「当事者が直面する就職活動の現実と、多様性の幻想」

　精神障害や発達障害を抱えた人々にとって、就職活動は非常に大きな壁となります。先日、精神障害を持つ方が「精神病院に通っている」と告白することで、面接で高確率に落とされるという現実を示した投稿がありました。また、それに対して発達障害の当事者からも「障害を隠して働かざるを得ない」という苦しい現状が語られていました。今回は、こうしたやりとりを通じて、障害者が直面する厳しい就職活動の現実と、多様性を掲げる社会の矛盾について考えてみたいと思います。

　精神障害を抱える人が、面接で自らの病気や治療状況をオープンにすることは、その後の採用結果に直接影響を与えることが少なくありません。「私は精神病院に通っています」と告白することで、面接が高確率で落とされてしまうという現実は、精神障害者が抱える深刻な差別と偏見を物語っています。多くの企業が「多様性の受け入れ」を掲げていますが、実際には精神障害者に対して否定的な姿勢をとることがまだ多いと感じます。言葉では「多様性」を謳っても、実際の雇用現場ではその言葉は単なる建前に過ぎない場合が多いと言えます。

　一方、発達障害者においても、就職活動における障害公表の問題は深刻です。ある発達障害当事者は、「就活に不利になるので発達障害を隠して入社した人が職場でトラブルを起こす事例がある」という本の内容に触れつつ、障害を隠して働くしかない現状について言及していました。彼が示した問題点は、障害者雇用でさえ敬遠される現状では、クローズで働かざるを得ないというジレンマです。

　このジレンマは、障害をオープンにすれば職場でのサポートを得られる可能性がある反面、就職のチャンス自体が大幅に減少してしまうことを意味しています。しかし、障害を隠して働く場合、特性が原因で職場でトラブルを引き起こし、その結果、自分や職場が困難な状況に陥るリスクが高まります。このような選択肢の狭さに直面する中で、多くの障害者は自己開示と隠すことのどちらを選んでも、苦しむ結果になりがちです。

　このやりとりが示しているのは、社会が掲げる「多様性」という理念と、実際に障害者が直面する現実との大きなギャップです。企業や社会は「多様性を受け入れる」と言いながら、精神障害や発達障害を抱えた人がその特性を正直に告白した瞬間に、その言葉が嘘であることが露呈してしまいます。結局、多様性を掲げながらも、実際には障害者を「面倒な存在」や「戦力にならない存在」として見ているのではないでしょうか。

　障害者は「自己開示」を奨励されることが多いですが、その開示による現実的な結果は必ずしもポジティブではありません。むしろ、公表したことが原因で不採用となり、チャンスを失うことが一般的です。逆に、障害を隠して働けば、適切なサポートを受けられず、最終的には職場でトラブルを引き起こしてしまうことが多いのです。このような矛盾した状況において、障害者は社会で安定した職を得ることがますます困難になっていきます。

　この問題を解決するためには困難を伴いますが、まず社会全体が精神障害や発達障害に対する理解に対する偏見が変わる必要があるでしょう。そして、障害者が自分の特性を安心して開示できるような職場環境が整備される必要があります。企業は、障害者に対して「自己開示」を奨励するだけでなく、その後のサポート体制を充実させる責任が必要になってきます。障害者がクローズで働かなくても、自分の特性を活かしながら安定して働ける社会が実現すれば、多様性は単なる理想ではなく、現実のものとなるでしょう。

　精神障害者や発達障害者が就職活動において直面する厳しい現実は、多様性を掲げる社会の矛盾を浮き彫りにしています。障害を隠すか公表するか、そのどちらの選択肢も厳しい状況に追い込まれる中で、障害者が安心して働ける環境を考えることが、今の社会に求められているでしょう。

　多様性は決して単なる言葉や理想ではなく、実際の行動によって実現される必要があるものだと思います。社会全体が障害に対する理解を深め、柔軟な働き方を提供することで、障害者も自分の特性を活かしながら働ける未来を共に作り出すことが大切ではないでしょうか。