マガジンのカバー画像

俳句・短歌など

18
運営しているクリエイター

記事一覧

二十句「Tapirus paradoxus」

「Tapirus paradoxus」

ゆきを鳴らす竹林の永い耳

楽譜にて迷うばくにて繁茂する

ecritsとはばくを纏った愚鈍だらう

半目してばく透おると、と、共に雪は成る

ともあれ花疲れにもばくが来る

旅人に究す朔日のとらんぺっと

旅人や無地の時間を来て帰る

無視したやみの目の端で思い出すヘヴン

走るにたた立つてもう昔の竹林

(ばくは巧妙で重い)
決断をはみだす脳をばくが奪

もっとみる

十首「Metarain」

「Metarain」

その部屋には死角がなく遠雷の幽霊がたくさん訪れる

一滴の光にかわく図書館の休日を蜜蜂が解いた

抱きしめれば確率で雷の場所がわかりその地図は大きい

森のむこうの窓の外で雪が降る左利きの雪だ、と思う

眠りがキリンを忘れていたらキリンの夢は見られることなくそれは恐ろしい

海岸 いくつもの進化を養った絶滅にグミが入ってなくてよかったあ

いくつかの感情を書き分けてみて筆跡

もっとみる

二十句「Ornithorhynchus paradoxus」

「Ornithorhynchus paradoxus」

蜂を溶かすかみなりの薄い舌

やがてに、に、似るリボンが不思議な水

海市や量子を通るかものはし

原理的にかものはしが虹の中央にいる

かものはしのゆめに渡る電撃と明晰

古びればかものはしか平仮名かわからない

宇宙服かものはしの目に切株ふえる

口語であればかものはしに蜂が湿る

(かものはしはたしか左利きだった)
雪宛てに文字の書け

もっとみる

百句:第六回芝不器男俳句新人賞城戸朱里奨励賞受賞作品

「Prometheus」

火を消して一身体の一世界
眼奥の昏きを隔ち羽音くる
優曇華の忘れを不二の辻に置く
夜藍の大花野より魔女二人
海百合の頸吊の木のえくれえる
唯一のこの青空やKARASHINAや
盲目の馬の進むや大枯野
くちなわの口より双の犬生れる
霞より出でる腕に鹿滅ぶ
神でないものが祈りを聞きにけり
遠雷や時間に棲まる雀蜂
接続に無があれば飛ぶ垂直の鳥
表象の眠りどこまでも象の皮膚

