復権するプロダクト~レコードは何故蘇ったか?~
日経電子版の記事【レコード復権、若者つかむ 10年で生産枚数11倍に】は、文字通りV字回復するかの勢いのレコードに関する興味深いリポートです。
絶滅の危機かと思われていたレコードの復権の裏には何があるのか、何がユーザーの心に刺さっているのか、結局は顧客体験価値の問題に帰結すると思われます。そこで、改めて、レコード・CD・ストリーミングの体験価値を整理してみると――
▶体験価値の対比
(1)レコードの体験価値
① アナログ音源特有の音質
② 音楽を聴くための一連の作業(=レコードを掛ける)そのものの
アナログな体験
③ アートとしての大きなジャケット
(2)CDの体験価値
① 雑味(雑音)のないクリアな音質
② 簡単な操作性(選曲・繰り返し、など)
③ 携帯性(携帯プレーヤー・カーステレオ、など)
④ レコードと比べて保管スペースが狭くて良い
⑤ 小さいながら花開くCDジャケットのアート
(3)ストリーミング
① 高品位な音質
② 抜群の操作性・ユーザビリティ(デイリーミックス・聞き放題
など)
③ スマホで聴ける携帯性
④ 所有より使用
⑤ 保管スペースが不要
この対比を見ると、①音質・操作性・携帯性・省スペースの4点が、テクノロジーの進歩と共に飛躍的に向上し、その土俵でCDはストリーミングに勝てなかった事、さらには、②コト消費の進行にともなってダウンロードからストリーミングへと目的型の音楽鑑賞からムード(気分)型の音楽鑑賞への変化が起き、CDを購入⇨所有するという消費行動が衰退していった事がうかがえます。
ここで短絡的に考えると、CDに圧勝したストリーミングがレコードに負ける訳がない、となりそうですが、実際には『レコードvs.ストリーミング』の構造には、『CDvs.ストリーミング』の時にはなかった比較要素、『アナログ(音源)の独自性』と『アートとしてのジャケット』という決定的な武器が装備されていて、その本質的な魅力が、レコードのストリーミングに対する優位性、レコードの復権を支えている事が分かります。
一度衰退してしまったものにも、それ特有の魅力はあった訳で、時代の変わり目(今回の事例ではCDの衰退とストリーミングの興隆という時代の潮目)にあって、虎視眈々と復権の時を待っていたのだ、と言えそうです。
(追記:ストリーミングについては、下記の拙稿でも考察しています。)
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