VUCA時代のコーチング勉強法 -オランダ在住コーチが教える、好きな場所で心地よく生きていくコーチになる方法-
最近、コーチングを学んでいる方からコーチングの上達法やプロのコーチになるにはどうしたらいいかご相談をいただくようになりました。
コーチングに活用される理論や手法はどんどんと進化していますし、コーチングを学べるスクールや講座も増えています。
そんな中でこれからの時代に、好きな場所で心地よく生きていけるコーチになるためにおすすめの、コーチングのスキルアップの方法をご紹介します。
*コーチ以外の職業の方は「コーチ」というところをあなたのお仕事に置き換えて読み進めてみてください。
*記載内容は執筆当時のものです。経験年数やライフスタイル等、現在は変化しております。最新の様子や考えは最新の記事をご覧ください。
1. 企業所属コーチからフリーランス、海外へ(自己紹介)
まずは簡単に私の自己紹介をしておきます。
私は現在、オランダのハーグという街に住んでいます。
コーチ・エィというコーチングファームでビジネスコーチとして組織開発やリーダー育成に携わった後、フリーランスになりました。
その後、欧州に渡り、オランダで個人事業主のビザを取得。
今は日本や他の国に在住の日本人向けのコーチングセッションを提供するとともに、クライアント/コーチという関係性ではないあらたな対話のあり方や対話のための言葉を探究しています。
コーチングセッションは、主に自分で運営するサイトからお問い合わせをいただいた方とご紹介いただいた方に提供しています。
*現在は新規クライアント募集は一時中止をしています。2022年6月以降、お申し込み受付再開の見込みですが、未定です。
日本に行ったときに直接打ち合わせを行うこともありますが、基本的には全てオンラインで仕事をしています。
初めにコーチングを学んだのはCTP(現コーチ・エィ アカデミア)ですが、その後、CTIでも学びを深めるとともに、心理学をはじめとした様々な理論を学び実践してきました。
オランダは日本から-8時間(サマータイム時は-7時間)の時差があるため、普段はオランダの午前中からお昼過ぎくらいまではコーチングセッションやお打ち合わせをし、14時か15時以降くらいからは新しい学びや探求・執筆、そして散歩をしたり絵を描いたりといった、自分をととのえる時間に使うという暮らしをしています。
コーチングを学びコーチになってから8年、フリーランスになってから丸5年が経ち、その間、紆余曲折はありましたが(そのあたりはまた書きますね!)きらびやかではないけれど心地いいと思える暮らしをできるようになりました。
ちなみに私のストレングスの上位5つは
・最上志向
・ポジティブ
・着想
・学習欲
・個別化
です。
良いところを見つけてさらに高めていくこと、そのために学びと実践と工夫をしていくこと、一人一人に合った形でサービスを提供していくことが大好きです。
一方で、人との競争や何か大きなことを達成することには興味がありません。社会的な評価を受けることや、ステータスとなる物を所有することにも興味がありません。効率やスピードを重視することも苦手です。
なので、「ものすごく稼ぎたい!」とか、「人から認められたい!」「とにかく速く目標を達成していきたい」という方には、これから紹介する考え方や方法はマッチしないかもしれません。
「何となく資質が似ているかもなー」「強みは全然違うけど、共感する!」という方はぜひ読み進めていただければと思います。
2. 型のある時代から、型のない時代へ
「これからの時代」に好きな場所で心地よく生きていけるコーチになるために、「これまで」はどんな時代だったのか、そして「これから」はどんな時代になっていくのかについても簡単に触れておきます。
近年、組織開発や人材育成の分野で活用されている考え方の一つに「インテグラル理論」というものがあります。これはアメリカの思想家であるケン・ウィルバーが提唱している考え方で、世界の捉え方を提案したものです。
▼インテグラル理論についての入門書はこちら▼
▼さらに詳しく学びたい方はこちら▼
インテグラル理論は、同じように組織開発の分野されている「ティール組織」の考え方のベースとなった理論でもあります。
理論の詳しい解説は割愛しますが、インテグラル理論を元に人間の進化の過程を辿ると、これまでは秩序や規範・階層・合理性などが重視されてきた社会だったものが、これからはより多様性や非階層的な有機性が重視される社会になっていくということが、予想されます。
実際に、働き方や暮らし方、パートナーシップをはじめとした生き方と、その根底にある価値観が多様になっていることを実感している方も多いのではないでしょうか。
