【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】胃痛と鍼灸
“キリキリ”、“シクシク”、“キューッ” 繰り返し、わたしのお腹を襲ってくるこの痛みの原因はなんだろう??
はぁーーーーーーーっ、ため息が出ちゃう、恐怖心で食事も喉を通らない、なんとかならないかなぁ・・・。
日常生活における“食”は、もはや身体に必要な栄養をとるというだけでなく、人と楽しく交流するなど、幸せを感じる一つの瞬間にもなっています。
そんな大切な時に胃の痛みを感じることから食欲がなくなってしまう。
本当にため息が聞こえてきそうですネ・・・。
今回は、このようなつらい悩み『胃痛』について、どうしておこるのか、症状ごとのタイプや原因、治療方法についてみていきましょう!
なお、最後の章では、実際に鍼灸治療によるアプローチで『胃痛』の症状が解消した症例をひとつご紹介していきます。
1.胃痛とは
胃痛とは、一般的にはみぞおちから腹部のあたりに現れる痛みのことをいいます。
胃の部分の痛みのことではありますが、痛む場所や痛み方など、その表現方法は人により実に様々です。
また、その原因も、胃酸の過剰な分泌や細菌などによるもの、胃の機能が一時的に低下することでおこるもの、何も原因となるような異常が見つからないが痛みがおこるものなど、多岐にわたります。
2.症状
胃痛の症状の代表的な表現方法としては、
・シクシクとして、鈍い痛みがする。
・キリキリとして、差し込むような鋭い痛みがする。
・ズキズキとして、胃の部分が脈打つように痛む。
・キューッと締め付けられるように痛む。
・腹がパーン張った感じがして苦しく痛い。
・胃の中がどんよりして、食べた物が残っているように重だるく痛い。
などがあります。
また、痛みを感じる場所も、
・みぞおち付近
・みぞおちと臍の間
・臍近く
・脇腹に近い部分
・食道に近い胸のあたり
など様々です。
3.胃のしくみ
胃とは、みぞおちのあたりに位置している筋肉でできている袋状の臓器で、非常に膨張性に富み伸び縮みをすることができます。
胃はその役割は、口から摂取した食べ物を一時的に蓄えて、栄養として吸収しやすい状態まで細かくすることです。
胃の正常な働きとしては、
・蠕動運動というリズミカルな動きにより、食物と胃液(胃酸や酵素)を混ぜ合わせて、吸収しやすい粥状にして十二指腸に運ぶ。
・食物を消化するために胃酸を分泌する。
・胃酸から胃そのものを守るために胃粘膜から粘液を分泌する。
さて、ここで一つクイズです!!
胃は膨張性のある臓器であることは既にご紹介をしましたが、実際の胃の容量がどのくらいあるか、知っていますか???
答えは、
何も入っていない時には、わずか50mLの容量しかありませんが、たくさんの食べ物や飲み物が入り、最大限に膨張すると、成人では2Lの飲食物を詰め込むことができるといわれています。
なんと、コップ1/4杯程度から大きなペットボトルの大きさまで収縮することができるというのが、正解です!!
