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読書備忘録

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2021年11月の記事一覧

柚月裕子著「ミカエルの鼓動」

今週末柚月裕子さんの長編を読みました。 帯に「気鋭の著者が、医療の在り方、命の意味を問う感動巨編」とあり、467頁という長編ですが、週刊文春に掲載されていたのが功を奏したようで、場面の切替えがうまく、読んでいて疲れが出ませんでした。 多くの医療従事者の協力を得たことで、手術の場面が立体的に感じる描写はすごいです。 さらに医療の先端である医療用ロボットの不具合と病院、医療機メーカーの癒着という社会問題を取り上げたことも今の時代なら不思議はありません。 中盤になって、西條

NATSUMI著「大正浪漫YOASOBI『大正浪漫』原作小説

昨日は図書館で30分ばかり滞在、書架を眺める時間を持てました。そして2冊借りて帰り、1冊は読み終えてしまいました。 時翔のもとに届いた不思議な手紙。100年前を生きる千代子が書いたものらしい。思いがけず始まった〝文通〟で距離を縮めるふたりだったが――令和と大正、時を超えた恋の行方は? 2086作の応募作から選ばれた「夜遊びコンテストvol.2」大賞受賞作を、「小説を音楽にするユニット」YOASOBIが楽曲化。同名楽曲のリリースとあわせて刊行される原作小説。(amazon内容

池田喬著「ハイデガー『存在と時間』を解き明かす」

久しぶりに読み応えのある解読書を読んでみたくてこの本を選んでみました。 哲学徒を引きつけてやまない“現代哲学の最高峰”の読解を、自分の読書体験としてモノにするための確かな道が本書だ。『存在と時間』の鮮烈な解釈で学界にデビューした新鋭による、問答無用のニュー・スタンダード(amazon内容紹介より) 本書「序」のタイトルは「なぜ、『存在と時間』についてなおも書くのか」です。 『存在と時間』やハイデガーの入門と謳う本はすでにいくるもあるからだ。だが「なぜ、なおも書くのか」と

新川帆立著「倒産続きの彼女」

昨日記事を書いていた頃は調子が良かったのに、実家の母の電話で一変、頭がパンクしそうでした。 その後暴飲暴食しても気分は晴れず、本を読んだりNetflixを見たりしても眠れませんでした。朝方眠れたと思い、目が覚めたら10時を回っていました。ひどい生活です。 さてそんな中読んだのがこちらの作品でした。 「このミステリーがすごい! 」大賞を受賞、受賞作を「元彼の遺言状」改題デビューした新川帆立氏のシリーズ続編です。 独特の個性で魅了した前作主人公剣持麗子弁護士が今回も活躍する

群ようこ著「子のない夫婦とネコ」

群ようこさんの作品が初期の作品から好きで、新刊が出ると手に取るようにしています。 群さんの作品に猫が登場するのも好きです。実家の母が喘息持ちなので家で動物を飼ったことはありませんが、実家の両親共々動物は好きです。 昨夜読んだ作品もネコやイヌを飼っている人と老いをさりげなく描いた連作短編集でした。 歳を重ねていく中での、イヌやネコとの生活の喜びや別れの悲しみを、明るいタッチで描く連作小説。 これまでも、ネコをはじめたくさんの動物たちについてエッセイや小説で書いてきた群よう

秋吉理香子著「息子のボーイフレンド」

ジェンダーという言葉は最近よく聞くようになったけれど、まだまだ私の中で理解しきれていません。 息子とボーイフレンド、息子の両親と母親の親友、各々の視点で描かれた五つの章から成る物語。人物の心情が豊かに描かれて、心地よく一気に読み進めました。 「カミングアウト」という内容をさらっと書けるのも、「ボーイズラブ」、そう私で言えば漫画「ベルサイユのばら」の主人公オスカルに惹かれた時代と同じような感覚を女性は持っているからかもしれません。 私も2人の独身愚息を持っているので、この