今の時代を表現する「VUCA」という言葉も、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)を表しています。
3. HowよりもWhyを学べ
では、そんな社会において、コーチとしてさらに成長をしたい人やこれからコーチになりたい人は何を学んでいけばいいのか…
ということをおすすめします。
①最適な方法論(How)は変わる
例えば、主に企業内で活用されるコーチングの中に「3分間コーチング」というものがあります。「オフィス内で顔を合わせるちょっとした時間でもコーチングに活用しましょう」という考え方です。
しかしもし、リモートワークがもっと増えたらどうでしょう。「ちょっと立ち話」のようなシチュエーション自体が生まれなくなってしまいます。
また、現在一般的にはコーチングは、対面とオンラインがあり、それぞれの特徴や強みがあるとされていますが、例えば、今後、テクノロジーの発展によって、今はオンラインではやりにくいとされていることもできるようになるかもしれません。
*これを書いた後にまさに世界が一気にオンラインに向かい、「立ち話」が本当にできなくなってしまいました…。
②扱うテーマ(What)も変わる
これまでは、コーチングでは大きくは「ビジネスコーチング」と「ライフコーチング」と呼ばれる分類がありました。個人的には、ビジネスコーチングはライフコーチングの一部ではないかと今は思っているのですが、特にリーダーシップの発揮や組織運営・経営などに特化したテーマを扱うのがビジネスコーチングだと言われています。
企業の中で企業哲学や行動規範に沿った活動をしていくことを重視するのであれば、扱うのはビジネスに特化した内容が適していたかもしれません。しかし、個人の価値観も組織の在り方も変化してきています。
これからもさらに変化を続けるでしょう。そんな中、扱うテーマや目指すものも、どんどんと多様になっていくことが予想されます。
③人間としての根本的なメカニズム(Why)は応用範囲が広い
そんな中でも、脳や身体の仕組みや意識の成長プロセスを知っておけば、それは様々な形で応用することができます。
人の能力が成長していくメカニズムを知っていれば能力の成長を支援することができますし、行動が生まれるメカニズムを知っていれば、行動を後押しすることができます。
コーチは、上手くいく方法を直接教える存在ではありませんが、人間のメカニズムを知っておけば、相手が上手くいくことを効果的に後押しをすることができるし、「なぜそうするのか」を知っておけば、やり方を変えたり、他のテーマに応用したりすることもできるのです。
私もフリーランスになってからは、コーチングスキルよりも心理学や脳科学・認知科学・成人発達理論等を多く学んできていますが、それが、「いきた人間と向き合うこと」を強く後押ししていると感じます。
4. Whyの根底にある人間観まで掘り下げる
これまで様々な流派の手法や考え方、その土台となる理論を学んできて感じるのは、理論の土台となっている人間観まで掘り下げるのが大事だということです。
例えば精神科医のフロイトは人の行動には原因があると考え、心理学者のアドラーは人の行動には目的があると考えていました。
また、西洋と東洋では人間観が大きく違っていて、それが西洋医学と東洋医学の考え方の違いに現れています。
手法の違いの根本には、人間に対する考え方の違いがあることもありますが、一方で、手法が違うけれど根本にある考え方は共通しているということもあります。
考え方の土台となるのは、その手法を提唱している人の人間観や人間哲学、そしてそのさらに土台となっているのはその人の生まれ育った国の歴史や宗教、また個人的な体験などです。
手法の土台にある理論、そしてさらにその土台にある人間観や宗教観などまで辿ることができれば、それを自分の人間観と照らし合わせて、採用するかしないか、どんな風に活用するのかを決めていくことができます。
コーチングスクールやセミナーを渡り歩きたくさんの資格を持っている方や特定のメソッドについて教えるということはできてもそれ以外のことはできないという方は、手法だけを学び続けていることが多いように思います。
表面的なやり方だけを学んでいるから、それを応用することができなかったり、もっともっと有効な手法があるように思えてしまうんですね。
理論の土台になっている考え方を学ぶことや自分自身が持っている人間観や信念を掘り下げることなしに手法だけを学んでいるとスクールや資格のジプシーになってしまいます。
5. 健やかにコーチを続けていくために専門性を身につける
ここまでコーチとして成長していくためにどんな学びを深めていけばいいかをご紹介してきました。
改めてあなたは、どんなコーチになりたいですか?
