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[小説]夏の犬たち

13
全13回。頭を洗わない女子大学生のよもぎは今日も男の体を眺めていた。
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2023年2月の記事一覧

[小説]夏の犬たち(13/13)– 野良のけものたち

[小説]夏の犬たち(13/13)– 野良のけものたち

<第一話
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 ビルボが逃げてしまった翌日、君が熱で寝込んでいる間に僕は一人でビルボを探していた。普段散歩していた林道や遊歩道だけでなく、人が入るのを禁じられているような山裾の林の奥にまで足を踏み入れた。間伐もあまりされていないような鬱蒼とした木々の間でコンパスを頼りに何時間さまよっていただろう。
 小さな鳴き声が聞こえて、そこに向かうと赤黒い血にまみれてうずくまるビルボの姿があった。近づ

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[小説]夏の犬たち(12/13)– 手紙

[小説]夏の犬たち(12/13)– 手紙

<第一話
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 二月以上は空けていた自分の部屋は、由莉のマンションと比べて狭苦しいのにもかかわらず、がらんとして感じられた。買ったものを食べて昼寝をしようと横になると、頭がむずむずして寝られないのだった。由莉につけられた香水の香りはとうに消え、ベタベタと脂ぎる頭皮のにおいが気になる。毎日洗髪してたから、頭の汚れに敏感になっている。それを認めたよもぎは、なんだか自分に裏切られたように思った。

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[小説]夏の犬たち(11/13)– 身代わり

[小説]夏の犬たち(11/13)– 身代わり

<第一話
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 九月になる。大学の夏休みも、うだる暑さもまだ続いている。由莉は修道女のような厳格さで、よもぎを矯正し続ける。軽蔑をにじませながら細い顎を上げ、なにかを迷いなく命じるときの、若さに似合わない居丈高は由莉の美しさを輝かせた。
 よもぎのゆるんだ体の線は徐々に引き締まり、黒ずんで粉を吹いていた膝は柔らかな薔薇色になる。仕上げが近づく。
 美容院に連れていかれ、伸ばしっぱなしの髪に

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[小説]夏の犬たち(10/13)– 私はあんたの犬

[小説]夏の犬たち(10/13)– 私はあんたの犬

<第一話
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「夕飯なら冷蔵庫にあるから温めて食べてね」
 そう言い残して、由莉が出掛けていった。夕方の時間だった。
 一人になると、よもぎは持て余した。人ひとりの身には余る空間を、のっそりと首をもたげる性欲を。
 夏休みはまだ続いていた。不必要なほどに長かった。冷房をつけていてもソファに転がった体には熱がこもり、一層悶々としてくる。大学が恋しい。そう思った。キャンパスや教室ですれ違うさま

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[小説]夏の犬たち(9/13)– ペンギン

[小説]夏の犬たち(9/13)– ペンギン

<第一話
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 満腹になっていたから、由莉の長い話の間、よもぎは何度か眠りかけた。椅子の上で三角座りしていた足はだんだんと下に落ち、つま先が床の冷たいポタージュに触れるたび、びくりと体を震わせて目を覚ました。
 半分まどろみながらも、話のおおよそのところはつかんでいた。それは集落の秀才のなせる技だった。よもぎは重たいまぶたの据わった目で由莉を見た。
 くだらない話をよくもまあこんなに長々と

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[小説]夏の犬たち(8/13)– 泥だらけの犬

[小説]夏の犬たち(8/13)– 泥だらけの犬

<第一話
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 ミズナラから数メートルも離れていないところに犬は見つかった。腐りかけた切り株のそばにいたそれは真っ黒な宝石みたいな目を潤ませて、小さな体を泥に汚して小刻みに震えてた。
 恩の別荘の浴室で温かいシャワーで洗ってやって、こびりついた泥を落としてやると、それは灰色の小型のテリアだとわかったの。小さいから仔犬だと思ってたけど、ある程度のしつけはされてたから若い成犬だったかもしれない

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[小説]夏の犬たち(7/13)– 思い出

[小説]夏の犬たち(7/13)– 思い出

<第一話
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 子どもの頃、毎年夏になると家族で長野の別荘に行って過ごしてたの。母方の祖父が持っていたもので、おじいちゃまの別荘って呼んでたけど、祖父はもう亡くなっていたから、私たち家族で好きに使ってたのね。
 別荘なんていっても子どもにとっては全然楽しいものじゃなくて、近くにコンビニもないから夜は暗いし、山の麓だから自販機にぎょっとするほどの大きさの蛾は張りついてるし、なにより周りに同じ

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