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愛とは何か?

ウサギ仙人(ウ仙)に「愛とは何か?」という哲学的な質問をぶつけてみた亀子であったが、

ウ仙「おぬしは愛と恋は何が違うか知っておるか?」

亀子「愛と恋ですか?結婚するか付き合うかですかね?」

ウ仙「実は、恋は下心しかなくて、愛は心が中心にあるんじゃ」

亀子「へぇ~。なるほど」

ウ仙「いや冗談ぢゃ(笑)今の話は漢字のことじゃ。恋には下に心があるじゃろ。愛には真ん中に心が書いてあるじゃろ」

亀子「ふざけてないで、まじめに教えてくださいよ」

ウ仙「わしもよく結婚式のスピーチや乾杯の挨拶を頼まれることが多くてな。結婚式は硬い雰囲気で始まるから、スピーチの冒頭に『皆さんは愛と恋は何が違うかご存知ですか?』と始めておいて、『恋は下心しかなくて、愛は心が中心にあるんです・・・それは漢字を書いたときの話ですが』と言えば、笑いが起きて雰囲気が軟らかくなるのじゃよ」

亀子「それは私も使わせてもらおうかと思いますけど・・・スピーチはそれで終われないですよね」

ウ仙「この後

恋は相手のいいところだけを見て好きになること

愛は相手のいいところも悪いところも含めてすべてを受け入れること

ですと続けるんじゃ。恋人の時はいいところばかりで楽しかったけど、結婚したら相手の悪いところも受け入れないといけないですよと。二人の愛の力で困難を乗り越えていってくださいねと締めくくれば、初めの『ご両家の皆様もおめでとうございます。お座りください』などの儀式的なセリフを入れても、3分以内にスピーチは終了して拍手大喝采なんじゃよ」

亀子「愛はいいところも悪いところも含めてすべて受け入れるですか?」

ウ仙「そうじゃ。そういう意味では一番難しいのは夫婦関係かもな。他人の悪いところを受け入れるのはそう簡単ではない。前回の話と矛盾してるようじゃが、子どもは自分がお腹を痛めて産んだ子じゃから、まだ悪いことを受け入れるのはやりやすいじゃろう」

亀子「前回の取り違えた娘二人ともに母親と認められた女性は、血がつながっていない子も愛したのはすごいですね」

ウ仙「いずれにしても、夫婦であっても親子であっても、『愛とは相手の悪いところを全面的に受け入れること』なのじゃよ」

亀子「なるほど」

ウ仙「ところでおぬしは、幕末の志士といえば誰を想像するかのぅ?」

亀子「私は坂本龍馬が好きですね。『竜馬がゆく』の愛読者ですから」

ウ仙「ではおぬしの好きな坂本龍馬が『小さく 打てば小さく響き、大きく打てば大きく響く』と評した人物は誰かわかるか?」

亀子「西郷隆盛ですね。せごどんも好きですよ」

ウ仙「その通りじゃ。西郷は偉人の中でも『西郷さん』とさん付けで呼ばれる珍しい人物じゃのぅ」

亀子「西郷さんがどうかしたんですか?」

ウ仙「今でこそ成人式は20歳、最近では18歳になったが、満年齢の18~20歳で行うようになったが、坂本龍馬や西郷隆盛が活躍していた幕末の時代は、元服、つまり大人になる儀式は数えの15歳に行っておった」

亀子「数えの15歳ということは、今の満年齢で言えば14歳くらい、中学2年生くらいで成人を迎えていたんですね」

ウ仙「しかも貧しい家庭は今みたいに生活保護などなく、元服すれば自分の力で生きていかなければならなかったので、多くは人斬り(殺人請負)かスリなど犯罪まがいの仕事に就くしかできなかった」

亀子「厳しい時代だったんですね」

ウ仙「スリの世界にも大物小物がおるんじゃ。スリの小物は、高齢者や酔っ払いなど弱い人間からスリをするんじゃ。スリの世界で大物のスリというのは、代官や庄屋など強い人間からスリをするんじゃ」

