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私の夢は、彼の夢を妨げているのかもしれない

「転職すればいいじゃん」

毎日のように仕事を辞めたいとぼやく彼に、私は軽い気持ちで言う。

彼の仕事はシステムエンジニアだから、業界的に需要が高い。転職エージェントサービスも豊富にあるし、なんだったらフリーランスにもなりやすい。

だから、転職すればいいじゃん。

ほんとうに軽い気持ちで、当たり前のように伝えていた。

彼がどんな仕事をしていきたいかなんてちっとも知らずに。


彼の夢と仕事

彼の夢はシステムエンジニアとして大成することではなかった。

彼と付き合ってはや9年、長い年月の中で「夢」について語り合ったことがないわけではなかったけれど、本気にして聞いたことはなかったかもしれない。

私は、不真面目に聞いていたつもりはない。ただ、夢というより絵空事というか、「ゆくゆく将来できたらいいな」レベルの人生観の話だと思っていた。勝手にそう思っていた。

最近また、居酒屋で飲んでいるときにポロッと夢について彼は語った。

彼の夢は、子どもや心の病で生きにくい人たちを支援することだ。人として大変立派な夢だと思う。

支援、といってもいろんなやり方があるが、彼の場合は医療や教育の面からというより、世の中の仕組みづくりや就労支援に興味があるそうだ。

なんなら、それで起業してもいいと考えているそう。これまた気軽に「じゃあ土日にボランティアでもしてみたら?」とか言った私はお門違いであった。

「ビジネスとして興味があって、そういう業界に進んでみたい。」そんな気持ちがあるから、「今の仕事が嫌なら同業界に転職すればいい」なんていう簡単な話ではなかったんだ。


足かせの私

はっきりそう言われたわけじゃない。

でも、居酒屋で話したあの日、「でも、azumiがこういうタイミングだし……」と彼はこぼした。

そう、何を隠そう私にも「専業ライターとして独立したい」という夢があり、すでにそれに向けて動きはじめている。

彼と私は結婚しているわけではないので、他人だといえば他人だ。でも、一緒に住んでいるので完全なる赤の他人とも言えない。家計のお財布もほぼ一緒になってきた。

同居人の私が、フリーランスになるかもしれない。そんなタイミングに、異業種への転職や起業はしにくい。

ごもっともだ。彼は生活のバランスを考えて、冷静に自分の夢をストップさせていた。


足かせができること

こんなnoteを書いていながら、思いついていない。

フリーランスでいっぱい稼いで家計を支えること?

もっと彼の夢に興味を持って、引き出すこと?

「転職すれば?」なんて軽く言わないこと?

よく分からない。何をすれば彼のためになるか。

そして、夢を実現させる実行力や運が、彼にどれだけあるのかも分からない。

分かっているのは、とりあえず今後もずっと一緒に生きていくんだろうなということだけ。必死に側で、生きて、働いていくことしかできない……のかな。



うーん、パートナーがいるから、子どもがいるから、親の介護が必要だから……いろんな理由で彼のように「夢」を閉じ込めている人、たくさんいるんだろうなと書いていて思いました。

閉じ込めている側の、原因である私は、どうすればいいですか?

稼ぎが不安定なパートナーは、育ててもらってる子どもは、介護してもらう親は、どうすればいいんでしょうか?

なにをしてあげられるんでしょうか。夢の順番が来るのを待ってもらうしかないんでしょうか。

まだうまく言葉にできないけれど、いつもより心なしか小さな声で話す彼の「夢」の話を、正面から目を見て聞こうと思うのでした。

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