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「親であり、夫婦であること」を両立させるとはどういうことか?

「妻との関係がおかしくなったのは、子どもが生まれてからでした」

妻との関係をこじらせたほとんどの方がそう言います。いわゆる産後クライシスです。

妊娠・出産児に仕掛けられた「妻の恨み」という時限爆弾が、ついに爆発したのです。

妊娠、出産、育児を経て、夫への恨みが時限爆弾の針を着実に進めることは統計からも明らかになっています。

米国の研究者ベルスキーとケリーの調査によると、出産を機に夫婦関係が悪化した人は50%に達しており、国連調査でも、結婚から4年以内の離婚がもっとも多いことがわかっています。

1947年から1989年までの間は、結婚4年以内の離婚がピーク。
2003年から2012年の間も、結婚4年以内がピーク

ぼくに相談をされた方のほとんどは、未就学児や小学生低学年の子どもを育児中であり、ちょうど産後に仕掛けられた妻の時限爆弾が爆発するタイミングでした。

このタイミングの女性の多くは、経済的な問題により離婚を選ばず、婚外恋愛を望むケースが多いです。

もしくは、子どもの成長に沿ってキャリアを少しづつ前に進め、来るべき離婚の準備を用意周到に進める方もいます。

なぜ、家族に幸せを運んできてくれるはずの子どもの誕生が、夫婦を引き裂くのか?

そこには、「夫婦としての発達課題」の問題が潜んでいました。

乳幼児を育てる段階の夫婦の発達課題

「夫婦・カップルのためのアサーション」では、乳幼児を育てる段階の夫婦の発達課題として、次の二つが挙げられています。

親としての役割を身につけること。

子育てをしつつ、夫婦の絆を保つこと。

これは親としての意識を作り上げる2本の大木のようなものです。これらの大樹がしっかりと地に根を張り、空高く枝を広げることができれば、立派な親だと言えるでしょう。

ですが、この2本の木は親になる不安という霧に覆われており、見つけることが難しいのも事実です。

妻が「二人が親になる」という苗木を一生懸命育てようとしているのに、夫が土に手をつけることすらしない場合、二人の間には大きな亀裂が生まれます。

ぼくも最初の出産ではそうでした。

では、一つづつ見ていきましょう。これは思ったよりも難しい課題です。

親としての役割とは?

「親としての役割」とあらためて言われると戸惑ってしまいますよね。

これは家事と育児に大きく分けることができます。

家事をどう分担するか?

子どもにどういった教育を授けるか?

子どもにどのように愛情を与えるか?

子どもの自己肯定感をどのように育てるか?

夫婦になり、他人同士が暮らすだけでも意見の食い違いが起こるのに、そこにもう一人の人間が生まれることで、さらに事態をややこしくさせます。

しかも、そのもう一人は誰よりも大切な我が子ですから、必死になりますよね。

前回までの記事を読んでいただければわかるように、「子育ての価値観」をすり合わせるには、「夫婦のアイデンティティ」を作る必要があり、その前に二人が「本当の親密さ」を手にいれる必要があります。

夫婦関係が悪化した方の多くは、「親密さ」を「なんでも言うことを聞くこと」や「相手と同化すること」と勘違いしていたり、「夫婦のアイデンティティ構築」を「妥協や我慢」の産物だと捉えていました。

ぼくにもそういった時期があり、自分の意見を押し殺したり、反対に押し通したこともあります。

当たり前ですが、それがいい結果を生んだことはありません。無理に伸ばした意見はアスファルトを破壊する木の根のように、二人の関係を破壊します。

夫婦は価値観が違っていて当たり前、お互いの違いや価値観を受け止め合い、理解し合い、子育てを前へと進めるためには、話し合いが大切です。

とはいえ、そんなこと知ってるよ。それができないから困っているんだとも言いたくなりますよね。

では、なぜできないのか?

