にした分類や排架であり、それらを定着させるために学校司書の立場から行った実践例である。
学校図書館の役割の中に、児童・生徒の居場所『第二の保健室』としての需要も大きなウェイトを占めているが、この論文では『学びのできる、学びのための専門図書館』として焦点を当て、学校図書館でどのような実践を行ってきたかを論じていく。


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