見出し画像

バルミューダがキッチン製品を始めた理由|BALMUDA Chronicle - 04

マガジン「BALMUDA Chronicle」今回は2015年に発売し、今日まで多くの方に愛されたトースター誕生のエピソードから、バルミューダがキッチン製品を始めた理由を紹介します。


ものより体験

起死回生の扇風機がヒットし(前話参照)、空調家電に軸足を移して事業を拡大しつつあったバルミューダ。日々の生活をより良くしていくことで、人生は素晴らしいものになる──寺尾とスタッフは道具を通して得られる気持ちよさや心地さこそ、自分たちが生み出すべきものだと確信します。そして、それをもっと多くの人に届けたいと願います。

人が特に感動に包まれる瞬間は、五感のすべてが活かされる「食」に関わることだと考えました。「おいしい」体験ほどポピュラーで、国や世代を超えた感覚はないからです。

寺尾が17歳でひとり地中海沿岸を放浪していたとき、疲れ切ってたどり着いたロンダの街のベーカリーで、香しい匂いと共に口にしたパンに涙が溢れた思い出が、ふと蘇りました。
 
世界中の人が毎日、パンを食べています。パン屋で出る焼きたてのパンは、あんなにもおいしいのに、トースターで焼くとおいしさが減ってしまう……。焼きたてそのままのおいしさのトーストを自宅で出せたら、毎朝、起きるのが楽しみになるのではないか。そんな体験をぜひ届けたいと考えました。

答えはいつも偶然に

全力で空調家電に挑んでいたメンバーで、2015年発表に向けた新たな挑戦が始まりました。食に関する科学書を読み漁り、学んだ知識を活かしながらパンが焼き上がるしくみを研究します。しかし、理論がわかっても絶妙な焼き上がりを実現するには至りません。おいしさは、数値では表せないものだったのです。

「おいしいトーストって、なんだろう?」繰り返し考え続ける日々の中、毎年恒例の社内バーベキュー大会がオフィス近くの公園で開催されました。あいにく雨の日と重なりましたが、それも思い出になるだろうという理由で決行。そこで肉を焼くかたわら、食パンを焼いたスタッフがいたのです。できたパンの表面はパリッとし、中には十分な水分が残っており、完璧とも言えるおいしさでした。このパンを再現できれば……。

バーベキュー大会で味わったパンを再現しようと、引き続き研究に明け暮れます。炭火がよかったのかなど、さまざまな仮説が出たあとで、誰かが思い出したように言いました。「そう言えば、あの日は雨が降っていましたよね」──そう、答えは“水分”だったのです。

スチームでパンを包み込み、パン本来が持つ水分やバター、小麦の香りを閉じ込めて焼くバルミューダ独自技術「スチームテクノロジー」は、このような日常のひょんなことがきっかけで誕生しました。

焼き上げ度合いの調整は、上下ヒーターの温度をマイコン制御で緻密に切り替えて行います。すべての仕様を固めるまでに焼いたパンの総数はざっと5000枚以上、延べ1000時間に及ぶ探求の日々でした。

おいしいものはどこから出てくるのか? という考えからジブリ映画「魔女の宅急便」に出てくる窯なども参考にし、デザインをブラッシュアップ
古来よりパンが焼かれてきた「かまど」をイメージし、思わず覗き込みたくなるような窓を設けた

2015年、革新的なトースター誕生

こうして生まれた「BALMUDA The Toaster」は、それまでに販売されていたトースターよりもはるかに高い価格帯のものになりましたが、ものとしてのトースターではなく、BALMUDA The Toasterによって生み出される「おいしさ」に価値を感じてもらいたいと考えました。いつものパンがとびきりおいしく感じられ、朝食が楽しみになったら、毎日がより素晴らしくなっていくに違いありません。そうした日々の体験ひとつひとつを良くしていくのが、現代の道具である家電の役割だとバルミューダは考えています。

日本のメディア向けにトースターを発表する寺尾(2015年)

トースターによるおいしいパンの体験は口コミで広がり、バルミューダにとって大切なヒット製品へとなっていきます。2015年度グッドデザイン賞を受賞、さらに「グッドデザイン・ベスト100」に選出されるなど、そのデザイン性や創発力が認められ、現在では日本だけでなく韓国やアメリカなど、6つの国と地域でも販売されています。今後も展開エリアは拡大を予定しています。

独自のスチームテクノロジーと温度制御によって、これまでになくふっくらと香ばしくパンを焼き上げるトースターである。空調家電に新風を吹き込んだバルミューダが、今度は新たな風をキッチン家電に吹き込んだ点を高く評価したい。焼きあがるパンが抜群に美味しいのはもちろんだが、外装や付属のピッチャーも家電製品というより、ホーローや鍋のような勝手道具の趣があり、台所に馴染む美味しそうな形にデザインされている。

2015年グッドデザイン賞審査員コメントより
2022年にはサラマンダー機能を追加した「BALMUDA The Toaster Pro」も発売

キッチンシリーズを展開

トースターを皮切りに電気ケトル、蒸気炊飯器、オーブンレンジ、コーヒーメーカーとキッチン製品のラインナップを広げていきました。すべては、その道具を使う際の体験をより良くできるよう、これまで世にあったものとはどこか違うバルミューダならではの解釈が入っています。製品名に「BALMUDA The〜」と冠しているのも、私たちが考える最良の体験をお届けしたいという意味合いが含まれています。

BALMUDA The Pot(2016年〜)は、お湯の注ぎ心地にこだわった小さくてスタイリッシュな電気ケトル

また、すべての製品は、より使いやすく、より素晴らしい体験が提供できるよう常にアップデートを続けています。

土鍋で炊いたご飯の味を上回る美味しさを追求したBALMUDA The Gohan(2017年〜)は、二重釜構造の蒸気炊飯器。2022年発売モデル(写真)では、加熱効率とデザインを見直した
キッチンをわくわくする空間に変えるBALMUDA The Range(2017年〜)。2世代目となる2023年モデル(写真)では“最良のアップデート”を追求しデザインなどに手を加えた

コーヒーメーカー「BALMUDA The Brew」は、慌ただしい朝、ハンドドリップのコーヒーを誰かが入れてくれたらうれしいという感情をいつでも思い出させてくれます。

BALMUDA The Brew(2021年〜)は、一流バリスタが認めるハンドドリップを再現

100に及ぶレシピを公開

キッチンシリーズを投入して以来、バルミューダのキッチンチームが考案・撮影・調理すべてを行なったレシピをウェブサイトで公開しており、その数はいよいよ100を越えようとしています。各キッチン製品を通して届けたい「特別なおいしさ」にこだわり、代表の寺尾がすべての味をチェックしています。レシピの中には製品を愛用いただいている著名人やお店の方による
“シグネチャーレシピ”も。豊富なおいしさを、ぜひこれらのレシピから発見していただけたらと思います。

ハムチーズトースト
ローストビーフ
とらあんトースト
水野仁輔のビーフカレー

日々、用いられる道具というだけでなく、嬉しさや、さらには感動という体験をもたらすことのできるキッチン家電の開発を、今後もバルミューダは続けていくつもりです。

マガジン「BALMUDA Chronicle」では創業からの20年を、年代順にストーリー仕立てで紹介しています。

この記事が参加している募集

#このデザインが好き

7,237件