それは、これが単純な子育ての話ではないからです。

親としての自覚が持てず、いつまでも自己実現を追い求めていたり。

子育てに熱中するあまり、夫婦の絆を作ることがおろそかになっていたり。

こういった「自己実現の追求」「親という枠組みに収まりすぎる」問題という雑草が二人の思考に葉を広げ、話し合いに枝を張り巡らせ、二人が身動きを取れなくなっているケースが多かったです。

特に男性は、キャリア追求がアイデンティティと密接に結びついていることが多く、家事育児に関わることで仕事上の成長が遅れ、キャリアが後退することに「アイデンティティの危機」を感じている傾向があります。

妻の心身へのケアより、仕事上の成長と成功を優先した結果、夫婦関係をこじらせてしまった男性を何人も見てきました。

ぼくもそうでした。今では自分のアイデンティティを、ワークライフとしての夫婦関係研究、親であること、夫婦であることのミックスのなかで見出しましたが、つい最近まで迷いの霧の中にいました。

女性の場合、出産によるキャリアの中断、そして子育てによるキャリア後退によってアイデンティティを喪失し、夫とは夫婦の絆を作れず、唯一残されたアイデンティティである「母親であること」へと、自分を追い込んでいきます。

それはまるで、すべての枝葉を刈り取られ、雪が降り積もる極寒の地に取り残された一本の枯れ木のように、寒々しく孤独に満ちたものです。

子育てをしつつ、夫婦の絆を保つこととは?

次は、乳幼児を育てる段階の二つ目の発達課題、「子育てをしつつ、夫婦の絆を保つこと」について考えてみましょう。

その前に、そもそも「夫婦の絆」って何を指すんでしょうね?わかるようでわからないですよね。

自分の価値観と妻の価値観がぶつかることもあるけれど、お互いの違いを受け止め合い、自分たちの答えを作るなかで生まれる親密性。

ぼくは夫婦の絆をそう定義しています。

夫婦の絆とは二人の親密性のことであり、その親密性があるからこそ、自分のことも相手のことも大切にできる。

枯れ木は簡単に折れてしまうけど、瑞々しさを保つ柳の枝はしなやかに風に揺れることができます。

時には、夫婦のどちらかがうつ気味になったり、家族の誰かが病気になったり、子どもが不登校になったり、いじめ問題が起こることだってある。

そんな中でも二人が協力して家族という旅を続けていけるかどうかは、親密性の存在の有無にかかっているのです。

子育ての葛藤をめぐって関係性が悪化する夫婦には、親密性が存在しません。

あなたが間違っている。私が正しい。あなたは私の意見を聞くべきだ。あなたは私のようになるべきだ。

そんな思考がシダ植物のように脳にびっしりと張り巡らされ、相手を受け入れようとする隙がまったくありません。

なぜなのか?

関係性が悪化した夫婦の多くは、「夫婦の絆」を作る「努力」をしていません。

結婚を決意する。結婚する。子どもが生まれる。親になる。

この流れには何の努力も要らず、山から流れる川が海へと注がれるように、勝手に流れていくと信じていた男性が多い。

ですが、「婚姻関係」は恋愛や妥協など、どんな形で締結されたものであっても、二人が「親密な関係性」になることを保証してはくれないのです。

「自分も相手も大切にする」ためには、自分のアイデンティティをしっかりと持ちつつ、相手を心理的に尊重しながらも自分と同一視しない配慮が必要です。

これが自然にできるわけがないんです。

多くの人は、結婚しても、子どもが生まれても、アイデンティティの確立をめぐってフラついているし、つい相手に自分と同じ考えをして欲しいと望んでしまいます。

ぼくだってそうです。今も昔もずっと努力をし続けています。

夫婦の親密性を作り上げ、二人の絆を築くには努力が必要なのです。

親としての役割を身につけること。

子育てをしつつ、夫婦の絆を保つこと。

これらの大樹を、二人の心に根付かせるための努力が。

自己効力感によってアイデンティティという根を伸ばし、余計な枝葉を刈るように相手への感情と言葉を整え、大樹の下にたたずむ子どもたちが濡れないよう、愛着という葉をお互いに広げ、嵐でも倒れることがないよう、深く伸ばした根をお互いをケアするように密接に絡ませる。

妻から嫌われた多くの男性、そして最初の出産時のぼくにも欠けていたもの、それは「夫婦は努力しないとパートナーになれないという認識」でした。



ーーあとがきーー

こないだ、小三の長男次男が習い事のメンバーと三泊四日の合宿に行ったんですが、こんなにも長い期間、彼らと離れたのは子どもが生まれて以来だったんです。

彼らを集合場所に送り届けるまでは、(久々にゆっくりできるな、ふっふっふ)とニヤニヤしていたんですが、いざ、彼らを習い事の先生に預けた途端、急に寂しくなっちゃったんです。

