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友情の青春に灯る謎と功罪――米澤穂信『本と鍵の季節』

 暇を持て余す図書委員二人の解き明かす、功罪潜む日常の謎――。
 男子高校生二人の友情、そして日常と学園に埋まる青春と謎の繊細な陰影に、痛みと切なさを覚えながらもありしいつかを追想させられます。



最初に


 著者の米澤穂信先生と言えば日常の謎というジャンルの推理小説の名手として知られています。代表的なものを挙げると、京都アニメーションにより映像化もされた『氷菓』の物語群、〈古典部シリーズ〉のような作品などががありますね。ふとした日常に潜むちょっとした謎を、これまた普通の延長線にいる(少なくとも探偵や刑事ではない人間)が解き明かす、というものです。
 米澤さんは、そうしたミステリーを青春小説のテイストと絡めて物語を編むことが多い作家さんです。

 また、私の大好きな作家さんでもあります。Twitterの自己紹介に例示する程度には、特別なお方です。
 思春期といいますか、子供と大人の間を彷徨う青春の頃にいる人間の機微の書き方が繊細で、清冽で、鮮烈で……。
 その端正な筆致に、とても真に迫るものがあるのです。

 この『本と鍵の季節』は、そうした特徴が存分に出たものになります。

あらすじと登場人物


 人当たりが良く、なにかと頼まれごとをされがちな語り手・堀川次郎
 快活ながらも大人びた皮肉屋、しかしどこかお人好しな高校生・松倉 詩門
 四月に知り合ってからなにかと馬が合い仲の良い彼らは、あることを切っ掛けに次々と〈謎〉に直面していくことになります。

 六月のある日。
 かつて図書室を遊び場にしていた三年生も引退し、いつかの静かな空間に戻ったその場所で、堀川と松倉は当番の仕事をこなしていました。
 他愛無い話をしながら手を動かしていると、引退した先輩の一人、浦上麻里がやってきます。
 二人にいい話があると言うのです。

 「死んだ祖父の金庫を開けてほしい」

 凝り性だったという、今年に亡くなった彼女の祖父。
 そんな彼は解き方と中身を秘密にし「大人になったら分かる」と言い残し、彼女に書斎の金庫を遺したそうでした。
 松倉はなぜ自分たちに頼むのかと訝しみますが、しかし二人が以前他の図書委員の持ち込んだ暗号を解いたからと説明されます。

 松倉の制止はありつつも結局堀川は浦上先輩の口車に乗せられ、乗り気ではないものの松倉も付き合うことになりました。

 しかし、実際に現場に訪れると奇妙なことの連続で――。

 ――と、この事件を皮切りに、二人は友好を深め、日常と学園に埋まる謎の数々と向き合うことになるのです。

 人、心、青春、友情

 これはそうしたものに光をあて、同時に影を差す、そんなお話です。 


魅力――友情と青春の機微


 堀川と松倉はいつも一緒にいるような友人関係ではなく、委員会の仕事で顔を合わせる程度の間柄でしたが、いくつかの謎解きを通してお互いを認め合い、信頼し合うようになります。
 ですがそんな事をはっきりとは言えない、青春を過ごすティーンにありがちな照れ臭さや距離感のようなものが随所に感じられ、描かれた細やかな機微に感嘆させられるのです。端的に言って心に刺さります。

 ――あぁ、いつかあったかもな、と。あるいはあるかもしれないな、と。

 そんなふうに。

 この話は男の子の話ですが、老若男女問わず「己にはありもしない、ありえない過去」を懐かしませるような、そんな筆の魔力があるのです。……言いすぎかな……?

 そして最大の魅力はなんといっても結末への一連の流れ。
 構成と伏線の妙です。

 「青春小説」としてちりばめられた彼らの失敗、過去、心の在り方、態度が複雑に絡まって、どこまでも苦味は残しつつもこの上なく深い味わいをもたらしてくれます。

 これはぜひ――本書を読み、お楽しみ下さい。
 なんと言ってもミステリーですから、迂闊に内容を言えませんので……笑


感想――掛け合いのやたらな知的さ


 時折突っ込まれすらする「男子高校生はこんなに知的な(あるいはウィットに富んだ)会話をしないよ」という彼らの掛け合い、確かになかなかありえず、一種憧れすら浮かぶものです……笑
 例はいくつも思い浮かびますが、ぱっと思いつくもので言えば

(紹介割引を利用するために二人が嫌々連れ立って美容院に行く場面)
「堀川。髪は俺達の体内で生成されるもので、放っておいても伸びる」
「僕のじいさんの場合は伸びない」
「俺の母方のじいさんもそうだな。父方のおじもそうだ。……なあ堀川。遺伝すると思うか?」
「深刻な問題だな。だけど話を戻そうぜ」
「逸らしたのはお前だ」
「責任を痛感してる。それで?」
(以後、真面目くさって松倉は男二人で美容院に行くことの正統性や示したり、虚しさを軽減しようとする例えを続ける)


 ……うーん、この実に馬鹿馬鹿しく、しかし行間の多いウィットな会話。知的さの無駄遣い……。
 こんな仕掛けの多い馬鹿げた掛け合いや会話、応酬が随所に盛りこまれているのもまた、この物語の魅力だと思います。……本筋ではありませんが、しかし大切な青春小説の色を強める要素ではないのでしょうか。


最後に


 少しずつ深まる二人の友情と、少しずつ明かされる彼らの事情。
 ――正しさと、心と。
 手探りで道を歩く彼らの、変わらない友情を願う物語。
 陰影豊かな青春と謎を追うお話を求めるならば、ぜひお読みください。
 

 ……ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

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