もちろん、このサイズには個人差がありますので、人体の解剖学的な不思議として今回はご紹介をしました。
また、胃がいくら大きく膨らむからといって、お腹がはちきれそうになるまでの食べ過ぎは胃腸への負担がかかりすぎますのでご注意下さいネ。
4.胃痛の原因
では、胃痛はいったいどのようにしておこるのでしょうか。
4−1.器質的疾患によるもの
先にご紹介をした、胃のしくみに何らかの異常がおこり、胃の運動がうまく行われなくなったり、胃液の分泌がわるくなったり、粘液の分泌がされにくくなったりすることで、胃の痛みを感じるようになります。
代表的なものとしては、食生活の乱れや細菌ウィルス感染による急性胃腸、胃粘膜の炎症が慢性化することによる慢性胃腸炎や胃潰瘍、細菌感染によりひきおこされる食中毒などがあります。
そのほか、胃食道逆流症(GERD)や逆流性食道炎なども、胃痛をひきおこす代表的な疾患とされています。
4−2.器質的疾患がみつからないもの
胃痛の症状があるにもかかわらず、検査をしてみても原因となるべき身体の異常がなく、精神的肉体的なストレスなどがきっかけで胃痛の症状をひきおこすもの一つとして、機能性ディスペプシア(FD)があります。
機能性ディスペプシアとは、症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患と定義されています。
また、この疾患の原因は、胃の運動機能の異常や、内臓の知覚過敏、ストレスなどの自律神経・社会心理因子などが複合的に関係しているのではないかと考えられていますが、実際にははっきりとわかっていないようです。
5.現代医学によるアプローチ
現代医学(西洋医学)では、胃痛の原因を調べるために、一般的に血液検査、胃の造影検査、胃カメラ(内視鏡)検査などが行われます。
その結果、胃痛の症状をひきおこす原因疾患がみつかった場合には、個々の病気に対する治療が行われ、投薬が行われます。
また、器質的な疾患がみつからないが症状があり、精神的な事柄が理由となっていると診断される場合には、胃痛の症状を抑える薬のほかに抗うつ薬や気持ちを安定される抗不安薬などが処方されることもあるようです。
6.鍼灸によるアプローチ
「胃痛は鍼灸で治療できるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、胃痛の症状も鍼灸によるアプローチが対応可能な症状の一つです。
その効果は、世界保健機関(WHO)も認めています。
参考リンク:公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会
一般的な投薬治療では、胃痛のつらい症状を飲み薬により抑えます。
投薬による治療を受けている方の中には、『胃痛で食事量が減ってきてしまい体重が減ってきているので不安がある』『薬が効かなくなってきたように感じる』『服薬をすることで胃粘膜が荒れてしまい、さらに胃痛が悪化してしまったため、薬を飲むことができない』『なんども症状を繰り返しているので、対処療法ではなく根本から治したい』と考えていらっしゃる方も多いかもしれません。
一方、鍼灸による胃痛の治し方は「症状が起こっている根本の原因」をみつけだし、それを正すことによって、胃痛の症状を取り除くとともに、胃痛がおきにくい身体づくりをしていきます。
東洋医学的には、「季候、食事、疲労、ストレスなど、何らかの原因で胃の働きに変調をきたし、胃痛を発症をする」と考え治療にあたります。
7.東洋医学における胃痛とは
では次に、胃痛の東洋医学的分類について、痛みの種類別に、どうして痛みがおこっているのか、その原因を探っていくことにします。
なお、東洋医学において診断を行う上で、痛みの種類というのは診断の参考情報にはなりえますが、正確な診断を行うためには、他にも様々な問診情報も合わせて総合的に診ていくことが必要となります。
7−1.寒気を伴い、突然激しく痛む(寒邪犯胃)
冬場の寒い外気にさらされたり、エアコンの冷気にあたりすぎると、体の皮膚表面から冷えが入りこみ、その冷えがさらに身体の内側の奥のほうに入りこんでいきます。
東洋医学において、心身ともに健康な状態は、身体の中を気血水(エネルギー・血液・水分)が滞ることなくめぐって、外から冷えが入ってきても、自分自身の力で柔軟に対応をして体内への侵入を防ぐことができます。これが、いわゆる自己免疫力ですね。
しかし、気血水が停滞して循環が滞った状態になると、その柔軟な対応が充分に働きにくくなり、冷えが身体の中のほうまで侵入してきてしまうことになります。
冷えは、体内の循環をさらに停滞させて、胃の正常な動きを妨げることから、寒気をともなう激しい胃の痛みをひきおこします。
また、気温・天候の変化だけでなく、生ものや冷たいものを食べ過ぎて、胃が直接冷やされることでも同様の症状を引き起こすことがあります。
このタイプの特徴としては、ゾクゾクっとした寒気の後に、突発的に締め付けるような強い胃痛がします。
また、胃の部分はなんとなく冷たい感じがして、痛みは暖めることで楽になり、口はあまり乾かず、暖かいものを好んで飲みたがるといった傾向が多くみられます。
7−2.みぞおちからお臍の間の部分に張った感じの痛みがする(飲食傷胃)
暴飲暴食の繰り返し・食生活の乱れにより、よくおこる胃痛の症状です。
例えば、
・満腹になるまでの食べ過ぎ
・極度なダイエットによる絶食
・刺激の強い食べ物(辛い物、生もの、脂っこい物など)の食べ過ぎ
・アルコール類の飲みすぎ
・食べ物を十分に噛まずに短時間で食事をすます
など、どこかに心当たりはありませんか??