朝倉秋成著「六人の嘘つきな大学生」

随分前に話題になっていた作品をやっと図書館から借りて読んでみました。 ミステリーではありますが、根底にあるのは現代の就職活動だと思います。 就活での最終課題ディスカッションの様子と、当時の就活生だった波多野祥吾の病死の報を受けて、内定を得て就職した嶌依織が残り4人の現在を訪ねていくうちに、犯人にたどり着く様子が描かれていますが、8年後の彼らにも現代社会の問題が色濃く出ています。 内定者を決めるという最終デスカッションでは6人の衝撃的な事実が晒されます。 「犯人」が死ん

山本文緒著「ばにらさま」

実家の母が雨漏りに対しとても神経質になっていて、昨日からまた雨漏りと騒ぎ、午前中見にきてもらいました。 朝からとても風が強く吹いているので、屋根に上がっていただくのは気の毒でしたが、今できることはしていただき、雨が降ったあと再度連絡する事になりました。自分も充分高齢ですが、母ほど生きるとこうも意地になるのかと呆れてしまいます。私もああなるのかと思うと、これ以上生きしたくないです。 さて図書館から借りてきた本、最後は山本文緒氏最期の作品集でした。 僕の初めての恋人は、バニラ

イム・ジーナ著「モノから学びます」

Netflixに加入してから、圧倒的に韓国ドラマ、韓国映画を見る時間が増えました。そしてそれに関連した本にも関心が向くようになりました。 昨日読んだ本も韓国のイラストレーターが書かれたエッセイでした。 自分を好きになるというのは決して簡単なことじゃないけれど 昨日の自分よりも今日の自分をもっと好きになりたいという強い気持ちがあるはず。日々の変化をモノを通じて感じることができたら。そんなふうに、明日に向かって生きていきたいのです。(「はじめに」より) この言葉を噛み締めなが

寺地はるな著「ガラスの海を渡る舟」

読書熱が再び湧き上がってきて、昨夜司書さんお薦めの本2冊目を読み終えました。 ガラス職人であった祖父の園光利が残したガラス工房をガラス工房「SONO」として引き継ぎ、お互いが相容れない道と羽衣子兄妹が過ごした10年間が丁寧に描かれた作品です。 作中の相手を思いやる言葉や行動にハッとさせられることが多く、特に主人公である兄の道と妹の羽衣子の言葉にドキッとしました。 「羽衣子にとっての『特別』とか『ふつう』は、ただひとりの特別な人間と、同じようなその大勢の人ってことなんかも

森沢明夫著「本が紡いだ五つの奇跡」

昨日は司書さんからお薦めいただいた作品を読み終えました。 本が生まれて、読者へとつながる「本に関わった五人の奇跡の物語」 第一話 編集者・津山奈緒 第二話 小説家・涼元マサミ 第三話 デザイナー・青山哲也 第四話 書店員・白川心美 第五話 読者・唐田一成 本に縁のある5人が、作家涼元マサミの書いた新作によって繋がっていく、森沢明夫氏らしい筆致で描かれた連作短編集です。 デビュー作以後ヒットに恵まれなかった作家涼元マサミが、編集者津山奈緒によって新作を書く事になり、その

ペッパーズ・ゴースト

久しぶりに伊坂幸太郎氏の新刊を楽しんで読みました。 主人公・檀先生は飛沫感染すると、相手の翌日の未来が見えるという不思議な能力を持っています。(ここはコロナの影響によるのかも) そんな檀先生がある日、受け持ちの生徒である布藤鞠子(ふとうまりこ)から不思議な小説を渡されます。この物語にはネコジゴハンターである楽観的なアメショ君と悲観的なロシアンブル君の奇妙な二人組が登場、活躍していきます。そして受け持ちの生徒である里見大地の些細な校則違反をきっかけに、檀先生は自身の能力によ

更年期障害だと思ってたら重病だった話

タイトルにドキッとされた方もあるかもしれません。けれど、重病までとはいかずとも、何かしら違う病気だったという話を私の年れになるとよく聞く話題です。 そんな軽い気持ちで、伊坂幸太郎さんの新刊とともに借りてきて読み始めました。 私も50歳を前にして突然自分が嫌になって、仕事も家事も全く手につかなくなり、「うつ病」の診断を受けた時この先どうしたらいいのか、わからなくなったような気がしたのを覚えています。 現在あらゆる心配事を話すことができる主治医に会って、幸い普通の生活が送れ