亀子「どの世界でもランク付けがあるんですね」

ウ仙「金太というスリがおってな。金太は大物のスリになりたくて、江戸の町を歩いておったら、かの有名な西郷隆盛が歩いているのを見つけてな、『俺も大物のスリになるために西郷から盗みをしよう』ということで、西郷に体当たりをして、ぶつかった瞬間に西郷のふところから懐中時計を盗んだんじゃ」

懐中時計

亀子「こんなの売ってたんですか?」

ウ仙「いや当時は鎖国してたわけじゃから、こんな西洋物は市中には売っておらん。薩摩藩・島津の殿様から恩賞で頂いたものじゃ」

亀子「そうですよね。こんなの転売したら、一発でバレそう」

ウ仙「西郷は単独で行動するわけはなく、常に近くに薩摩藩の仲間が一緒にいるわけじゃから、とうぜん金太がスリをした瞬間を仲間が見ておったんじゃ」

亀子「どうなったんですか?」

ウ仙「西郷の仲間が金太を捕まえてな。『おい!手に持っている物を見せてみろ』と言ったら、懐中時計が出てきたんじゃ」

亀子「まさか切り捨て御免ですか?」

ウ仙「西郷の仲間はそれを西郷に見せて『あんた、こいつに時計を盗まれたの気づいちょるか』と訊ねたんじゃ」

亀子「・・・(ドキドキ)」

ウ仙「そしたら西郷はその時計を見て、『これは俺の時計によう似とるけど、俺の時計じゃねぇな』と答えたんじゃ」

亀子「そんなの売ってないから、西郷さんの物に間違いないんじゃないですか?」

ウ仙「そうなんじゃが、西郷は『自分の物じゃない』と突っぱねた。そして仲間たちに命じて『おい、お前ら有り金を全部出せ』と言ったんじゃ」

亀子「まさか?」

ウ仙「仲間たちは『この人は何を血迷ったことを言ってるんじゃろ』と思いながら渋々と金を出した。そしたら西郷は金太の前に仲間から集めた金を置いて『おい、この時計を俺に売ってくれねぇか』と言い出したんじゃ」

亀子「ガビーン。仲間の皆さんは止めなかったのですか?」

ウ仙「金を出した仲間たちは口々に『西郷さん、なんで盗人に金を払うんじゃ』と文句を言った。しかし西郷は薩摩藩の大将じゃから、仲間たちに『お前たちは黙っとれ』と言って、金太に時計を売るように打診したんじゃ」

亀子「金太は大喜びでしたか」

ウ仙「いや金を取りに行ったら、斬られるのではないかとビクビクしながら、金を取りに行ったんじゃ」

亀子「そりゃ、そうですよね」

ウ仙「金を手にした金太の耳元で西郷はこう言ったんじゃ。『ええか、二度とこんなことをするなよ。そしてその金でスリから足を洗え』と」

亀子「神対応ですね」

ウ仙「西郷はすべての状況を最初から分かったうえで、金太を逃がそうととぼけておっただけなんじゃ」

亀子「さすが敬天愛人」

ウ仙「懐中時計を盗まれたというのは西郷にとっては都合の悪いことじゃ。しかしそれを承知の上ですべてを受け入れ、しかも恩情をかけたのじゃ」

亀子「これこそ器の大きい人のなせる業ですね」

ウ仙「誰もがこんなことをできるわけではないじゃろ。しかし夫婦であっても、親子であっても、自分にとって都合の悪いことが起こっても、それをすべて受け入れるのが愛ということなんじゃ」

亀子「まさに西郷さんは敬天愛人というだけあって愛の人だったわけですね」

ウ仙「まさに

子どもが親に求めている愛とは、親にとって都合の悪いことも全面的に受け入れるということ

なんじゃよ。西郷を見習って、子どもが都合を悪いことをしても、受け入れてやってほしいんじゃ」

亀子「私にもできるかな」

ウ仙「おぬしならきっとできるじゃろ。少なくともわしは信じておるぞ」

亀子はこう言われて自信が湧いてきた。
亀子は自分のレベルが上がったことを実感できた。

また亀子は『竜馬がゆく』をブックオフに売って、『西郷隆盛』の本を買おうと決意したのであった(つづく)



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