こういった、食生活の乱れが繰り返されることで、胃腸へのダメージが積み重なり、胃の動きが悪くなって食べたものが胃の中に停滞しやすくなることから、腹部の膨満感をともなった胃痛がおこります。
このタイプの特徴として、暴飲暴食の歴があり、食べたくない、匂いがきつめのゲップが増える、すっきりと排便できない、といった症状があります。
7−3.みぞおちがつっかえて張った感じの痛みがする(肝気犯胃)
仕事・学校・人間関係など、様々なストレスをきっかけとした胃の痛みがおこりやすい場合には、こういった胃痛の症状がよくおきます。
精神的なストレスは身体を過度に緊張させて体内の循環停滞をひきおこし、胃の正常な動きが妨げることから、みぞおちにつっかえと張った感じがする症状がおこります。
なお、精神的なストレスによる胃痛の特徴としては、脇腹の張った感じを伴う、みぞおちにつっかえや張った感じとともに匂いの少ないゲップが出やすくなる、便秘をしやすくなる、などの症状を伴うことがあります。
7−4.みぞおちに熱さを伴った急な痛みがする(肝胃鬱熱)
精神的ストレスによる胃痛が長期化することから、時に、みぞおちに灼熱感(焼けるような熱さ)を伴った痛みが出現するようになることがあります。
先にご紹介をしたとおり、体の過緊張状態は胃の正常な動きを妨げますが、動きの悪い状態になった胃は、それでも口から入ってきた食べ物を消化するために無理やりに動こうとします。
このような心身ともに負荷のかかった状態は、いわゆるオーバーヒートした状態であり、これが長く続くと体内で余分な熱が発生しやすくなります。
こうした熱は、ちょうど胃のあたりの灼熱感となって現れるだけでなく、動きの悪くなった胃が、胃の内容物を胃酸とともに上に押し上げてきます。
そのため、口の中に酸っぱさを感じたり、みぞおちに熱さを伴った急な痛みの症状のほかに胸やけの症状が出るようになります。
このタイプの特徴としては、わけも無くイライラしてあとで落ち込むことが増えたり、口が乾燥して苦い、目が充血して疲れやすい、といった症状を伴うことがあります。
7−5.みぞおちの針で刺すようなキリキリとした痛みがする(瘀血停滞)
精神的なストレス等による身体の循環停滞が長引くと、体内の血流が悪くなり、血液の老廃物が蓄積しやすくなります。
その老廃物が身体の様々な場所で血流のよどみ・滞りを発生させ、痛みの症状をひきおこします。
このような血流のよどみ・滞りが胃の付近を中心としておこることから、みぞおちを押すと不快感が出たり、針で刺すような痛みが出ます。
このタイプの特徴として、痛む場所がいつも変わらない、食後に傷みが増強する、黒色した便が排出される、などの症状を伴うことがあります。
7−6.胃の部分が慢性的にシクシクと痛む(胃陰虧虚)
『みぞおちに熱さを伴った急な痛みがする』症状についての説明の中で、熱が発生するという、体の仕組みについて説明をしました。
さらに胃痛の症状が長期化したり、症状の再発を繰り返して慢性化してしまうと、この熱も発生し続けることになります。
そうすると、やがては、胃がそのうるおい成分をどんどんと失い乾いていくことから、胃の動きが一層悪くなって、シクシクとした痛みが出るようになります。
このタイプの特徴として、口や喉がかわきやすい、大便が固く乾燥するようになる、手のひら足の裏がほてる感じがする、などの症状を伴うことがあります。
7−7.空腹時にシクシクとした鈍い痛みが続く(脾胃虚寒)
過労による体力の低下や虚弱体質などが原因で内臓が弱ってしまうと、自分自身の力で身体を温める作用が低下します。
そして、内臓の冷えから胃の動きが妨げられて、空腹時にシクシクとした鈍い痛みを感じるようになります。
このタイプの特徴としては、食欲不振、食べる量が少ない、体力が低下して手足にだるさや冷えを感じやすい、内臓自体が冷えていることから患部を暖めたり、患部に手をあてたりすることで痛みがやわらぐ、といったことがあります。
また、食べ物が入ることでも内臓が直接温まることから、食後には胃痛の症状が和らぐことが多いようです。
排泄物である大便の状態は、食べ物の消化吸収がうまく行われないことにより、軟便もしくは泥状になったりします。
8.鍼灸治療で胃痛が改善した症例
