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図鑑の力~図鑑vs.ネット検索、その本質的な違いとは~

 日経電子版の記事【「進化する図鑑」人気沸騰】は、改めてネット時代における『書籍』の立ち位置について考えさせてくれます。



 そもそも、一般的に、特定の事物について調べたい時、最初に当たるのは総覧的な情報源だと言えます。関係する情報がまとめてあり、全体を見渡せるようになった情報システムの中から、探している情報を見付けだす訳です。そうやって、特定の事物についての概略を知ってから、必要に応じてさらに専門的な情報源に当たる、というステップを踏むことになります。

 このような『総覧的な情報システム』の構成要素は、まず、個々の事物に関する名称・科学的に正確な図版(写真・絵)・解説であり、そして、検索しやすく工夫された配列であると考えられます。

▶『総覧的情報システム』
 =個別情報(名称+図版+解説)+配列



 そこで、アナログな『総覧的情報システム』の代表である『図鑑』デジタルな『総覧的情報システム』の代表である『ネット検索』を、この方程式に基づいて紐解いてみると、その内容的な違いは『解説』と『配列』にあると思われるのです。

▶『図鑑』と『ネット検索』の内容的な違い

(1)『図鑑』が優位な『解説』
  ① 斬新な切り口で解説できる。
   ⇨『ネット検索』では必ずしも斬新な解説がヒットする訳ではない。
  ② 個性的なテーマ(分野・話題)に特化して解説できる。
   ⇨『ネット検索』では、キーワードが分からなければ、個性的な
    テーマまで絞り込むのは難しい。そもそも、『個性的な話題』が
    何であるか分からなければ検索できない。
  ③ 見過ごされてきた事実・知られざる事実・専門的に掘り下げた事実
   を解説できる。
   ⇨『ネット検索』では、そのような事実はヒットしないかも
    知れない。そもそも『知られざる事実』が何であるか分からな
    ければ検索できない。
  ④ ジャンル横断的な解説ができる。
   ⇨『ネット検索』では、例えばある事物を経済的側面と科学的側面
    から解説した情報を検索しようとしても、キーワードが分からな
    ければ難しい。
  ⑤ 読み物的な解説ができる。
   ⇨『ネット検索』では、必ずしも読み物的な解説がヒットする訳では
    ない。
  ⑥ 偽書でもなければ、フェイクというのは考えにくい。
   ⇨『ネット検索』では、フェイク(ニュース)の可能性がないとは
    言い切れない。

(2)『ネット検索』が優位な『配列』
    『ネット検索』では、読者(ユーザー)は、情報の配列について
   気にする必要はない。
キーワードさえ分かれば、検索エンジンに
   よっても違うが、『AND検索』、『完全一致検索』など検索演算子
   を使ってスピーディーに検索できる
。ただし、内容(解説)さえ
   問わなければ。 



 このように、同じ『総覧的情報システム』であっても、その内容に大きな違いがあるのは、『図鑑』と『ネット検索』では本質的な違いがあるからだと考えられます。それは、『図鑑』が主体的・能動的に集めた情報であるのに対して、『ネット検索』が客体的・受動的に集まってきた情報である、という事です。

 つまり、『図鑑』の持つ力は、何と言っても、それが著者(編者)による『創作』だということなのです。もちろん、『創作』と言っても、それは小説などの場合の創作とは違います。科学的に正確な記述を個性的な手法で行う、という意味です。

 ネット時代の『書籍』の立ち位置は、著者がいて、図版なども含めた個性的な記述がある、という点に尽きると思います。それは、書籍とAIの融合が進んでも変わらないでしょう。



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