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「金と顔の交換」結婚の成れの果て。

「あいつは俺の金を、俺はあいつの顔を選んだんです」

妻から嫌われている彼は、すんなりとそう言った。

「子どもの教育費のために彼を選んだの」

夫を嫌い、不倫を重ねる彼女は、当たり前のようにそう言った。

まるで、ボタンを押した瞬間に飲み物が出てくる自動販売機のように、彼らは簡単に認めた。

「金と顔の交換」による結婚を。

あなたがなにものなのか(What you are?)ではなく、あなたが何を持っているか(What you have?)で選んだ結婚はどこに行き着くのか?

ぼくが聞いている限り、幸せな結論には至っていない。

雑誌ゼクシィーの表紙のような生活はいつまで経ってもやってこず、経済的には困っていないものの、愛情がまったく存在せず、水が一滴たりとも存在しない乾き切った砂漠で暮らしているかのようだ。

「What you have?」という動機によって妻から選ばれた場合、あなたはなぜ妻から嫌われるのだろうか?

一緒に考えてみよう。

経済力は無いよりあった方がいい、けれど……。


子どもが欲しい。

せっかく生まれた子どもには良い教育をほどこしたい。

そのために金が要る。

ならば、稼ぎのいい男と結婚した方がいい。

そう考えるのは自然なことだと思う。

将来生まれる子どもにより良い養育と教育を与えるためには、金は無いよりあった方がいい。

ぼくも3人の男の子たちを育てていますが、これからやってくる高校大学の学費を考えるとめまいがするほどです。

まだ小学生ですが習いごとにもそこそこのお金がかかり、「子どものため」という気持ちと「財布の中身」がいつもシーソーゲームをしています。

水泳、英語、書道、プログラミングスクール、絵画教室、学習塾。

いくつもの習いごとを始めたりやめたりしましたが、いくら子どもがやりたいと言っても、お金がなくてはどの習いごとも気軽には始められません。

事実、習いごと費用と家計をにらめっこした結果、諦めたこともあります。

また、妻と出会ったばかりの頃のぼくは今の半分以下の収入で、おまけに元カノに騙された借金や、呉服屋時代に自分の着物を買った際のローンまでありました。

大学の奨学金を返済し終えたのはつい最近です。

子どもへの教育にかけられる経済力は、無いよりあった方がいい。

確かにそうだと思う。

だけど、それだけの理由で結婚相手を選んだ女性の話を聞くと、必ずしも幸せな結婚生活を歩んでいるとは思えないのです。

そして、経済力によって選ばれた男性もまた、なぜか妻から忌み嫌われるようになります。

望んでいたものが手に入ったはずなのになぜ?

そこには二つの理由が存在します。

お互いをモノ扱いする夫婦


どうせ結婚するなら美人がいい。

もし、あなたがそう思っていたのなら、あなたの妻があなたの「財布」と結婚したように、あなたは妻の「顔」と結婚したのかもしれない。

「金と顔の交換」

その言葉は相手を人として認識せず、感情の存在しないモノとして扱う冷淡な空気をまとっています。

金も顔も、人間性の核ではなく、その人を構成する要素の一つでしかなく、パートナーを金と顔でしか認識しない夫婦は、相手の人間性を受け止めようとはしません。

なぜなのか?

その人の人間性を求めていたわけではないからです。

求めていたものはたったひとつ。

女は豊かな経済力、男は美しい顔。

オプションでしかないそれらを、みずからの欲望達成のために選んだ。

永遠に金を吐き出し続けるATM。

セックスの相手をする美しい人形。

ATMはただお金を出し続ければいい。私が結婚したのはあなたの経済力であって、あなた自身ではない。

美しい人形はただセックスの相手をしていればいい、おれはお前の顔と体と結婚したのであって、お前の不安定な心と結婚したわけではない。

余計なこと(あなたの感情)は言わないでくれ。

わたしの自己実現(輝かしい子どもの未来、性的欲望の解消)だけに集中させてくれ。

パートナーをモノ扱いするということは、究極的にはそういうことです。

しかし、結婚生活は金とセックスだけで成り立つ単純なものではなく、いくつもの葛藤が存在します。

二人の他人が暮らすだけでも意見の食い違いがあるのに、子どもが生まれると家事育児における役割分担、キャリアの実現、そして果たせぬ自己実現をめぐり、夫婦が葛藤の嵐の中に放り出されます。

そんな時に相手を人として尊重せず、ATMや美しい人形として扱っていると葛藤を乗り越えることはとてもできません。

夫婦としての甘えも加味され、パートナーの心の中にある悩みを受け止めることができず、また自分自身も安心してパートナーに悩みを打ち明けることができなくなります。

壊れた電子レンジを捨てるように、自分の欲望を達成してくれないパートナーの感情を粗大ゴミのように簡単に切り捨てるのです。

次に、What you have?(夫の経済力など)で女性が夫を選んだ場合、なぜ夫を忌み嫌うようになるのか、そのメカニズムを愛着の視点から説明します。

なぜ、稼いでいても妻から嫌われるのか?