なりたいコーチ像は人それぞれだと思いますが、私は「健やかにコーチを続けていけること」が一番大切だと考えています。
私は想像してみてください。
プロのコーチになれたとして…
「コーチングはたくさんしているけれど何だか疲れている」という状態になっていたらどうですか?「心から支援したいと思っているわけではないクライアントさんとセッションをしている」「自分の持ち味を生かしたコーチングができていないと感じる」ということが続いたらどうでしょうか?
たとえ海外に暮らしたとしても、心身が健やかでなければ幸せだと感じられないし、長くその生活を続けていくこともできないのではと思います。
実際、私は企業でコーチを始めてから1年経ったときに、アレルギー性の喘息を発症し、咳が止まらなくなるということがありました。ストレスと睡眠不足が原因と言われ、「どんなに好きなことでも、身体を壊しては続けられないんだ」ということを実感しました。(会社も仕事も大好きだったのですが、大好きがゆえに頑張りすぎてしまっていました。)
では、どうしたら健やかにコーチを続けていくことができるのか。
それは、「専門性を身につけること」だと私は考えています。
「コーチは教えるわけじゃないから、どんなテーマでも対応できるんじゃないの?」と思われるかもしれません。
確かに大きくはそうです。
しかし、実際には、人それぞれ、得意不得意があります。テーマによって興味の深さも違います。
得意なことや興味があることに集中した方がコーチとしてのパフォーマンスは格段に上がり、クライアントにもさらに貢献することができます。
そして、コーチを選ぶ側の視点に立っても、専門領域や得意なことが明確な方が選びやすい(選ばれやすい)というメリットもあります。
もしあなたが、豚骨ラーメンを食べたいとして(すみません、私が福岡出身なので、個人的な好みのたとえです笑)、「うちは豚骨ラーメンしかないけど、このラーメンに自信があります!」という店の豚骨ラーメンと、「うちは、ラーメン色々あります」という店の豚骨ラーメン、どちらを選ぶでしょうか?
「豚骨ラーメンだけにしたらお客さんが減るかも」と思われるかもしれませんが、どんなニッチな分野でも、それを必要としている人は実は割といるので大丈夫です。
実際に、得意な領域を明確にしそれを打ち出すようになってからも、「そのテーマに取り組みたいです」という方は減らず、むしろクライアントが取り組みたいテーマと私が専門とする領域が合致しているので、セッションの満足度も、さらに高い評価をいただくようになりました。
クライアントにとってもコーチにとっても、人生の貴重な時間。曖昧な看板をかけて、「時間と手間はかかるけれど結局不毛な時間に終わってしまった」となったらもったいないですよね。
ちなみに、私の専門領域は「深い内省を通じた自己探究」です。その結果、「自分とつながり、自分を超える」ということをサポートしています。自分自身を知り、同時に他者を知る、そして自分を世界に開いていく。対話を通じてそんな道のりをご一緒しています。
6. 健やかにコーチを続けていくためのスキルアッププロセス
では、自分の専門性を明確にしていくにはどうしたらいいか?