次に、鍼灸治療で胃痛が改善した症例をご紹介したいと思います。
一度の施術で使うツボは1つで、施術時間は休憩含めて1時間程度です。
なお、鍼をする前には、予め、詳しく問診をする必要があり、胃痛の症状だけでなく、他にもある様々な身体の症状(随伴症状といいます)、その人の体質や体格、その時の体調、施術をする時の季節、天気なども考慮する必要があります。
その上で、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたより、身体の緊張、手足ツボの反応など)から、トータル的にみて、最も原因にふさわしいツボを選び鍼灸の施術をします。
そのため、胃痛の症状や原因が同じでも、その時々で使用するツボも変えることが必要となります。
【患者】40代女性、身長170cm、体重73kg。
【初診】20XX年7月X日
【主訴】胃痛
【問診】
夏休み、二泊三日の国内旅行に出かけ際に、調子にのってしまい、友人らと暴飲暴食を繰り返した。
旅行中の夕食後には腹痛をともなう下痢をしていたが、単なる食べ過ぎによるものだろうと思い、下痢後は体調も戻ったため、その時は特に心配はしていなかった。
旅行から帰宅をした頃から、胃がなんとなく重い感じがして食欲が減退した。
しばらくすると、胃の部分に張った感じのする痛みを感じるようになり、深刻な病気ではないかと心配になってきた。
その後、内科を受診し胃カメラ検査をするが、特に異常はみつからなかったが、症状が消えないことから、さらに心配になり悩み続け、食事量が7割減ってしまい、体重が10キロ近く落ちてしまったことから、家族も心配をするようになった。
このままでは、体力がなくなって仕事もできなくなってしまうかもしれないと怖くなってきため、インターネットで治療方法を探し、鍼灸での治療を試してみたいと来院をした。
【初診時の症状】
・一日中をとおして腹部の膨満感がある。
・空腹時より食後のほうが膨満感が悪化する。
胃痛の症状が出るようになってから
・匂いが気にならないゲップがでる。
・便はすっきりと出ない。
の症状が気になるようになった。
【特記事項】
・幼少期、学童期にも胃腸が弱く、よくお腹をこわして食べ過ぎから下痢をすることがあった。
・社会人になったころから、便が軟らかくなった。
【診断と治療方針】
旅行をきっかけに暴飲暴食を繰り返して胃の働きが低下し、腹部の膨満感を伴う胃痛を発症した。
その後、症状に対する精神的なストレスが積み重なることで、身体が過緊張状態となり体内循環が停滞し、胃の動きが妨げられて、食欲低下と腹部膨満感の慢性化をひきおこした。
また、幼少期からお腹をこわすことが多かったことから、体質的な胃腸の弱さがある可能性もある。
以上より、飲食の乱れをきっかけとする食滞による胃痛がきっかけとなり、その後に体内循環の停滞により胃の動きの悪さが慢性化して、胃痛を発症したと判断。
従って、身体の緊張を緩めることを中心にした処置を行う。
【日常生活での注意点】
・適度に運動する。
・食欲がない時は無理に食べない。
・調子がいい時には食べ過ぎないようにする。
【経過】
初診 腹部の張りが少し減少する。
2診〜10診 徐々に胃痛の症状が軽減してきており、食欲も戻ってきたが、食欲が出てきたために、ついたくさん食べすぎてしまい、その後に腹の張った感じがでて調子が悪くなることもあった。
11診〜 さらに症状の安定をはかり、胃痛のおこらない身体づくりをして、おいしくご飯を食べることができるようになりたいとのことから、引き続き治療を継続中。
9.まとめ
今回は胃痛について、症状ごとのタイプや原因、治療方法について解説をしました。
東洋医学においても、胃痛に対する治療が可能なことはご理解いただけたでしょうか。
今回はここまでとなります。最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
それでは、鍼灸でからだも心も元気になりましょう!
鍼灸 あやかざり
千葉駅5分 完全予約制 女性と子ども専門の鍼灸治療院
千葉県 千葉市中央区新町1−6 ラポール千葉新町202
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