1907年、デュッセルドルフの孤児院で奇跡が起きました。

わずか4年前までは75%の孤児たちが施設で亡くなっていたのに、死亡率が17%まで減少したのです。

劣悪な医療環境の改善だけが原因ではなく、看護師たちによる些細な行動がきっかけでした。子どもたちとの接触時間の増加と抱擁などの愛撫です。

接触と愛撫が看護原則に含まれることによって、死亡率が減少するだけでなく、体重が増え身長も伸び、体質的な大きな改善も見られるようになったのです。

愛着が極端に足りないことで、脳からの生長ホルモン分泌が阻害されていたと考えられています。

それは「情緒的飢餓」と呼ばれるようになり、1950年代、イギリスの精神分析家ジョン・ボウルビィによって、愛着理論としてまとめられます。

ボウルビィは親子関係における愛着に注目していましたが、愛着の重要性は夫婦にも当てはまります。

臨床歴25年の心理士、上遠文恵さんは著者でこう書かれています。

このように、心理学の世界では親子関係も夫婦関係も「愛着関係」と呼ばれる性質を持っています。親子関係では基本的に、親が子供に安心できる情緒的な繋がりを与える、という意味で一方向の愛着関係と言えますが、夫婦間ではお互いにそれを与え合うという意味で双方向の愛着関係と考えられています。

幸福な夫婦のためのマニュアル: 臨床心理士が読み解くパパママ世代の喧嘩の仕組みと夫婦円満のコツ

夫婦はお互いに「情緒的なつながり」を与え合う、双方向の愛着関係である。

では「情緒的なつながり」とは何か?

再び上遠さんの著作から引用します。

私たちがパートナーに対して求めていることとは、自分を支えて欲しい、気持ちを理解して受け止めてほしい、自分というひとりの人間をありのままで受け入れてほしいということです。

自分を支えて欲しい、ありのままの私を受け止めて欲しい。

その感情を与え合うことが夫婦の愛情を作り上げるならば、妻から「金を吐き出すATM」として見られている限り、その夫婦に愛は生まれないでしょう。

そして、妻のことをセックスできる人形として扱っている限り、妻の感情を受け止めることができず、夫婦間に情緒的な絆を作ることは不可能です。

また、「金と顔の交換結婚」をした方たちの多くは、産後クライシスを経験しています。

産後に夫が育児に関わらない。家事育児は女の仕事だと無意識に考えており、女性からのヘルプにも耳を貸さない。

この状況が妻の夫への恨みを加速させます。

なぜか?

夫が家事育児に無関心であり、周りにも助けてもらえるネットワークがない場合、妻は次第に孤立化していきます。

コロナ禍では、乳幼児を抱えてまったく家から出なくなる女性もいました。

仮にママ友がいたとしても、パートナーとの心理的距離が開いている場合、大きな孤独感を抱えていくことになります。

そして、恐ろしいことに、人は孤独になると人間への感受性を鈍化させるのです。

以下は「人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか」からの引用です。

人間は脳内報酬(ドーパミン、オキシトシンなど)がないと生きられないため、報酬を得られない場合、人間関係から離れるようになり、非人間化するような活動に脳が引き込まれやすくなる。