次に、健やかにコーチを続けていくために必要な具体的なスキルアップのプロセスをご紹介します。
おそらくこれまでだと
①コーチングスクールで学ぶ
②資格を取る
③実践する (スクールによっては実践がマストになっているところも)
という流れが一般的だったのではと思います。
しかし、今は、コーチングを実践するにあたって必要なスキルや理論に関する知識のほとんどは、書籍などから情報を得ることができます。
また、多様性が高まる社会においては、決まった型を膨大なお金と時間をかけて習得することのメリットはあまりないでしょう。
とは言え、「守破離」という言葉があるように、まずは型を体得するということも大切です。なので、自分がいいなと思う考え方やコーチにフォーカスをして、そこから学ぶということから始めるのがいいのではと思います。もしスクールで学ぶとすると、自分なりのコーチングのメソッドを確立しているコーチが直接関わってくれるスクールがいいでしょう。
個人的には特にアナザーヒストリーというコーチングスクールの宮越大樹(みやこしだいじゅ)コーチの公開しているYouTubeチャンネルは、無料でこんなに公開しているのだと驚くほど、内容が充実しているので学びの教材としておすすめです。
私はこのスクールで学んだわけでも、宮越コーチと面識があるわけでも何でもないのですが笑
一方で自分の信念や価値観などに関しては、どんなに自分の外側を探しても答えはありません。
コーチングスクールで学ぶメリットがあるとすると、コーチングを学ぶ過程で、まず自分自身がしっかりと自分に向き合うことができるという点でしょうか。
裏を返せば、もし、「好きな場所で心地よく生きていけるコーチになる」ということを目的とするなら、コーチングをスキルとして学ぶだけのスクールや、数時間や数日の講座を受けて資格がもらえるスクールで学ぶ意味はほぼないのではと思います。
7. コーチングスクールやコーチ選びのポイント
では、コーチングスクールやコーチを選ぶポイントは何でしょうか?
①スキルやメソッドの土台となっている考え方の出所が言語化されている
これは、のちのちあなたが自分らしいスタイルのコーチングを作っていくにあたって重要です。
例えば先ほどご紹介したアナザーヒストリーでは、アドラー心理学やNLP、カールロジャースの考え方などが土台となっていることが紹介されています。また、宮越コーチ自身がどんな経験や想いのもとにコーチングを学びはじめ、どんなことを信じているかと言うこともよくお話をされています。
(繰り返しになりますが、私はアナザーヒストリーとは全く関係がありませんが、考え方やスタンスが素敵だなあと思っているのでご紹介しています)
Whyがちゃんと分かっていれば、Howを自分でアレンジすることができますが、方法論だけ学ぶと、「その方法しかできないコーチ」になってしまいます。
コーチングスクールやコーチ選びで迷ったときはぜひ、どんな考え方が基になっているか、なぜそれを選んでいるかを運営者に聞いてみてください。
②コーチングを受けることと、コーチングをすることが組み込まれている
すでに書いたように、自分の専門分野や独自のスタイルをつくっていくためには、自分自身と深く向き合っていく必要があります。
また、実践なしにコーチングが上達することはありません。
スクールを選ぶときは、コーチングを受けることとコーチングをすることが組み込まれているかを確認しましょう。
また、当然ながら、自分がコーチングを受けるコーチがコーチをつけているかや、どのくらい自分自身と深く向き合い続けているかも聞いてみましょう。
③アプローチがアップデートし続けられている
社会の状況が変化し、考え方、生き方が多様になっていく中で、どうしたらクライアントに対してより良い後押しができるかということもどんどんと変化しています。人間に関する様々な研究もされ続けています。
必ずしも新しい手法を取り入れるのが最適とは限りませんが、どのようにアプローチをアップデートしてるかということもスクールやコーチ選ぶ基準にするといいでしょう。
AIの開発などでも日本は周回遅れと言われていますが、特に日本語空間で得られる情報というのは後発的なものが多いため、日本語だけで情報を得ているスクールやコーチは考え方がアップデートされていない可能性があります。
*コーチを依頼する前にコーチに聞くべき質問について、こちらの記事でまとめています。
8. プロのコーチになるにあたって一番大切なこと
これからの時代に、好きな場所で心地よく生きていけるコーチになるためにおすすめの、コーチングスキルアップの方法をご紹介してきましたがいかがでしたか?
HowよりもWhyが大事
ということをお伝えしましたが、一番大切なのは、
です。
あなたが何者かである必要はありません。
何者になる必要もありません。
あなたにとって、何が喜びで、何が幸せで、何が美しさなのか。
そんな風に感じているあなたは、どんな存在なのか。
どんな風に生きていたいのか。
コーチとして生きるということは、自分自身を探求し続けるということ。
せっかくなので、あなたらしく、あなたの旅を楽しんでくださいね。
a w a i 佐藤 草
Illustrated by HISAKO ONO
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