もっとみる

二十首「遠くの風」

「遠くの風」

「水きらい」っていうきみの夢の手のひらに金平糖がころがる

ごめんなさい、恐竜の日だから意味のないことも言います笑って聞いて

恋人はぷかぷぱねむり網戸から落ちてきている夏の目覚めが

きいて・きみに・あうひ・こんな・ふうに・りぼん・うまれ・じゃんぷ

ゆれる・たんぽ・ぽから・はしる・りずむ・とんで・ぽかり・ぷはあ

さくら・しべは・ふるる・るるる・おちる・までの・そらが・いたい

もっとみる

十五首「腐敗はそれから」

「腐敗はそれから」

眠くなるだけでも音楽は聞かれていてそんな春を拒否する

餃子定食のお店で待ってグミなら一個あげるのにって言う

イルカ(たぶん)が生ごみ入れでジャンプしてももの名まえ ひかって

ずれた音楽が耳から指へ指からまぶたへ暗ひ陽だまり

丁寧じゃなくててーねい想像のたねを取ってスプーンで刺す

春から春を引くシンクの光。大好きなドーナツがねばつく

「空きびんにひつじが住みついて嘘

もっとみる

七首:過去作

降雪とともに天使は受肉する約束のこと光と呼ばず

天使の手から溢れゆく白桃は光らせている夜のすべてを

この夜をたどっていけばうみにつく魔女のかみさま傷がたりない

憐憫の速度を降る結晶の天使の伝う末期の真白

尖塔のいと高きに立ち陽喰って惑星の乙女に眼よ開け

天蓋を充満させよ薄き翅泉に祈る白き乙女の

純白の死
夜闇すら

遅延
  して
薄   れ
透明
に    なる
    ぼくらは

十首「神代から」

「神代から」

精神Geistの外の犬戎の沛艾の嗎の震えに風をはじめる

静かなる水に蛇巫の刺青の真円歪む正しき正午

絶滅の真神の聲を過ぎ昇りつづける風よあれがメトシェラ

千年の詩の傾きは一塊の大地と結び到来の地図

田園の「塔」と呼ばれるそれが、ただくだけていた くだけていた

冬の門とおりてEuclaceの城へその愛しかたで愛するとき

肋骨をひらきとりだす星々は星座にならずみずうみの霧

もっとみる

五首:雑詠

討て、討て、討て天使を!七月の肉に半月蝕を棲まわせ

羽根を不要とするとき肉は真円に隣接するだろう

鳥が留まる 犀が歩く 快楽の絶滅に詩を書きこめ

速くはない生き物とその舌にいくつも切株をつくろう

天使に安らぐ詩を雀蜂が刺し、開かれたままのシオランとその天球

六句:過去作

外在する(遠雷、ヴードゥーの蜂は這い回る<色>)自我

凍てる大河にタカダーヴィチ・ゴクシャノフの夜が昇る

夜汽車やソルボンヌに昇る歌劇のsūtra

芸術論の出来をアウシュヴィッツの林檎が隔つ

沛艾のイコンや閉鎖病棟に蟲の遊泳

光線消失火に向う老犬が非時の躍動へ帰る

五十句「終焉する歴史、無限」

「終焉する歴史、無限」

火を消して一身体の一世界

接続に無があれば飛ぶ垂直の鳥

表象の眠りどこまでも象の皮膚

羆立つその絶頂の銀の夜

だしぬけにいる蜥蜴だしぬけに死ぬ

速度より駿馬の産まれ青嵐

名なき犬幸福として野分立つ

ここに茸あそこに茸のくらい夢

梟の調停ガラスの森を呼ぶ

白鳥の啓く光球に眼玉がある

沛艾や時の昇りを堕としゆく

不可解な低さを兎どこまでが春

物質の起源

もっとみる

野村日魚子「夜はともだちビスケット?」:夜と群像劇

 夜、眠れなくなることがある。
 そもそも寝つきが人より悪いし、身体をよく動かすわけでもないから眠れないのはよくあることだ。
 なかでも目が冴えて仕方がないときは、ベッドから起き上がり上着をはおって外にでる。夜を歩きまわる。
 夜はいろいろなものとすれ違う。それは仕事を遅くに終えたサラリーマンだったり、これから出勤するかわいい女の子だったり、犬だったり、同じくただ散歩しているだけのひとだったり、た

もっとみる

八首「魔女とみずいろ」

みずいろのまぶたの少女を詩と呼んでここから夏の始まりであれ

その青きネイルに触れらるる氷にも通わぬか青き電流

海色の匣が喉の奥にありまなざされては燃えているのだ

底のない夏にいるんださみどりの夜のひかりが絡まる道で

はつなつの真珠のように呼びかけて光降らせる夜の海岸

鱗をいろくずと読み、お互いがいつか彩屑になる日の話

もう生まれ変われませんね 魔女のあらゆる純粋に鴎来るよう

みずいろ

もっとみる

俳句・短歌の覚書

 好きな俳句や短歌について思ったことを書いていきます。
※作品/作者名『出典』

✳︎

身ぬちにて昏くさゆらぐ月のみづうみ言の葉をまだ知らぬさいわひ/笹原玉子『偶然、この官能的な』

 何かを名付けるとき、私たちは「それ」と「それ以外」の間に境界線を引く。「それ」を規定するとき、「それ以外」はまさにこの「以外」という言葉が表すように、否定される(スピノザはこのような事態を「規定は否定である」とい

もっとみる