人間を人間と見なさなくなる。それは戦場において敵を「モノ」として破壊(殺害)することにも通じる。テロリストが女性や子どもを平気で殺害できるのもそう。

人間関係から報酬を得られなくなると、人は他者を人間と見なさなくなり、人間への感受性を下げ、物質的なモノから報酬を得るようになるという。

ネズミの「依存」に関する実験がわかりやすい。

ネズミがたった一匹しかいないケージ、たくさんのネズミがおり遊び道具もある天国のようなケージ。

共通点は、どちらのゲージにも依存性薬物が含まれた水があるという一点。

実験の結果、たった一匹しかネズミがいないゲージでは、そのネズミは薬物依存症になり、天国のようなゲージで暮らすネズミたちは依存症にならなかったという。

これは夫婦関係にもそのまま当てはまります。

夫からの愛着という報酬が得られないことで、妻は夫を人間として見なさなくなり、金や物質的なモノからの報酬を求めるようになる。

過去の恨みも重なり、夫への無関心をさらに加速させ、仕事や育児、他の男性との恋愛関係、もしくはアイドルとの疑似恋愛に依存するようになる。

夫を経済力で選び、不倫するようになった女性たちはこう言う。

「わたしの一体なにが悪いの?」

その裏には、夫婦関係からの脳内報酬を得ることができず、バランスを取るためにモノからの報酬を求め、依存症となった女性たちの哀しい心理が隠されているのです。

そして、顔で女性を選んだ男性たちも、妻からの愛着という脳内報酬が得られないために、不倫や仕事へと報酬を求めるようになっていくのです。



ーーあとがきーー

かなり後味の悪い終わり方ですが、今後の記事では解決方法を書きますので、それまでお付き合いいただければと思います。

記事後半で参考にした書籍「人を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わさせるのか」がめちゃくちゃ面白い本でした……!

SNS依存症気味の人は読むと怖くなると思います。自分の感情が自分で作り出したものではなく、SNS操作によって他者にコントロールされたものであることがよくわかりますから。

逆に言えば、ナラティブ(物語性を持つ語り)の力を使って、良い影響を多くの人に与えることができるわけで、noteなど何らかの発信をしている人にはきっと参考になるはず。

ポッドキャスト「アツの夫婦関係学ラジオ」を更新しました。

今回は婚外恋愛について取り上げました。視聴&フォローいただけると嬉しいです。

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ーーお知らせーー

この記事は「男性向け夫婦関係改善本」のための下書きです。

下の目次の(←ここ)とある箇所の記事です。記事を書き足していき、最後は一冊の本にします。

本が完成するまで記事を書き続けますので、応援していただけると嬉しいです。

第一部:なぜ、あなたは妻から嫌われたのか?

◾️第一章:恋から愛への移行不具合

恋のメカニズム
○産後の妻の変化への無理解
産後の妻の変化1:オキシトシン分泌によるガルガル期突入
産後の妻の変化2:肉体と精神がズタボロになる産褥期
産後の妻の変化3:産後女性の性欲減少メカニズム
産後の妻の変化4:圧倒的な社会的孤立
産後の妻の変化5:失われたアインデンティティ
絆を構築する共同体験の欠如

◾️第二章:無から愛の生成不良

○「Who you are? 」ではなく「What you have ?」であなたが選ばれた場合(←ここ)

◾️第三章:夫への恨みの生成過程

○未完に終わった夫婦の発達課題
○非主張的自己表現の呪いから抜け出せない妻
○攻撃的自己表現によりエスカレートするネガティブループ
○妻の不信感を募らせる、夫の非自己開示
○時限爆弾となる「夫への恨み」
○増加する”婚外恋愛”願望

◾️第四章:セックスに関する無理解

○産後にセックスに興味を失う理由
○生理周期に伴う性欲の変化
○性に関する夫婦の話し合いの不在

◾️第五章:現状把握と事態の受け入れ

○妻の恨みの根幹を知る
○思い込みにとらわれず質問を恐れない
○客観的に自分たちを見つめる

◾️第六章:妻から嫌われる3つのパターン

○家庭より仕事を優先してきた
○家族の幸せより自己実現を優先させてきた
○妻への思いやりより自己の欲望を優先させてきた

第二部:では、どうするか?

◾️第一章:皿洗いをする前にやるべきこと

○夫婦の絆の土台となる”親密性”
○「受け止めてもらえる」安心感を妻に与える
○柔らかな感情の掘り起こし

◾️第ニ章:愛着の形成が二人の絆を作る

○柔らかな感情の共有
○相互理解という快感
○夫婦に恋愛は必要ない
○ドーパミンではなく、オキシトシンが愛を作る

◾️第三章:自分も相手も大切にするアサーティブコミュニケーション

→詳細考え中

◾️第四章:セルフコンパッションで関係改善の努力を継続

→詳細考え中

◾️第五章:セックスは愛の最終形態

○セックスは手段、目的は親密性への触れ合い
○性の話し合いを恐れない

第三部:フェニックスマンの特徴

○夫婦関係を改善できる男性の特徴とは?


それでは、また!

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