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Kimitaka/小川室長
2022年11月27日 18:22
ピンポーン。呼び鈴が鳴った。もう一回。さらにもう一回。書斎でパソコンに向き合っていた私は、くそ、と毒づいた。せっかく筆が乗ってきたとこなのに。こっちは締切に追われてんだよ。ピンポーン。締切のことなど意に介さず、無情にも四度目の呼び鈴が鳴る。私は特盛りのため息を漏らして重い腰をあげ、書斎から廊下へと出た。そして五回目のピンポンが鳴り響く頃、インターホンの前へと滑り込んで「通話」ボタン
2022年11月20日 16:26
なんだよ、とおれは軽く気色ばんだ。反応しないのだ。スマホの生体認証が。おれの顔が。だからログインできない。困るなあ、スマホくん。今からツイッタを開いて、仕事のあとの優雅なリラックスタイムを過ごそうとしていたんですけど。そこでハッと思い至る──メガネか。そう、おれはメガネを掛けていた。最近の生体認証システムは、なんならマスクだって意に介さず、登録された顔を正しく認識してみせるそうだ。だっ
2022年11月7日 22:22
数年ぶりに会ったチャンス君は、ひどく面変わりしていて、以前のあの、こちらのどんより曇った心を優しい光で塗り替えていくような、人懐こくて尊い笑顔はすっかり消え落ちていた。それは抜け殻だった。内外からのあらゆる感情に疲れ果て、すべてを諦めた人の顔だった。絶望と虚無に塗りたくられた顔だった。「チャンス君、どうしたんだい?」変わり果てたチャンス君に、私はたまらず声をかけた。数年前、モラトリアム