まだ見れていないNetflixの映画を見ようかなとか、妻と外食に行こうかなとか、ワクワクしていたので、自分でもびっくりするほどの心境の変化でした。

家に帰ると、シーンと静まり返っていて、夜になっても4歳の三男しかいないのでものすごく静かで、ぜんっぜん落ち着かなかったんですよね。

三日目にはちょっと慣れてきたけど、(早く帰ってきて欲しいな)なんて思い始めてる自分にびっくりしました。

ただ、今はもう彼ら帰ってきてるんですが、めっちゃ騒がしいんですよね。いつも通りケンカはするし、お風呂にはなかなか入りたがらないし、布団に入ってもおしゃべりしててなかなか寝ないし。

騒がしい日々が帰ってきて、ちょっと疲れはするけど、やっぱり、ぼくはこれくらいがちょうどいいみたいです。

あと2週間あまりの夏休みを、一緒に楽しもうと思います。


ーーお知らせーー

この記事は「男性向け夫婦関係改善本」のための下書きです。

下の目次の(←ここ)とある箇所の記事です。記事を書き足していき、最後は一冊の本にします。

本が完成するまで記事を書き続けますので、応援していただけると嬉しいです。

また、夫婦関係研究へのサポートも募集しています。いただいたサポートはポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」運営費用、取材費などに使わせていただきます。

月末にメンバー限定で活動報告記事をお送りさせていただいています。

ぼくと同じく「世の中から夫婦関係に悩む人をなくしたい」と思ってくださる方は、サポートをよろしくお願いします。


第一部:なぜ、あなたは妻から嫌われたのか?

◾️第一章:恋から愛への移行不具合

恋のメカニズム
○産後の妻の変化への無理解
産後の妻の変化1:オキシトシン分泌によるガルガル期突入
産後の妻の変化2:肉体と精神がズタボロになる産褥期
産後の妻の変化3:産後女性の性欲減少メカニズム
産後の妻の変化4:圧倒的な社会的孤立
産後の妻の変化5:失われたアインデンティティ
絆を構築する共同体験の欠如

◾️第二章:無から愛の生成不良

○「Who you are? 」ではなく「What you have ?」であなたが選ばれた場合

◾️第三章:夫への恨みの生成過程

○未完に終わった夫婦の発達課題
結婚前に獲得すべきだった「本当の親密さ」とは?
未確立な夫婦のアイデンティティ
・親になること、夫婦になること(←ここ)
○非主張的自己表現の呪いから抜け出せない妻
○攻撃的自己表現によりエスカレートするネガティブループ
○妻の不信感を募らせる、夫の非自己開示
○時限爆弾となる「夫への恨み」
○増加する”婚外恋愛”願望

◾️第四章:セックスに関する無理解

○産後にセックスに興味を失う理由
○生理周期に伴う性欲の変化
○性に関する夫婦の話し合いの不在

◾️第五章:現状把握と事態の受け入れ

○妻の恨みの根幹を知る
○思い込みにとらわれず質問を恐れない
○客観的に自分たちを見つめる

◾️第六章:妻から嫌われる3つのパターン

○家庭より仕事を優先してきた
○家族の幸せより自己実現を優先させてきた
○妻への思いやりより自己の欲望を優先させてきた

第二部:では、どうするか?

◾️第一章:皿洗いをする前にやるべきこと

○夫婦の絆の土台となる”親密性”
○「受け止めてもらえる」安心感を妻に与える
○柔らかな感情の掘り起こし

◾️第ニ章:愛着の形成が二人の絆を作る

○柔らかな感情の共有
○相互理解という快感
○夫婦に恋愛は必要ない
○ドーパミンではなく、オキシトシンが愛を作る

◾️第三章:自分も相手も大切にするアサーティブコミュニケーション

→詳細考え中

◾️第四章:セルフコンパッションで関係改善の努力を継続

→詳細考え中

◾️第五章:セックスは愛の最終形態

○セックスは手段、目的は親密性への触れ合い
○性の話し合いを恐れない

第三部:フェニックスマンの特徴

○夫婦関係を改善できる男性の特徴とは?


それでは、また!

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